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2・壊れ行く日常と融合
21・自分がAGを始めたきっかけ
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まるで舞うように両方の剣で敵を切りつける、Jackこと神楽優羽。
自分がAGを始めたきっかけのことを考えながら。
──女は弱い。
ゲームの中なら対等でいられたからだ。
現実世界では肉体は女だが、ゲームの中でのアバターの性は男。
リアルスキャン型のアバターではあるが性別を変更することは可能。
確か自分と同じくAGをプレイしている、リアルでも友人の『音羽薫』も性別は変更していたはずだ。彼女と飛ぶべきか彼と呼ぶべきか迷うが、音羽は現実世界では肉体は男性だ。
AGのアバターは女性をチョイスしている。
二人が友人となったのは互いにTGBTQに含まれる存在だったことが大きい。
音羽は自分の性別に違和感を抱いている。
ただし、どちらにもだ。肉体に関しては女性の方がしっくりくるようだが。それでも『女性』かと言われると、それもちがう気がするのだとか。
神楽は完全に、自分の性を違うものだと感じていた。
性転換は見た目が変わるだけ。性が変わるわけじゃない。確かに男性ホルモンを投与すれば、女性よりも筋肉はつきやすくなることだろう。
『優羽はどっちになりたいの?』
以前付き合っていた恋人の女性は、神楽にそう質問した。
それは性を失うか、女で居続けるか。そういう選択しかないのに。
性転換したところで、性は得られない。
──つまり一生子供を産めなくなり、子供も作れない。
ただそれだけだ。
自分は肉体が女だ。
男として彼女を愛したいと願ったところで、子のいる家庭は作ることが出来ない。
『それでも家族には、なれるよ』
果たしてそうだろうか。
所詮、人には種族温存という本能がある。種族を繁栄させ、種を絶やさないようにするという本能が。
女はより良いDNAを求め、男は沢山種を残そうとする。
性からあぶれた自分はいつか、そこからはじき出されるであろう。
『どうしてダメなの?』
同性婚が可能になろうが、性差別がなくなろうが、人の苦悩は変わらない。彼女には、種を繁栄させるという本能が残っている。
──女として、彼女を愛してもそれは変わらないのだ。
彼女を愛していたからこそ、別れを選んだ。
身勝手と言われようが、彼女の幸せは『性の連鎖』からあぶれない『正しき道』だと思ったから。
──いや、そんなの言い訳だな。
いずれ傷つく未来を恐れて突き放したんだ。
ゲームの中は良い。そんなことを考えなくても済む。やりこめばそれなりに強くなるし、リアルの性によって力が変動するなどということもない。対等だ。
性について考えなくて済む。
現実逃避だと言われても、自分にはここが必要だった。
『Jack』
そして”指定保護認定者”が出現した、あの日。
自分はこのAGというバーチャルリアリティーゲームの中の秩序を守るAIであるマザーに召集された。
『あなたには、Conciliatorになって欲しいの』
『わたしにか?』
神楽は正直この時、まったく乗り気ではなかった。
そんな自分は、
『あなた、久隆を知っているわよね』
とマザーに穏やかな声で質問される。
”久隆”というプレイヤーは一部の間ではとても有名だった。
それと言うのも、とても変わっているからだ。
彼はまだ、AGをはじめてから数か月しか経っていないのに、人助けばかりしていて、ちっともレベルの上がらないプレイヤーだったのである。
しかし神楽が彼を知っているのはそう言う理由からではない。
久隆には自分も助けられたことがあるからだ。
『彼をfirstに任命したの』
───久隆がfirst?
『興味、出て来たでしょう?』
『やらせてもらおうか』
自分は彼を尊敬していた。
関われるチャンスと言うならば、喜んで受けようと思った。
神楽はこのことがきっかけで、とうの昔に失われたと思われた心の輝きを取り戻していたのだった。
自分がAGを始めたきっかけのことを考えながら。
──女は弱い。
ゲームの中なら対等でいられたからだ。
現実世界では肉体は女だが、ゲームの中でのアバターの性は男。
リアルスキャン型のアバターではあるが性別を変更することは可能。
確か自分と同じくAGをプレイしている、リアルでも友人の『音羽薫』も性別は変更していたはずだ。彼女と飛ぶべきか彼と呼ぶべきか迷うが、音羽は現実世界では肉体は男性だ。
AGのアバターは女性をチョイスしている。
二人が友人となったのは互いにTGBTQに含まれる存在だったことが大きい。
音羽は自分の性別に違和感を抱いている。
ただし、どちらにもだ。肉体に関しては女性の方がしっくりくるようだが。それでも『女性』かと言われると、それもちがう気がするのだとか。
神楽は完全に、自分の性を違うものだと感じていた。
性転換は見た目が変わるだけ。性が変わるわけじゃない。確かに男性ホルモンを投与すれば、女性よりも筋肉はつきやすくなることだろう。
『優羽はどっちになりたいの?』
以前付き合っていた恋人の女性は、神楽にそう質問した。
それは性を失うか、女で居続けるか。そういう選択しかないのに。
性転換したところで、性は得られない。
──つまり一生子供を産めなくなり、子供も作れない。
ただそれだけだ。
自分は肉体が女だ。
男として彼女を愛したいと願ったところで、子のいる家庭は作ることが出来ない。
『それでも家族には、なれるよ』
果たしてそうだろうか。
所詮、人には種族温存という本能がある。種族を繁栄させ、種を絶やさないようにするという本能が。
女はより良いDNAを求め、男は沢山種を残そうとする。
性からあぶれた自分はいつか、そこからはじき出されるであろう。
『どうしてダメなの?』
同性婚が可能になろうが、性差別がなくなろうが、人の苦悩は変わらない。彼女には、種を繁栄させるという本能が残っている。
──女として、彼女を愛してもそれは変わらないのだ。
彼女を愛していたからこそ、別れを選んだ。
身勝手と言われようが、彼女の幸せは『性の連鎖』からあぶれない『正しき道』だと思ったから。
──いや、そんなの言い訳だな。
いずれ傷つく未来を恐れて突き放したんだ。
ゲームの中は良い。そんなことを考えなくても済む。やりこめばそれなりに強くなるし、リアルの性によって力が変動するなどということもない。対等だ。
性について考えなくて済む。
現実逃避だと言われても、自分にはここが必要だった。
『Jack』
そして”指定保護認定者”が出現した、あの日。
自分はこのAGというバーチャルリアリティーゲームの中の秩序を守るAIであるマザーに召集された。
『あなたには、Conciliatorになって欲しいの』
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神楽は正直この時、まったく乗り気ではなかった。
そんな自分は、
『あなた、久隆を知っているわよね』
とマザーに穏やかな声で質問される。
”久隆”というプレイヤーは一部の間ではとても有名だった。
それと言うのも、とても変わっているからだ。
彼はまだ、AGをはじめてから数か月しか経っていないのに、人助けばかりしていて、ちっともレベルの上がらないプレイヤーだったのである。
しかし神楽が彼を知っているのはそう言う理由からではない。
久隆には自分も助けられたことがあるからだ。
『彼をfirstに任命したの』
───久隆がfirst?
『興味、出て来たでしょう?』
『やらせてもらおうか』
自分は彼を尊敬していた。
関われるチャンスと言うならば、喜んで受けようと思った。
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