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20──恋人らしさとは【実弟】

5 願う幸せ

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「何調べてるんだ?」
 講義の合間の空き時間にK学園構内にある大きな図書館へ来た二人。二階建ての図書館は吹き抜けでアンティークな造りだった。
 二階にはパソコンルームがあり、自由に利用可能なPCもあるが、窓際に設置してある長いカウンターは持ち込み用の席となっていた。各席にコンセントの差し込み口があるのが特徴で、白木のカウンターがお洒落だ。
 窓からは秋色に染まった世界が広がっている。
 その一角を陣取りノートパソコンを広げた優人の背後から平田の声。
「ん? どこか出かけるのに良いところないかなと思って」
「なに、図書館まで来てデートコース調べてるわけ。青春だねえ」
 そう言って隣に腰かけた平田は小脇に数作の本を抱えていた。

「まあ、恋人を上手いことエスコートできるかどうかってのも、彼氏の技量にかかっているわけだし?」
「お手並み拝見ってわけか」
 ”何言ってんだ?”と言わないあたり、平田はもっと他のものに興味を示していると思われる。
「この図書館、いつも思うんだけどちょっと変わってるよな」
「今更言うの」
 平田は抱えていたものをカウンターの上に乗せると、チラリと天井のスピーカーを見上げながら。
「理事長がアレなんだから、何処が変わっていても不思議はないよ」
 優人は相変わらずノートパソコンのモニターを見つめながら。
 確かにこの図書館はちょっと変わっているとは思う。図書館でかかっている音楽と言えばクラシックかもしくは歌無しのオルゴール曲などが多いが、ここでかかっているのはノリの良いR&Bだ。
 図書館で音楽を流すのは雑音を消すためだと思われるがここの場合、気が散るほどではないにしても、なんとなく音楽を聴いてしまう。

「まあいいじゃない」
 ”トチ狂った替え歌とかじゃないんだし”と優人が続けると、
「まあ、それはね」
と曖昧な返事をする平田。
 あまり話を聞いてないなと思った優人はチラリと平田の手元に視線を向ける。
「何、持ってき……絵本?」
 言い終える前にその内容を知って驚く優人。
「好きなんだよ、これ」
「へえ」
 絵本のページを繰る彼の隣で、以前見たTV番組のことを思い出す。
 誕生日のプレゼントに絵本を送ると言う話だ。その本屋では絵本が大人でも喜ばれるというようなことを言っていたのである。
 それを見た兄は『お洒落だね』と言っていた。

「本か」
「うん?」
 頬杖をついてマウスを操作する優人に、絵本から顔を上げる平田。
「先日古本屋に行ったばかりだけど、お洒落な本屋はあり?」
「何、デートの話? 良いんじゃない?」
 その後、話はなんとなく理事長の事へと移る。
「平田って男もイケるんだよね、理事長とかどうなの?」
 優人の質問に平田が吹いた。
「お前ねえ。全性愛者《パンセクシャル》ってのはイケるかどうかじゃないんだよ。性別は結果論」
「ふうん」
 あんまりわかってないだろ、と言われ”まあ”と返す。

 概念的には理解してはいるが、理解できないのは全性愛者《パンセクシャル》ではなく平田のことなのだ。自分も兄も好きになった同性は互いだけ。
 だから好きになった人が好きであって、そこに性別は関係ないというのは分かっている。だが平田のことは良く知らない。その過去も恋愛遍歴も。

──俺はきっと知りたいんだ。
 何故、平田が自分を好きなのか。
 その理由を知って納得したいのだろう。

 恋愛は叶うだけが全てじゃない。そのこともよく理解しているつもりではある。しかし兄と想いが通じ、幸せを感じている自分にとっては結ばれることはやはり幸せだと思ってしまうのだ。

──好きな人を好きでいられないなら、好きになんてならない方がマシ。
 そういう気持ちもわかってはいるんだよ。

 優人はモニターに再び視線を戻すと、ぼんやりと昨夜のことを思い出す。
 ベットの中で善がる兄のことを。名前を呼ぶだけでとても嬉しそうな顔する愛しい彼のことを。
 これ以上の幸せなんてないと思えた。大切な友人に幸せになって欲しいと願うのは、やはり罪なことなのだろうか?
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