上 下
105 / 114
21──彼と彼の義兄【平田】

3 優人の不満

しおりを挟む
「お前にはほとほと呆れたぞ」
「何を今更」
 平田の言葉にやれやれと肩を竦める優人。二人は連れ立って店を出る。なんとか彼の暴挙を食い止め、購入したアクセサリーはブレスレット数点。それでも十分すぎると思っていた。
「しかし、優人はそれだけモテるのになんでK学のランキングに載ったことがないんだ?」
 車に乗り込みながら彼に疑問を投げかける平田。マンションまではすぐそこだ。

 K学園には中等部、高等部の生徒会と大学部の学生会で運営されているK学裏掲示板というのがある。一般的には匿名で悪口を言うようなところというイメージがあるが、K学の場合は違う。
 ログインには学生番号を必要としており書き込みをするためには学生番号を利用して登録することが必要となってくる。
 とは言え、表に表示されるのは通常のSNSと等しく任意のハンドルネームやプロフィールのみ。
 紐づけされているのはトラブルがあった時の為。 
 誹謗中傷などは厳しく取り締まられている。
 もっとも、K学はお金持ちの家庭が集まる学園。裏掲示板といえども品性を失うことは稀だ。

「さあ? 歴代の先輩たちが君臨しているからじゃないの?」
 確かにモテランキングもイケメンランキングも不動の一位という者はいるが、優人を見ているとそこに食い込めないとは思えない。
「それに、俺はいわゆる外部生ってやつだし」
 K学では幼稚園から所属しているものを内部生。それ以外の生徒を外部生と呼ぶ習慣がある。
「それは関係ないだろ。だってモテランキング一位に君臨している白石先輩は外部生だぞ?」
「ん? ああ、そうだったね」
 あまり他人に興味がない優人でも彼のことは知っていた。もちろん一緒に掲示板を見たのがきっかけ。彼はOBであり、直接会ったことはないが写真を見ただけでも華やかな印象を持った。
 容姿は優れているとは思うが、それ以外にも伝説の人である。

「このまま家来る?」
「行って良いなら」
 優人の誘いに簡単に乗るのは、ダメな時は誘われないからだ。
「それは良かった」
「ん?」
 普段はそんなこと言わない。彼があえてそんなことを言うのに平田は違和感を持つ。
「和宏がクソつまらない映画ばかり観ているから、平田からも何か言ってやってよ」
「何故またそんな苦行を?」
 確か和宏と優人は映画の好みが似ていたはずだ。それなのにクソつまらないというなら何か理由があるに違いない。

「仕事関係。忖度するのも大変だな」
「ああ、なるほど。じゃあ片織さんの好み?」
「いや、社の方針だろ。あの人とはつき合い長いみたいだし、好みを知らないなんてことはないでしょ」
 いつもはなんでもOKな彼が不満を漏らす。こと和宏に関しては特に反論しない彼が、だ。
「仕事なら仕方ないだろう?」
「つまらないものを想い白いと書くことが良いことだとは思わないよ」
 優人のいうことはもっともだと思う。忖度から生まれるものなんて何もない。ともすれば信用を失い兼ねない。

 とは言えわざわざつまらないという必要もないわけだから、それを選ばないという方向に持っていくべきだろう。
「でも珍しいな。和宏さんなら意見しそうなのに」
「あのクソ社長のせいで一回仕事辞めてるからな。長いものには巻かれろとでも思ってるんじゃないの?」
 車を降りると、両手をポケットに入れ歩き出す彼。エンジンを止め鍵を車に向け車内に鍵がかかったのを音で確認すると、平田も優人に続いた。

 自分の仕事に誇りを持っていた和宏。
 例の一件ですっかり丸くなったということなのだろうか?
「再就職は肩身が狭いってことか」
「それもあるだろうけど、和宏には意欲というものを感じられない」
 以前の和宏のことを知らない平田はそれに対して何と言っていいのか分からない。今の彼にとっては優人が全てのように感じる。
 会社とは上司に従うもの。今の和宏の全てが良くないことのようには感じられなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...