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16──自分自身と対峙して【実弟】
1 優人と平田
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力で押さえつけて快楽で支配したところで、欲しいものは何も手に入りはしない。そんなことわかっているつもりだ。
「お前ねえ……そういうのは良くないと思うよ?」
「やかましい」
姉と喧嘩したことについて平田に指摘されると優人は不機嫌になった。
言われなくても分かっている。自分の何が悪いのかくらい。
「あのさ、優人」
大学近くの喫茶店に向かう車の中。なんとなく平田の言いたいことは予想がつく。
「なに」
「そういうトコだよ。和宏さんにそういう部分は見せてるのか?」
嫌なら嫌と意思表示する。それは平田に対して自然に行ってきたこと。
もともと自分は誰に対しても笑顔でやり過ごしてきた。そうすることがトラブルを避けられると学んだから。しかしNOと言わなければならない相手も存在する。それもまた日常で学んだこと。
とは言え、機嫌を態度にまで出すのは姉か平田くらいなものだ。
「喧嘩くらいはするよ。でも、兄さんに対して嫌だと感じたことはない」
「俺には嫌悪を感じるわけね」
それでも一緒にいられるからこそ友人でいられる。
「いいよ、俺は。優人にとっては、そうやってなんでもさらけ出せる相手だと思えばこそ当たられたって嫌だとは思わない」
”でもさ”と彼は続けた。
「和宏さんからしたら、自分よりも俺の方が優人と仲いいと感じてしまうわけだろ?」
「余計なことを言わなきゃいい話」
優人はぴしゃりと言い放ち、腕を組んで黙る。
こんな態度を取るのも平田にだけなことくらい自覚していた。
「余計なこと……ね」
平田は駐車場に車を入れるとエンジンを止め、ハンドルに腕に乗せて大きなため息を一つ漏らす。
「平田との付き合い方を兄さんとの向き合い方とイコールにしないでよ」
「悪かったよ、余計なこと言って」
喧嘩になった時、いつだって折れるのは平田の方だ。
もっとも、自分は悪くないと思うから反論するのであって自分に非があれば優人だって反論はしない。平田とは喧嘩をしようが和解してきた。そういう人間関係は簡単に築けるわけじゃない。
彼のことは唯一無二の友人だと思っている。たとえ彼が自分を友人だと思っていなくとも。
「散々なことを言われても俺は優人のことが好きなんだから、やっぱり自分はどうかしているのかなとは思うよ」
「好きってそういうものだろ」
何処が良くて彼が自分に恋心を抱いているのかはわからない。けれども、好きな気持ちは変わらないと何度か言われたことがある。
「そうだな。さてと、昼飯にしよう」
叶わないと知りながら友人でいる選択をしたのは彼。
それ以上何かを言う必要はない。話を変えたいと言うのであればそれに従うのみ。
優人は平田にならい自分も車から降りた。
昨日の会話を思い出し、
「たまには俺が運転した方がいいの?」
と平田に問うと変な顔をされる。
「何、急に」
「甘え過ぎは良くないのかと思って」
パーカーのポケットに両手を突っ込み、平田に続く。
平田は店の入り口で立ち止まるとこちらを振り返って、
「優人はそのままでいいよ」
と小さく笑う。
「なんで」
「俺だけの特別があってもいいだろ?」
「わがままで怠慢でも?」
「いいよ」
それは優人には到底理解しがたいものだ。
「そういうとこも含めて好きだから」
と平田。
「平田は……悪い相手に騙されそうだな」
呆れ顔で言う優人に対し、
「それ、お前が言う?!」
と平田は眉を寄せた。
それに対して肩を竦める優人。だが十分もしないうちに再び平田に抗議される羽目に。
「だからさ、そういうトコだぞ?!」
「なんだよ、煩いな平田」
「誰彼構わず愛想を振りまくのは止めろっていつも言ってるでしょ」
「言われてるねえ」
優人はテーブルに頬杖をつきながら。
「なんでそう気もない相手にそういう態度取るんだよ」
単に店員に対してニコニコと受け答えしただけだ。そんなに注意を受けなければならないことをした覚えはない。
「無自覚って嫌だね。これだもん、和宏さんが不安になっても仕方ないと思うよ」
平田の言葉に優人は、チラリとスマホの方へ視線を向けたのだった。
「お前ねえ……そういうのは良くないと思うよ?」
「やかましい」
姉と喧嘩したことについて平田に指摘されると優人は不機嫌になった。
言われなくても分かっている。自分の何が悪いのかくらい。
「あのさ、優人」
大学近くの喫茶店に向かう車の中。なんとなく平田の言いたいことは予想がつく。
「なに」
「そういうトコだよ。和宏さんにそういう部分は見せてるのか?」
嫌なら嫌と意思表示する。それは平田に対して自然に行ってきたこと。
もともと自分は誰に対しても笑顔でやり過ごしてきた。そうすることがトラブルを避けられると学んだから。しかしNOと言わなければならない相手も存在する。それもまた日常で学んだこと。
とは言え、機嫌を態度にまで出すのは姉か平田くらいなものだ。
「喧嘩くらいはするよ。でも、兄さんに対して嫌だと感じたことはない」
「俺には嫌悪を感じるわけね」
それでも一緒にいられるからこそ友人でいられる。
「いいよ、俺は。優人にとっては、そうやってなんでもさらけ出せる相手だと思えばこそ当たられたって嫌だとは思わない」
”でもさ”と彼は続けた。
「和宏さんからしたら、自分よりも俺の方が優人と仲いいと感じてしまうわけだろ?」
「余計なことを言わなきゃいい話」
優人はぴしゃりと言い放ち、腕を組んで黙る。
こんな態度を取るのも平田にだけなことくらい自覚していた。
「余計なこと……ね」
平田は駐車場に車を入れるとエンジンを止め、ハンドルに腕に乗せて大きなため息を一つ漏らす。
「平田との付き合い方を兄さんとの向き合い方とイコールにしないでよ」
「悪かったよ、余計なこと言って」
喧嘩になった時、いつだって折れるのは平田の方だ。
もっとも、自分は悪くないと思うから反論するのであって自分に非があれば優人だって反論はしない。平田とは喧嘩をしようが和解してきた。そういう人間関係は簡単に築けるわけじゃない。
彼のことは唯一無二の友人だと思っている。たとえ彼が自分を友人だと思っていなくとも。
「散々なことを言われても俺は優人のことが好きなんだから、やっぱり自分はどうかしているのかなとは思うよ」
「好きってそういうものだろ」
何処が良くて彼が自分に恋心を抱いているのかはわからない。けれども、好きな気持ちは変わらないと何度か言われたことがある。
「そうだな。さてと、昼飯にしよう」
叶わないと知りながら友人でいる選択をしたのは彼。
それ以上何かを言う必要はない。話を変えたいと言うのであればそれに従うのみ。
優人は平田にならい自分も車から降りた。
昨日の会話を思い出し、
「たまには俺が運転した方がいいの?」
と平田に問うと変な顔をされる。
「何、急に」
「甘え過ぎは良くないのかと思って」
パーカーのポケットに両手を突っ込み、平田に続く。
平田は店の入り口で立ち止まるとこちらを振り返って、
「優人はそのままでいいよ」
と小さく笑う。
「なんで」
「俺だけの特別があってもいいだろ?」
「わがままで怠慢でも?」
「いいよ」
それは優人には到底理解しがたいものだ。
「そういうとこも含めて好きだから」
と平田。
「平田は……悪い相手に騙されそうだな」
呆れ顔で言う優人に対し、
「それ、お前が言う?!」
と平田は眉を寄せた。
それに対して肩を竦める優人。だが十分もしないうちに再び平田に抗議される羽目に。
「だからさ、そういうトコだぞ?!」
「なんだよ、煩いな平田」
「誰彼構わず愛想を振りまくのは止めろっていつも言ってるでしょ」
「言われてるねえ」
優人はテーブルに頬杖をつきながら。
「なんでそう気もない相手にそういう態度取るんだよ」
単に店員に対してニコニコと受け答えしただけだ。そんなに注意を受けなければならないことをした覚えはない。
「無自覚って嫌だね。これだもん、和宏さんが不安になっても仕方ないと思うよ」
平田の言葉に優人は、チラリとスマホの方へ視線を向けたのだった。
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