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22──二人だけの時間【実弟】
2 何気ない日常の変化
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「それは?」
目に飛び込んできたのは綺麗な深い青。
優人が平田の手元を覗き込みながら尋ねれば、彼はクスリと笑う。
「これは絵本じゃないよ。図鑑」
図鑑とは図や写真を用いて説明した書物のことを言う。確かにイラストのようではあるが、図鑑と聞いて想像する表紙とはだいぶかけ離れていた。
「何の図鑑?」
綺麗でしょとでも言うように中を開いて見せながら、
「想像の街の説明のようなものかな」
と説明してくれる。
優人は渡された図鑑を眺めてみた。
ページ数は図鑑と比べると少ないが、お洒落でワクワクするような内容であった。
「これはカレンダーとかも出ているみたいだな」
傍らのソファーに腰かけるとスマホで検索をかけた平田。
「カレンダーもいろんなものが出ているよな。お洒落なのからアートなもの。もちろん能率重視のシンプルなものもでてる」
「そうだね」
平田の隣に腰かけると近くを通った女子学生がチラリとこちらを見る。優人は持っていた図鑑を平田に渡しながら、彼女にニコリと微笑みかけた。
「おい。アイドルじゃないんだから、ファンサしなくていいんだよ」
すかさず平田にお叱りを受ける。
「別にファンサービスのつもりはないよ」
優人は軽く両手を広げて肩を竦めた。”そもそも相手がファンだとは限らないし”と付け加えて。
「まあ、そうだな。ジャラジャラしてるから珍しかっただけかも知れないし」
「ん、その可能性は否定しない」
平田の毒舌は今に始まったことではない。
そして優人が注目を浴びるのもいつものことである。
「にしても、ホント会わないよな」
「俺と平田が?」
「は?」
平田の反応を無視して”確かにファッションの系統は違うね”と続ければ、『違う』と言われた。
「だから違うねって言ってるじゃない」
「そうじゃなくて、”あわない”はそっちの意味じゃない。佳奈さんと阿貴さんのこと」
「あの二人が合うことは無いよ」
何言ってんのと言う態度でそう答えると、彼は眉を寄せる。
「だから、Fitではなくmeetの方」
「めんどくさいな。はじめからそう言えよ」
すると彼は、
「We go to the same university as them, but we don't run into them.」
と言う。
「I agree.」
「What did you say?」
「そうだねって言ったんだよ」
優人の姉である佳奈は現在同じ大学に通う三年。阿貴は四年である。構内で会わないのは不思議だと彼は言いたいようだが、学部が違えば利用する部屋も変わってくる。しかも大学部の構内は広い。
学食などを利用すれば会う可能性もあるだろうが、優人たちは学食をほとんど利用しない。佳奈も恐らく昼は外で済ます派だろうが、利用する店が違えばなかなか会うことはないと思われた。
「うちの大学は近くに飲食店も多いし、車OKだしね」
「それは分かるが、一度も会わないって」
「不思議はないよ」
”近所の人にだって毎日会うわけじゃないでしょ”と言えば、平田はそうだねと言うように軽く首を動かした。
優人がソファーの肘置きに頬杖をつき、チラリと平田に視線を移したところで先ほどの女子学生が再びこちらの方にやってくる。先ほどと違うのはその手にメッセージカードのようなものを持っていること。恐らく名刺だろう。
こちらに近づいてきた彼女はそれを優人に差し出すが、片手を軽く前に出して”ごめん”と言うようにそれを制する。
隣の平田は優人のその動作に意外そうな表情を浮かべた。
「なんだよ、珍しいな」
「ファンサしなくていいって言ったのは平田でしょ」
彼女が諦めて去っていくと平田にそう言われ、優人は少しムッとしながら返答する。
「なに、今まで断らずに受け取ってたのはファンサービスだったわけ」
「別にそういうわけじゃないけどさ」
最近、恋人とは何かについて考える機会が増えた。そのせいか、今まで何気なく行ってきた行動に疑問を感じることが多くなったのである。
それは平田からすれば『成長したな』ということなのであろう。
そう思うと複雑な心境になる優人であった。
目に飛び込んできたのは綺麗な深い青。
優人が平田の手元を覗き込みながら尋ねれば、彼はクスリと笑う。
「これは絵本じゃないよ。図鑑」
図鑑とは図や写真を用いて説明した書物のことを言う。確かにイラストのようではあるが、図鑑と聞いて想像する表紙とはだいぶかけ離れていた。
「何の図鑑?」
綺麗でしょとでも言うように中を開いて見せながら、
「想像の街の説明のようなものかな」
と説明してくれる。
優人は渡された図鑑を眺めてみた。
ページ数は図鑑と比べると少ないが、お洒落でワクワクするような内容であった。
「これはカレンダーとかも出ているみたいだな」
傍らのソファーに腰かけるとスマホで検索をかけた平田。
「カレンダーもいろんなものが出ているよな。お洒落なのからアートなもの。もちろん能率重視のシンプルなものもでてる」
「そうだね」
平田の隣に腰かけると近くを通った女子学生がチラリとこちらを見る。優人は持っていた図鑑を平田に渡しながら、彼女にニコリと微笑みかけた。
「おい。アイドルじゃないんだから、ファンサしなくていいんだよ」
すかさず平田にお叱りを受ける。
「別にファンサービスのつもりはないよ」
優人は軽く両手を広げて肩を竦めた。”そもそも相手がファンだとは限らないし”と付け加えて。
「まあ、そうだな。ジャラジャラしてるから珍しかっただけかも知れないし」
「ん、その可能性は否定しない」
平田の毒舌は今に始まったことではない。
そして優人が注目を浴びるのもいつものことである。
「にしても、ホント会わないよな」
「俺と平田が?」
「は?」
平田の反応を無視して”確かにファッションの系統は違うね”と続ければ、『違う』と言われた。
「だから違うねって言ってるじゃない」
「そうじゃなくて、”あわない”はそっちの意味じゃない。佳奈さんと阿貴さんのこと」
「あの二人が合うことは無いよ」
何言ってんのと言う態度でそう答えると、彼は眉を寄せる。
「だから、Fitではなくmeetの方」
「めんどくさいな。はじめからそう言えよ」
すると彼は、
「We go to the same university as them, but we don't run into them.」
と言う。
「I agree.」
「What did you say?」
「そうだねって言ったんだよ」
優人の姉である佳奈は現在同じ大学に通う三年。阿貴は四年である。構内で会わないのは不思議だと彼は言いたいようだが、学部が違えば利用する部屋も変わってくる。しかも大学部の構内は広い。
学食などを利用すれば会う可能性もあるだろうが、優人たちは学食をほとんど利用しない。佳奈も恐らく昼は外で済ます派だろうが、利用する店が違えばなかなか会うことはないと思われた。
「うちの大学は近くに飲食店も多いし、車OKだしね」
「それは分かるが、一度も会わないって」
「不思議はないよ」
”近所の人にだって毎日会うわけじゃないでしょ”と言えば、平田はそうだねと言うように軽く首を動かした。
優人がソファーの肘置きに頬杖をつき、チラリと平田に視線を移したところで先ほどの女子学生が再びこちらの方にやってくる。先ほどと違うのはその手にメッセージカードのようなものを持っていること。恐らく名刺だろう。
こちらに近づいてきた彼女はそれを優人に差し出すが、片手を軽く前に出して”ごめん”と言うようにそれを制する。
隣の平田は優人のその動作に意外そうな表情を浮かべた。
「なんだよ、珍しいな」
「ファンサしなくていいって言ったのは平田でしょ」
彼女が諦めて去っていくと平田にそう言われ、優人は少しムッとしながら返答する。
「なに、今まで断らずに受け取ってたのはファンサービスだったわけ」
「別にそういうわけじゃないけどさ」
最近、恋人とは何かについて考える機会が増えた。そのせいか、今まで何気なく行ってきた行動に疑問を感じることが多くなったのである。
それは平田からすれば『成長したな』ということなのであろう。
そう思うと複雑な心境になる優人であった。
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