上 下
104 / 114
21──彼と彼の義兄【平田】

2 それでも君は

しおりを挟む
「優人」
「ん?」
 阿貴と別れて二人は雑貨屋にいた。
 隣に立つ優人はシルバーアクセサリーを眺めている。
「買うの、それ」
「じゃらじゃらすんのも悪くないだろ?」
 車内で海外ミュージシャンのMVを見た後だ。感化されたのだろうと思う。
「それに似合ううちじゃないと」

 じゃらじゃらしていて似合うのは主に細身の白色人種ないし黒色人種だ。アジアの中でも東洋人にはいまいち似合うものではない。こと日本人は背が高くても筋肉質とは程遠く、どうにもアンバランス。顔の造りもあるだろう。
 それでも似合わないこともない年代もあるかもしれない。だが一歩間違えばただのホスト。
 白色人種や黒色人種の細身は明らかに筋肉質。日本人の言うところの貧相とは違う。

「和宏さんがなんて言うかな」
「和宏は関係ないだろ」
 優人はアクセサリーを選びながらムッとする。
「少なくとも今のファッションには似合わないぞ」
「俺にパーカーを諦めろと?」
「いや、じゃらじゃらすんのを諦めろと」
 平田の言葉に過剰反応して眉を潜める彼が可愛い。
「さては、俺がモテるのがいけ好かないのか」
「いや、優人は今でも十分モテる」
 優人と平田のやり取りを聴いていたのだろうか、近くの女子集団が笑っている。

「似合ううちにやらなくていつやるんだ」
「一生やらないという選択もある」
 真顔で答えると優人がこちらを二度見した。何を言っているんだ、という表情をしている。
「いや、俺はやるぞ」
「やめておけって」
「腹筋くらいなら割れてる」
「その程度じゃ似合わないって」
 若さとは馬鹿さだ。若者とは勘違いをして生きてる。それがいつか恥を知って黒歴史となるものだ。
「みただろ、あの筋肉を」
「俺が見ていたのはそこじゃない」
 ”筋肉質な身体”に注視していた平田と”ファッション”を眺めていた優人で意見が割れる。こんなことは日常茶飯事だ。和宏はきっと二人のこんな関係に憧れを抱いているのだろ思った。

──こんなやり取りはいつもの事。
 和宏さんはツッコミを入れるようなタイプじゃないしな。

 優人の全てを肯定してしまうような彼には土台無理な話なのだろう。一緒にいた間と言うよりは性格が一番関係しているような気がし始めている。

「いや、似合うってああいう恰好は」
「似合ったところで何か違うってなるんだよ」
 平田の冷静な返しに再び不満そうな表情を浮かべる彼。ここで食い止めなければ和宏に恨まれてしまいそうだ。

──いや、あの人ならどんな優人でもいいのだろう。

 贔屓も大概にすべきだ。そんなことを思いながらため息をついていると、いつの間にか優人は女子集団の一人に声をかけられている。
 てっきり”これが似合うと”アドバイスでも受けているのかと思ったらそうではなかった。
「ああ、うん。ありがとう」
「おい」
 優人の手元を見て額に手をやる平田。こんなことも日常茶飯事ではあるが。
「うちの先輩らしい」
「いや、そういう問題じゃないだろ」
 こういう時の優人は冷静なのか、離れていく女子集団にニコニコしながら手を振っている。その手の中にある名刺は一枚や二枚ではない。彼女たちは平田たちが通うK学園大学部の二年だと言う。

「こんなところで何モテてんだよ」
「ん?」
 貰った名刺をしまい込む彼に平田は頭痛を覚えた。
「断るって選択肢はないのか? 連絡するのかよ、それ」
「いや?」
 そう、優人はいつだってニコニコしながら連絡先を受け取っておきながら一度だって連絡を取ったことがない。ならばどうして断らないんだと怒りを感じてしまう平田。
「そうやって期待ばかり持たせるの良くないと思うぞ?」
「でもその辺でまたすれ違ったら気まずいしさ」
「断らなくても十分気まずいだろうが」
 ”そう?”と笑う彼に殴りたい気分に駆られる。自分としか行動を共にしない彼だが、こういう事が日常茶飯事だから放っておけないのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...