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17──手を伸ばしても届かないもの【平田】
5 彼の好きなもの
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音楽屋を出る頃には夕暮れを告げる音楽が鳴り響いていた。地域にもよるだろうが、どこでも聞くことができる時刻を知らせるもの。
「これって、子供たちに帰宅を促すものなのかと思っていたけれど、いざという時放送が生きているかどうか確かめる役割もあるらしいね」
優人がチラリと音楽のなる方を眺めながらそんなことを言った。
「その話、俺も何かのチャンネルで知ったな」
「日本は自然災害が多いからね」
夏になれば避難警告が鳴り響き、地震が来れば速報が流れる。
地震に関してはもともと多い国だから増減については感じづらいが、明らかに異常な降水というものは増えた。
「人間はいつの時代もバカが多いから、こうやって自然やオゾンを破壊してそのしっぺ返しを受けることになる」
「そうだね」
優人は平田の言葉に頷きながら階段を下りていく。
「そろそろ帰るのか?」
駐車場にたどり着き、運転席のドアを開けながら彼に問えば、
「今日は兄さん遅いんだ。平田は何か用ある?」
それはきっと夕飯のお誘い。時間のある時はまずはお伺いを立てるのが彼。マイペースで自由人に見えて、強引に他人を連れまわしたりはしない。
そんな部分も彼の好きなところだ。決して一緒にいることを当たり前だなどとは思っていないのである。
「夕飯には微妙な時間だな。どこか寄ってく?」
用がないと言わずとも、その後一緒に行動しようと言う旨を伝えればわかってくれる彼。
「そうだね。服でも見てく? アウター欲しいって言ってたし」
温暖化が進んだ結果、寒暖の差は非常に激しくなったと感じている。
「よく覚えてるな」
とは言え、その話をしたのは先週だ。
「まあ、口にするってことは時間があったら一緒に見に行こうって意味かなって思うから」
優人の記憶力は良い方だと思う。しかしそんな理由があって覚えているのかと思うと嬉しい。
「しかし音楽って不思議な力を持ってるよね」
目的地に向けてアクセルを踏み込んだ平田に優人の何気ない言葉。
「うん?」
「音楽一つで何気ない日常がドラマチックに感じるわけだから」
「まあ、そうだな。映画なんかがそのいい例なのかな」
平田は”さすがにこの時間は混み始めるな”と思いながらハンドルを切る。
優人はディスクを入れ替えながら、
「俺たちみたいな一般人でも、こうして車で音楽をかけたりすれば非日常に感じる」
「あ、それ買ったんだ?」
それは彼が先ほどの音楽屋で買うか迷っていたCD。
「音楽系のサイトで聴いて欲しいなとは思ってた」
「なんで迷ってたんだ?」
「んー……最近のだし、あそこでなくても買えるから」
基本芸術関係のモノは新品の製品を購入する彼。手にい入り辛いものを中古屋で探すスタイルを貫いている。それは彼にとっての投資なのだ。
そのミュージシャンなり作家の収入に繋がるようにと。
あの音楽屋でも新品の商品は取り扱ってはいる。だが、そこでなくても手に入るというのは本当の話。
「とは言え、欲しいものは欲しい時に手に入れないとね」
小さく笑う優人。
「この曲……へえ」
「あ、わかった?」
「一回活動を停止していたグループだと言うことはホームページで見て知っていたけど」
「そう、曲調変わったんだよね。もともと、このジャンルも歌っていたとは思うけれど」
優人の好きなこの四人で編成されたグループはUKのアーティストで、主にR&Bを歌っていた。カヴァー曲がヒットしランキング上位なったと記憶している。ジャンルは分からないが、曲調は明らかに現代寄り。
とは言え、音楽の流行廃りのスピードは速い。そして古くても良いものは良いものとしてどの年代にもファンはいるものだ。
「やっぱり、海外と日本のアイドルの概念は違うなと感じるね」
「そうだね」
平田の言葉に同意を示す優人。
「もともと歌は上手かったけど、幅が広がった感じがする」
「うん」
好きなものを肯定されるのはやはり嬉しいのだろう。ジャケットと見つめる彼の瞳が柔らかく細められたのだった。口元に笑みをたたえて。
「これって、子供たちに帰宅を促すものなのかと思っていたけれど、いざという時放送が生きているかどうか確かめる役割もあるらしいね」
優人がチラリと音楽のなる方を眺めながらそんなことを言った。
「その話、俺も何かのチャンネルで知ったな」
「日本は自然災害が多いからね」
夏になれば避難警告が鳴り響き、地震が来れば速報が流れる。
地震に関してはもともと多い国だから増減については感じづらいが、明らかに異常な降水というものは増えた。
「人間はいつの時代もバカが多いから、こうやって自然やオゾンを破壊してそのしっぺ返しを受けることになる」
「そうだね」
優人は平田の言葉に頷きながら階段を下りていく。
「そろそろ帰るのか?」
駐車場にたどり着き、運転席のドアを開けながら彼に問えば、
「今日は兄さん遅いんだ。平田は何か用ある?」
それはきっと夕飯のお誘い。時間のある時はまずはお伺いを立てるのが彼。マイペースで自由人に見えて、強引に他人を連れまわしたりはしない。
そんな部分も彼の好きなところだ。決して一緒にいることを当たり前だなどとは思っていないのである。
「夕飯には微妙な時間だな。どこか寄ってく?」
用がないと言わずとも、その後一緒に行動しようと言う旨を伝えればわかってくれる彼。
「そうだね。服でも見てく? アウター欲しいって言ってたし」
温暖化が進んだ結果、寒暖の差は非常に激しくなったと感じている。
「よく覚えてるな」
とは言え、その話をしたのは先週だ。
「まあ、口にするってことは時間があったら一緒に見に行こうって意味かなって思うから」
優人の記憶力は良い方だと思う。しかしそんな理由があって覚えているのかと思うと嬉しい。
「しかし音楽って不思議な力を持ってるよね」
目的地に向けてアクセルを踏み込んだ平田に優人の何気ない言葉。
「うん?」
「音楽一つで何気ない日常がドラマチックに感じるわけだから」
「まあ、そうだな。映画なんかがそのいい例なのかな」
平田は”さすがにこの時間は混み始めるな”と思いながらハンドルを切る。
優人はディスクを入れ替えながら、
「俺たちみたいな一般人でも、こうして車で音楽をかけたりすれば非日常に感じる」
「あ、それ買ったんだ?」
それは彼が先ほどの音楽屋で買うか迷っていたCD。
「音楽系のサイトで聴いて欲しいなとは思ってた」
「なんで迷ってたんだ?」
「んー……最近のだし、あそこでなくても買えるから」
基本芸術関係のモノは新品の製品を購入する彼。手にい入り辛いものを中古屋で探すスタイルを貫いている。それは彼にとっての投資なのだ。
そのミュージシャンなり作家の収入に繋がるようにと。
あの音楽屋でも新品の商品は取り扱ってはいる。だが、そこでなくても手に入るというのは本当の話。
「とは言え、欲しいものは欲しい時に手に入れないとね」
小さく笑う優人。
「この曲……へえ」
「あ、わかった?」
「一回活動を停止していたグループだと言うことはホームページで見て知っていたけど」
「そう、曲調変わったんだよね。もともと、このジャンルも歌っていたとは思うけれど」
優人の好きなこの四人で編成されたグループはUKのアーティストで、主にR&Bを歌っていた。カヴァー曲がヒットしランキング上位なったと記憶している。ジャンルは分からないが、曲調は明らかに現代寄り。
とは言え、音楽の流行廃りのスピードは速い。そして古くても良いものは良いものとしてどの年代にもファンはいるものだ。
「やっぱり、海外と日本のアイドルの概念は違うなと感じるね」
「そうだね」
平田の言葉に同意を示す優人。
「もともと歌は上手かったけど、幅が広がった感じがする」
「うん」
好きなものを肯定されるのはやはり嬉しいのだろう。ジャケットと見つめる彼の瞳が柔らかく細められたのだった。口元に笑みをたたえて。
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