102 / 114
20──恋人らしさとは【実弟】
5 願う幸せ
しおりを挟む
「何調べてるんだ?」
講義の合間の空き時間にK学園構内にある大きな図書館へ来た二人。二階建ての図書館は吹き抜けでアンティークな造りだった。
二階にはパソコンルームがあり、自由に利用可能なPCもあるが、窓際に設置してある長いカウンターは持ち込み用の席となっていた。各席にコンセントの差し込み口があるのが特徴で、白木のカウンターがお洒落だ。
窓からは秋色に染まった世界が広がっている。
その一角を陣取りノートパソコンを広げた優人の背後から平田の声。
「ん? どこか出かけるのに良いところないかなと思って」
「なに、図書館まで来てデートコース調べてるわけ。青春だねえ」
そう言って隣に腰かけた平田は小脇に数作の本を抱えていた。
「まあ、恋人を上手いことエスコートできるかどうかってのも、彼氏の技量にかかっているわけだし?」
「お手並み拝見ってわけか」
”何言ってんだ?”と言わないあたり、平田はもっと他のものに興味を示していると思われる。
「この図書館、いつも思うんだけどちょっと変わってるよな」
「今更言うの」
平田は抱えていたものをカウンターの上に乗せると、チラリと天井のスピーカーを見上げながら。
「理事長がアレなんだから、何処が変わっていても不思議はないよ」
優人は相変わらずノートパソコンのモニターを見つめながら。
確かにこの図書館はちょっと変わっているとは思う。図書館でかかっている音楽と言えばクラシックかもしくは歌無しのオルゴール曲などが多いが、ここでかかっているのはノリの良いR&Bだ。
図書館で音楽を流すのは雑音を消すためだと思われるがここの場合、気が散るほどではないにしても、なんとなく音楽を聴いてしまう。
「まあいいじゃない」
”トチ狂った替え歌とかじゃないんだし”と優人が続けると、
「まあ、それはね」
と曖昧な返事をする平田。
あまり話を聞いてないなと思った優人はチラリと平田の手元に視線を向ける。
「何、持ってき……絵本?」
言い終える前にその内容を知って驚く優人。
「好きなんだよ、これ」
「へえ」
絵本のページを繰る彼の隣で、以前見たTV番組のことを思い出す。
誕生日のプレゼントに絵本を送ると言う話だ。その本屋では絵本が大人でも喜ばれるというようなことを言っていたのである。
それを見た兄は『お洒落だね』と言っていた。
「本か」
「うん?」
頬杖をついてマウスを操作する優人に、絵本から顔を上げる平田。
「先日古本屋に行ったばかりだけど、お洒落な本屋はあり?」
「何、デートの話? 良いんじゃない?」
その後、話はなんとなく理事長の事へと移る。
「平田って男もイケるんだよね、理事長とかどうなの?」
優人の質問に平田が吹いた。
「お前ねえ。全性愛者《パンセクシャル》ってのはイケるかどうかじゃないんだよ。性別は結果論」
「ふうん」
あんまりわかってないだろ、と言われ”まあ”と返す。
概念的には理解してはいるが、理解できないのは全性愛者《パンセクシャル》ではなく平田のことなのだ。自分も兄も好きになった同性は互いだけ。
だから好きになった人が好きであって、そこに性別は関係ないというのは分かっている。だが平田のことは良く知らない。その過去も恋愛遍歴も。
──俺はきっと知りたいんだ。
何故、平田が自分を好きなのか。
その理由を知って納得したいのだろう。
恋愛は叶うだけが全てじゃない。そのこともよく理解しているつもりではある。しかし兄と想いが通じ、幸せを感じている自分にとっては結ばれることはやはり幸せだと思ってしまうのだ。
──好きな人を好きでいられないなら、好きになんてならない方がマシ。
そういう気持ちもわかってはいるんだよ。
優人はモニターに再び視線を戻すと、ぼんやりと昨夜のことを思い出す。
ベットの中で善がる兄のことを。名前を呼ぶだけでとても嬉しそうな顔する愛しい彼のことを。
これ以上の幸せなんてないと思えた。大切な友人に幸せになって欲しいと願うのは、やはり罪なことなのだろうか?
講義の合間の空き時間にK学園構内にある大きな図書館へ来た二人。二階建ての図書館は吹き抜けでアンティークな造りだった。
二階にはパソコンルームがあり、自由に利用可能なPCもあるが、窓際に設置してある長いカウンターは持ち込み用の席となっていた。各席にコンセントの差し込み口があるのが特徴で、白木のカウンターがお洒落だ。
窓からは秋色に染まった世界が広がっている。
その一角を陣取りノートパソコンを広げた優人の背後から平田の声。
「ん? どこか出かけるのに良いところないかなと思って」
「なに、図書館まで来てデートコース調べてるわけ。青春だねえ」
そう言って隣に腰かけた平田は小脇に数作の本を抱えていた。
「まあ、恋人を上手いことエスコートできるかどうかってのも、彼氏の技量にかかっているわけだし?」
「お手並み拝見ってわけか」
”何言ってんだ?”と言わないあたり、平田はもっと他のものに興味を示していると思われる。
「この図書館、いつも思うんだけどちょっと変わってるよな」
「今更言うの」
平田は抱えていたものをカウンターの上に乗せると、チラリと天井のスピーカーを見上げながら。
「理事長がアレなんだから、何処が変わっていても不思議はないよ」
優人は相変わらずノートパソコンのモニターを見つめながら。
確かにこの図書館はちょっと変わっているとは思う。図書館でかかっている音楽と言えばクラシックかもしくは歌無しのオルゴール曲などが多いが、ここでかかっているのはノリの良いR&Bだ。
図書館で音楽を流すのは雑音を消すためだと思われるがここの場合、気が散るほどではないにしても、なんとなく音楽を聴いてしまう。
「まあいいじゃない」
”トチ狂った替え歌とかじゃないんだし”と優人が続けると、
「まあ、それはね」
と曖昧な返事をする平田。
あまり話を聞いてないなと思った優人はチラリと平田の手元に視線を向ける。
「何、持ってき……絵本?」
言い終える前にその内容を知って驚く優人。
「好きなんだよ、これ」
「へえ」
絵本のページを繰る彼の隣で、以前見たTV番組のことを思い出す。
誕生日のプレゼントに絵本を送ると言う話だ。その本屋では絵本が大人でも喜ばれるというようなことを言っていたのである。
それを見た兄は『お洒落だね』と言っていた。
「本か」
「うん?」
頬杖をついてマウスを操作する優人に、絵本から顔を上げる平田。
「先日古本屋に行ったばかりだけど、お洒落な本屋はあり?」
「何、デートの話? 良いんじゃない?」
その後、話はなんとなく理事長の事へと移る。
「平田って男もイケるんだよね、理事長とかどうなの?」
優人の質問に平田が吹いた。
「お前ねえ。全性愛者《パンセクシャル》ってのはイケるかどうかじゃないんだよ。性別は結果論」
「ふうん」
あんまりわかってないだろ、と言われ”まあ”と返す。
概念的には理解してはいるが、理解できないのは全性愛者《パンセクシャル》ではなく平田のことなのだ。自分も兄も好きになった同性は互いだけ。
だから好きになった人が好きであって、そこに性別は関係ないというのは分かっている。だが平田のことは良く知らない。その過去も恋愛遍歴も。
──俺はきっと知りたいんだ。
何故、平田が自分を好きなのか。
その理由を知って納得したいのだろう。
恋愛は叶うだけが全てじゃない。そのこともよく理解しているつもりではある。しかし兄と想いが通じ、幸せを感じている自分にとっては結ばれることはやはり幸せだと思ってしまうのだ。
──好きな人を好きでいられないなら、好きになんてならない方がマシ。
そういう気持ちもわかってはいるんだよ。
優人はモニターに再び視線を戻すと、ぼんやりと昨夜のことを思い出す。
ベットの中で善がる兄のことを。名前を呼ぶだけでとても嬉しそうな顔する愛しい彼のことを。
これ以上の幸せなんてないと思えた。大切な友人に幸せになって欲しいと願うのは、やはり罪なことなのだろうか?
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる