上 下
100 / 114
20──恋人らしさとは【実弟】

3 昼食と君

しおりを挟む
『平田も誘えばって言ってるけど?』
『和宏さんって心を許した相手には甘いよね』
 兄からの伝言を平田に伝えると彼はそんな風に言った。

「お邪魔してよかったんですか?」
「うん。いらっしゃい」
 ”いつも昼は優人と一緒に食べているんでしょ?”と言う兄の質問に頷く平田。
 優人は靴を脱ぎながら、そんな二人を眺めていた。
「カウンターでいい?」
「もちろんです」
 対面式カウンターはキッチンに対して”くの字”に設置されている。六脚の椅子を置いてはいるが詰めればもっと座れるだろう。
 対面式のキッチンカウンターの良いところは、何といっても全体が明るく広く感じる点。家具の高さが統一であり、高くなければ部屋は広く感じるものである。

「美味しそう」
 平田は流しで手を洗いながらカウンターに並んだ料理に視線を移した。
「メインディッシュは今から」
「ああ、これ」
 兄にステーキ肉を三枚買ってきてと頼まれ、二人はスーパーに寄ってから帰宅した。優人は持っていたスーパーの袋をキッチンの台に置くと、上着をリビングのソファーにかける。
「じゃあ、俺焼きましょうか」
と背後で平田の声。
「ホント? ありがとう。そこにスパイスあるから」
 優人は自分が焼く気でいたので、肩透かしを食らった気分になり苦笑いをした。兄は恐らく、平田が居づらくないように申し出を快くOKしたに違いない。大人らしい気遣いだなと思いつつ、再びキッチンへ移動する優人。

「ステーキなんて豪勢だね」
 肉を焼く良い音がする。
 優人は兄の横に腰掛けると両手を軽く合わせて笑みを浮かべた。
「今日は給料日だったから」
 遠江から多額の報酬は得ているものの、兄は贅沢を好まない。住んでいるところはそれなりに広いが、大きな出費と言えばその家賃くらいなものである。
「それでも家で食べる方が安上がりだし、自分で焼いた方が美味しいしさ」
 笑みを浮かべる兄。
 二人にとっての贅沢と言えば喫茶店通いだろうか。
 飲食料はファミレスより高いが、それは素敵な空間での時間を買うと思えば安いものだと感じる。
「それは同感ですね」
 三人分の肉を焼き終え、皿をカウンターに乗せながら平田が同意を示す。
「冷めないうちに頂こう」
 平田が席につくのを待って食事を開始した三人。
 その後、話題は来年の話へと。

「一年なんてあっという間だね」
「濃い一年だった気もするけど」
 兄の言葉にそう相槌を打つ優人。
「来年は二人とも二十歳だけれど、何かしたいこととかあるの?」
「二十歳で新たにできることって酒とたばこくらいしか思い浮かばない」
 平田の言葉に”同感だな”と零す優人。
「酒には興味があるけれど、たばこはないかな」
「たばこなんでやめた方が良いよ。身体に悪いし、税金の塊だしね。別に吸っている人をカッコイイとも思わないし」
 頬杖をつき、チラリと優人の方に視線を向けた兄。
「え、何。俺も吸わないよ?」
「灰がついている手とか繋ぎたくないよね」
 何か思うところがあるのだろうか。兄の言葉に棘を感じた優人は肩を竦めた。

「そう考えると欧米の文化って怖いですよね」
「ん?」
 平田の言葉に兄が興味を示す。
「何触ったか分からない手と握手するわけでしょ」
「ああ、そうだねえ」
 二人の話を聞きながら優人は”欧米の文かねえ”と最近視た映画のことを思い浮かべ、和訳って結構意味不明なものあるよねと思っていた。
「フレンドリーな文化ってセクハラの基準ってどうなんでしょうね?」
「日本の場合は触れない文化だから合意なく勝手に触ったらセクハラだと思うが」
 日本にはフレンドリーとセクハラをはき違えている人は多くいると思う。特に高齢男性なんかは平気で女性に触れる人が多い。男尊女卑の世の中では、立場を考えて嫌だと言えない人も多いと思われる。
「俺たちも気を付けないとね」
と笑う兄に”どちらかというとセクハラされている方だよね”とツッコみを入れる優人であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...