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14──優しい日々の始まりに【実弟】

5 思想に溺れて【微R】

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 人の愛のゴールとはどこにあるのだろう。 
 愛を伝えて思いが叶ったところで、すぐに襲う焦燥。
 どんなに想いあっても心は乾いていくものだ。
 だからといって互いを求め合っても、満たされるのは一瞬。
 どんなに交わっても何かが足りない。
 ならば婚姻という形で互いを繋ぎ合ったとしても、それは始まりに過ぎない。

「優人?」
 だから求め続けるのだろうか?
 この腕の中の温もりを。
「うん?」
 不安げに見つめる眼差し。
 彼に優しく微笑みかけてその唇を塞ぐ。背中に回った温もりが心地よい。
 ずっとこうしていられたらいつかは満たされるのだろうか?
 そんなことも考えるが、人間は活動している。だからこうしてばかりもいられない。生きるためになさなければならないことが多すぎる。
 満たされぬままに日々を紡ぐ。

 滑らかな肌に手を滑らせて彼自身を握りこめば、背中に回った腕に力が入った。ずっとそうやって離れないでいればいい。
 優人は兄の首筋に吸い付きながら何度も腰を進めては引いた。
 その度に漏れる彼の甘い声に酔いながら。

 求め合って快楽に溺れるのは悪くない。
 しかし後から襲うのは渇きだ。
 呆れるほどに求めれば何かが変わるのかもしれない。しかしこの欲望はとどまることを知らない。だから自制して、理性を保つ。
 愛ではない何かに支配されないように。

 人は誰しも自分の中に魔物を飼っている。
 それに支配されれば理性を失うだろう。
 そしてそれは人によって形は変わる。
 愛欲の魔物を飼っている者もいれば、物欲の魔物を飼っている者もいるだろうし、人の想像を超える何かを内に秘めている者もいるかもしれない。

「んんッ……」
「ここ、いいの?」
 問われて頬を染める彼が愛しい。
 くのを我慢しているのだろうか。びくびくと身体を震わせ、優人の肩に顔を埋めている。そんな彼の耳を甘噛みし、ゆっくりと深く自分自身を奥まで穿つ。
「あ……ッ……もう……」
 息苦しくなったのか優人の肩から顔を上げた兄。
「大丈夫だよ」
 ”俺もだから”というように微笑んで再び口づけると彼の中に熱を放った。

 彼の中からずるりと自分自身を引き抜くと、予め準備しておいた濡れタオルに手を伸ばす。
「ん……ッ」
 敏感なその肌を撫でるように拭き上げ、一息つく。
 サラサラの兄の黒髪。その手触りに心地よさを感じながら、”タンパク質ってなんでこんなに面倒なんだ”と思ってた。

 部屋の中に流れるピアノの優しい旋律。今日買い物先で購入したものの一つ。
『優人はさ』
『うん?』
 最近めっきり減ってしまったCDを扱う店。
 ネットでも購入できるというのもあるが、ダウンロードが主流となってしまったためだろう。それでもCDにはCDの良さがある。ジャケットがお洒落でインテリアにしている人もいるくらいだ。
『ダウンロードもできるのに、何故わざわざCDを買うんだ?』
 それは何気ない質問。
 人には形に残るモノを購入することに理由を持つ者もいる。
『世界を回すためって言ったらカッコイイ?』
『どういう意味だ、それは』

 確かにダウンロード版はいつでもスマホなどに入れて持ち歩ける。
 形として手元に残らなくても歌詞を見れたりジャケットを見ることもできるだろう。例えばそれでダウンロード版のみになってしまったら、その分働き手は要らなくなるだろう。
 形としてモノがなくなるわけだから中古店なども不要となる。そうすればその分また働き手も不要となるのだ。

『確かにダウンロード版は便利で安いと思うよ。それだけになったらたくさんの産業に影響も出るよね』
 便利な世の中はその分、働き手を必要としなくなる。
 働けなくなったら収入がなくなり、結果どんなに便利でも購入することはできなくなるだろう。
『でも、どっちもあった方が世界は回る』
『まあ、そうだな』
 兄は自分の考えを話す優人を面白そうに目を細め見ていたのだった。
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