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17──手を伸ばしても届かないもの【平田】
3 なんだか腑に落ちないこと
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「それ、和宏さんに渡すのか?」
平田は、先ほど遠江から受け取った手提げ袋を手に持った優人を眺めながら。
「渡すよ。仕事で必要な資料らしいし」
彼は不満そうに車の後部座席に手提げ袋を置き、助手席に乗り込んだ。平田は軽く肩を竦めると運転席へ。
「で、俺が行きたいところへつき合ってくれるわけ?」
「それは良いけれど、これ家に置いてからでも?」
「もちろん」
優人の暮らすマンションは目と鼻の先。もしかしたら歩いた方が早いかもしれない。
「あの人、ピンポイントであの喫茶店に来たのかな?」
「たぶんね。兄さんと片織さんもよく利用するところだから」
「そっか」
現在のところに住むことに決めたのはこの喫茶店が近かったからというのも要因の一つだと先日彼が言っていたことを思い出す。アンティークカフェは年代や男女問わず人気だ。
──確かに近代的な建物はお洒落ではあるけれど、木の温もりとそのナチュラルなお洒落さには敵わないのだろうな。
アンティークなものが愛されるのはその造形の美しさもあるだろうが、素材にあるのではないかと思う。
助手席の優人はシートベルトを締めるなりカーナビに手を伸ばし音楽を流し始める。嫌な気分を吹き飛ばしたいのか、曲が流れ始めるなり歌を口ずさむ。
だがその選曲に平田は吹いた。
「何」
と彼。
「いや、なんつー曲歌ってんだよと思って」
「欧米の曲なんてもんは、大抵アルバムに性的なものが数曲は含まれてる。いい加減慣れろよ」
呆れ声の彼。
優人はかつて”鉄壁の理性”などと呼ばれていたのだ。そんな彼が性的な歌を口ずさむのはかえってセクシャルに感じるものだ。
「好きでしょ、俺の歌声」
「まあ、好きだけども」
参ったねと思いながらアクセルを踏み込む。
「優人は良い声してるよな」
「そ?」
性格には多少難ありだが、造形も声も整った男だ。その上、よく知らない女性に対しては物腰も柔らかい。高校時代には凄くモテたというのは頷ける。
「なあ、優人」
「なんだね、平田」
「は?」
「は? ってなに」
優人はスマホに目を落としながら。きっと和宏からのメッセージに返信でもしているのだろう。
「いや、いつもそんないい方しないだろ」
「いつも同じ返事ばかりしていたら飽きるだろ?」
ギャルかよと思う速度で文字を打った彼は、さっとポケットにスマホをしまいながら。
「何それ、誰目線なの」
「俺目線?」
何故疑問形なんだと思いつつ、
「もし俺が女で高校時代に出逢ってたらつき合ってくれてた?」
と質問してみる。素朴な疑問だ。
「ああ、うん」
優人の即答に平田は彼を二度見する。
「何」
「いや、誰でもいいわけ?」
「理由は話したじゃない」
「聞いたよ」
平田は”つまり”と続けた。
「女ならいいってこと?」
「まあ、女性なら襲われても何とかなるでしょ。俺がその気にならなければセーフだし」
実際彼はそういう状況になって別れたと言っていたのだから、別れた数だけ相手のしびれを切らしたということなのだろう。
「男相手ならそうはいかないでしょ。乗りかかられたら、いくら力があっても逃れるのは難しいし」
中学時代に遭ったことについては平田も聞いてはいる。
それがトラウマで同性の友人を作るのが苦手だと言うことも。
「なんで俺は平気なのさ」
自分は優人に想いを寄せている。それなのにルームシェアもした。
「平田は俺を襲わないから」
「なんでそう言い切れるんだよ」
平田の言葉に窓枠に肘を置き頬杖をついていた彼がこちらに視線を移し不敵な笑みを浮かべる。
「だって平田は俺に嫌われるのを恐れてるから」
「どっから来るのよ、その自信は」
平田の言葉に彼はため息をつくと、
「間違っていた?」
と問う。
「いや、何も間違ってないよ」
「信じて貰えなくて腹を立てるんだから、そういうことなんだろと思ったんだよ」
と彼。
信じて貰えないとは、昨日のことなのだろうか。
──だとしたら、何かおかしくね?
平田は、先ほど遠江から受け取った手提げ袋を手に持った優人を眺めながら。
「渡すよ。仕事で必要な資料らしいし」
彼は不満そうに車の後部座席に手提げ袋を置き、助手席に乗り込んだ。平田は軽く肩を竦めると運転席へ。
「で、俺が行きたいところへつき合ってくれるわけ?」
「それは良いけれど、これ家に置いてからでも?」
「もちろん」
優人の暮らすマンションは目と鼻の先。もしかしたら歩いた方が早いかもしれない。
「あの人、ピンポイントであの喫茶店に来たのかな?」
「たぶんね。兄さんと片織さんもよく利用するところだから」
「そっか」
現在のところに住むことに決めたのはこの喫茶店が近かったからというのも要因の一つだと先日彼が言っていたことを思い出す。アンティークカフェは年代や男女問わず人気だ。
──確かに近代的な建物はお洒落ではあるけれど、木の温もりとそのナチュラルなお洒落さには敵わないのだろうな。
アンティークなものが愛されるのはその造形の美しさもあるだろうが、素材にあるのではないかと思う。
助手席の優人はシートベルトを締めるなりカーナビに手を伸ばし音楽を流し始める。嫌な気分を吹き飛ばしたいのか、曲が流れ始めるなり歌を口ずさむ。
だがその選曲に平田は吹いた。
「何」
と彼。
「いや、なんつー曲歌ってんだよと思って」
「欧米の曲なんてもんは、大抵アルバムに性的なものが数曲は含まれてる。いい加減慣れろよ」
呆れ声の彼。
優人はかつて”鉄壁の理性”などと呼ばれていたのだ。そんな彼が性的な歌を口ずさむのはかえってセクシャルに感じるものだ。
「好きでしょ、俺の歌声」
「まあ、好きだけども」
参ったねと思いながらアクセルを踏み込む。
「優人は良い声してるよな」
「そ?」
性格には多少難ありだが、造形も声も整った男だ。その上、よく知らない女性に対しては物腰も柔らかい。高校時代には凄くモテたというのは頷ける。
「なあ、優人」
「なんだね、平田」
「は?」
「は? ってなに」
優人はスマホに目を落としながら。きっと和宏からのメッセージに返信でもしているのだろう。
「いや、いつもそんないい方しないだろ」
「いつも同じ返事ばかりしていたら飽きるだろ?」
ギャルかよと思う速度で文字を打った彼は、さっとポケットにスマホをしまいながら。
「何それ、誰目線なの」
「俺目線?」
何故疑問形なんだと思いつつ、
「もし俺が女で高校時代に出逢ってたらつき合ってくれてた?」
と質問してみる。素朴な疑問だ。
「ああ、うん」
優人の即答に平田は彼を二度見する。
「何」
「いや、誰でもいいわけ?」
「理由は話したじゃない」
「聞いたよ」
平田は”つまり”と続けた。
「女ならいいってこと?」
「まあ、女性なら襲われても何とかなるでしょ。俺がその気にならなければセーフだし」
実際彼はそういう状況になって別れたと言っていたのだから、別れた数だけ相手のしびれを切らしたということなのだろう。
「男相手ならそうはいかないでしょ。乗りかかられたら、いくら力があっても逃れるのは難しいし」
中学時代に遭ったことについては平田も聞いてはいる。
それがトラウマで同性の友人を作るのが苦手だと言うことも。
「なんで俺は平気なのさ」
自分は優人に想いを寄せている。それなのにルームシェアもした。
「平田は俺を襲わないから」
「なんでそう言い切れるんだよ」
平田の言葉に窓枠に肘を置き頬杖をついていた彼がこちらに視線を移し不敵な笑みを浮かべる。
「だって平田は俺に嫌われるのを恐れてるから」
「どっから来るのよ、その自信は」
平田の言葉に彼はため息をつくと、
「間違っていた?」
と問う。
「いや、何も間違ってないよ」
「信じて貰えなくて腹を立てるんだから、そういうことなんだろと思ったんだよ」
と彼。
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──だとしたら、何かおかしくね?
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