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18──自分を取り巻く環境【実弟】
3 彼を変えたもの
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面白いと感じない映画のレビューを書かねばならない兄を見て、優人はこんなことを思っていた。
仕事と言うのは時に自分の望まないことでもしなければならないものなのだなと。
以前からこの職に就きたいと意思を固めている場合を除いては、一度はぶち当たるだろう『やりたいこと』と『職』について。
中学や高校では一度や二度、進路について聞かれることもあるだろう。進路について問われなくなるのは大学などに行ってから。
大学にいう年齢になれば自己責任でというよりも、自ずと進路は狭まるからなのかもしれない。
中学の内は就職、高等学校ないし専門学校への進学など道がたくさんある。
バイトなどしたことのない中学生ではまだ世間知らずの部分は多い。そんな狭い世界の中、自分だけで進路を決めるのは至難の業。まだまだ手助けが必要だろう。
年齢と共にやれることは増えるし、車の免許など生活に必要なものを得られる機会は増える。それに大学ともなると、交流の幅も広がっていく。
全国各地の人と友人になれる機会もあるだろうし、その土地事を知る機会も増える。そうやって人はたくさんの情報を得て、自分の進路を決めていくのだ。だからやりたいことがないのなら大学へ進むというのは希望の道でもあると思う。
──とは言え、やりたいことで進路を決めるのか。
それとも、合う職業で決めるのか、待遇で決めるのか。
どれが自分にもっとも合うのか見極めるのは難しいよね。
やりたいことが合うとは限らないし、やりがいのある仕事と感じられるかは人それぞれ。兄のように、やりたくないこともやらねばならないのも仕事だ。
日本はそれでも恵まれている。
大学を卒業したからといって職に就けるとは限らない国もたくさんあるのだから。
日本の場合は就きたい職に就き辛いと言うだけで、万年人手不足のところなどザラにある。選ばなければ職にはありつけるということ。
──少子化の現代では、新卒者を喜んで受け入れる会社はたくさんある。
続くかどうかは別として。
「優人」
「見終わった?」
片膝を抱え考え事をしていた優人は兄から声をかけられ、顔を上げた。
「うん。優人は考え事?」
「職と言うものについて考えてた。兄さんも大変だなと思って」
「仕事ってのはお金を貰うためにすることでもあるから、時には望まれた結果を出す必要があるよね。仮に自分がそれを良しとしなくても」
自分と同じことを思っている兄に対し、少し複雑な心境になり黙ると、
「だから、職につくということは覚悟を決めることでもあると思うんだ」
と彼。
「覚悟?」
「そう、覚悟。時には白を黒と言わねばならないだろうし、NOをYESと言わねばならない時があるかもしれない」
”そんな覚悟は嫌だな”とは思うものの、それが会社と言う場所なのかもしれないと優人は思った。
「とは言ってもね。常識良識で考えてダメだと思うものはダメと言う勇気も必要だと思うよ。そういう意味の覚悟ではなくてさ」
「不正はダメだよね」
「それは会社にとってマイナスだしね。そうではなく、苦手なものでもやらなきゃならない時はあるし、つまらないものを面白いと言わなきゃならない時もあるんだよ」
遠江にプライドをへし折られた時の兄を知っている自分としては、覚悟を持って今の仕事に従事する彼を切なく感じる。
あんなことがなければきっと、今でもNOをNOと言えたのだろう。
「そういや、クソ社長から預かった書籍、そこに置いておいたけど」
「クソ社長って……」
優人の言葉に兄が笑う。
「これ、手に入りずらい書籍でさ。有難いけど……やっぱりお礼に行かないといけないよね」
”気が重いな”と言う彼の手に自分の手を添える優人。
「一緒に行こうか?」
「優人が? 変じゃない?」
「受け取ったの俺だから。別に問題はないでしょ」
優人は迷っているように見える彼にダメ押しで笑って見せたのだった。
仕事と言うのは時に自分の望まないことでもしなければならないものなのだなと。
以前からこの職に就きたいと意思を固めている場合を除いては、一度はぶち当たるだろう『やりたいこと』と『職』について。
中学や高校では一度や二度、進路について聞かれることもあるだろう。進路について問われなくなるのは大学などに行ってから。
大学にいう年齢になれば自己責任でというよりも、自ずと進路は狭まるからなのかもしれない。
中学の内は就職、高等学校ないし専門学校への進学など道がたくさんある。
バイトなどしたことのない中学生ではまだ世間知らずの部分は多い。そんな狭い世界の中、自分だけで進路を決めるのは至難の業。まだまだ手助けが必要だろう。
年齢と共にやれることは増えるし、車の免許など生活に必要なものを得られる機会は増える。それに大学ともなると、交流の幅も広がっていく。
全国各地の人と友人になれる機会もあるだろうし、その土地事を知る機会も増える。そうやって人はたくさんの情報を得て、自分の進路を決めていくのだ。だからやりたいことがないのなら大学へ進むというのは希望の道でもあると思う。
──とは言え、やりたいことで進路を決めるのか。
それとも、合う職業で決めるのか、待遇で決めるのか。
どれが自分にもっとも合うのか見極めるのは難しいよね。
やりたいことが合うとは限らないし、やりがいのある仕事と感じられるかは人それぞれ。兄のように、やりたくないこともやらねばならないのも仕事だ。
日本はそれでも恵まれている。
大学を卒業したからといって職に就けるとは限らない国もたくさんあるのだから。
日本の場合は就きたい職に就き辛いと言うだけで、万年人手不足のところなどザラにある。選ばなければ職にはありつけるということ。
──少子化の現代では、新卒者を喜んで受け入れる会社はたくさんある。
続くかどうかは別として。
「優人」
「見終わった?」
片膝を抱え考え事をしていた優人は兄から声をかけられ、顔を上げた。
「うん。優人は考え事?」
「職と言うものについて考えてた。兄さんも大変だなと思って」
「仕事ってのはお金を貰うためにすることでもあるから、時には望まれた結果を出す必要があるよね。仮に自分がそれを良しとしなくても」
自分と同じことを思っている兄に対し、少し複雑な心境になり黙ると、
「だから、職につくということは覚悟を決めることでもあると思うんだ」
と彼。
「覚悟?」
「そう、覚悟。時には白を黒と言わねばならないだろうし、NOをYESと言わねばならない時があるかもしれない」
”そんな覚悟は嫌だな”とは思うものの、それが会社と言う場所なのかもしれないと優人は思った。
「とは言ってもね。常識良識で考えてダメだと思うものはダメと言う勇気も必要だと思うよ。そういう意味の覚悟ではなくてさ」
「不正はダメだよね」
「それは会社にとってマイナスだしね。そうではなく、苦手なものでもやらなきゃならない時はあるし、つまらないものを面白いと言わなきゃならない時もあるんだよ」
遠江にプライドをへし折られた時の兄を知っている自分としては、覚悟を持って今の仕事に従事する彼を切なく感じる。
あんなことがなければきっと、今でもNOをNOと言えたのだろう。
「そういや、クソ社長から預かった書籍、そこに置いておいたけど」
「クソ社長って……」
優人の言葉に兄が笑う。
「これ、手に入りずらい書籍でさ。有難いけど……やっぱりお礼に行かないといけないよね」
”気が重いな”と言う彼の手に自分の手を添える優人。
「一緒に行こうか?」
「優人が? 変じゃない?」
「受け取ったの俺だから。別に問題はないでしょ」
優人は迷っているように見える彼にダメ押しで笑って見せたのだった。
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