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14──優しい日々の始まりに【実弟】
1 兄の興味
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指先が触れ、そのまま引き寄せて兄の手を握る。
初めの頃こそ照れて躊躇っていた彼だったが、慣れたのか自然に握り返してくれるのが嬉しかった。とは言え、以前よりも意識されていないのかなと思うと寂しくもある。人間とは実にわがままなものだなと優人は心の中で苦笑いをした。
「何を買うの?」
ホームセンターや薬局が好きな人は割といると思う。薬局と言っても薬剤のみを扱っているわけではなく、食品やペット用品など幅広い商品を取り扱っているところも多いからだろう。
「特には決めてないんだ。予算は多めにあるから必要なものや欲しいものがあれば」
兄は以前からホームセンターが好きなようで、散歩がてらに出向くということも有ったようだ。
「優人はあまりこういうところは来ないのか?」
「そうだねえ。どちらかというと専門の店が並ぶ商店街のようなところの方が好きかも」
K学園の近くにはレンガの敷き詰められたお洒落な路地がたくさんある。
商店街のイメージとはだいぶ異なるが、レトロアンティークカフェのような板張りの床に落ち着いた洋風壁紙を使用したお洒落な店が立ち並んでいた。
「兄さんも学生の頃は行ったの?」
「いや。最近なら行ったな」
「へえ、一人で?」
兄はあまり一人では出歩かない。それというのも、阿貴のことがあったからだろう。もう恐怖はないかもしれないが、出かけるときは佳奈か片織が一緒だと言っていた。
「そう、一人で」
「珍しいね」
「少しづつ慣れないとな」
そう言いながらも、兄の指先が少し震えている。
「何か良いものは見つかった?」
質問ばかりなのもどうかと思ったが、気づかないふりをして笑顔を向けた。
「ああ。これ」
手が離れ、少し寂しさを感じながらも兄の手元を見つめる。軽く捲った手首にシルバーのアクセサリー。アンティーク調でお洒落なデザインのものだ。
「なかなか素敵だね」
「そうだろ?」
と彼はポケットに手を差し入れて。
「実はお揃い」
再びポケットから手を出した彼の手には小さな紙袋の包み。優人はその紙袋を差し出され、反射的に受け取った。
「ペアリングもしてはいるけれど」
と兄。
「嫌じゃなければ」
と続けて。
装飾品をプレゼントするのは独占欲の現れとも言うが、兄になら束縛されても良いと思っている自分にとっては嬉しいプレゼントだった。
「嫌なわけないでしょ。とても嬉しい」
「そっか」
ほんのり頬を染め、嬉しそうに笑う彼が愛しい。
「でも、店の中だから後で開けるね」
小さな紙袋をパーカーのポケットにしまい再び彼の指に振れると、躊躇いなく握り返すその手。少し熱を帯びていて、感情まで伝わってくるようだった。
その後ゲームコーナーで足を止めた彼。
欲しいものでもあるのだろうかと思っていると、話は意外な方向へ。
「優人はゲームや映画のDVDとかを買う時にレビューを参考にしたりする?」
誰でも気軽に安価でインターネットに接続できる時代。一般人の書くレビューはその恩恵の一つかもしれない。
それ以前はどこかの雑誌に載った専門家のレビューを参考にするしかなかった時代もある。その記事を書いている者と趣味が合えば参考になるかもしれないが、やはり偏った解説に過ぎない。
ならばたくさんの人が気軽に書けるようになったから参考になるのかと言えば、一概にそうとも言えないものだ。
「商品レビューは一応見たりはするけれど、それは種類によるかな。食べ物や家電、モノに関するレビューは参考になることも多い。でも、映画やゲームなどの思想が関わっている商品は良し悪しじゃないからね」
娯楽が関わってくる商品の中でも創作物に属するもの、こと物語などに関係するものの基準は『面白いか否か』であり、食品や生活用品などに関する基準は『良し悪し』だと思う。
「それは俺も同感だな。時々、いやな気持になるレビューも見かけるしね」
雑誌などに掲載される専門家の書くものは、少なくとも言葉を選んでいる。一般人の書くものは時折感情に任せたものも混ざっているものだ。
だから見ないんだと言えば、『それは賢明だな』と彼は苦笑いをしたのだった。
初めの頃こそ照れて躊躇っていた彼だったが、慣れたのか自然に握り返してくれるのが嬉しかった。とは言え、以前よりも意識されていないのかなと思うと寂しくもある。人間とは実にわがままなものだなと優人は心の中で苦笑いをした。
「何を買うの?」
ホームセンターや薬局が好きな人は割といると思う。薬局と言っても薬剤のみを扱っているわけではなく、食品やペット用品など幅広い商品を取り扱っているところも多いからだろう。
「特には決めてないんだ。予算は多めにあるから必要なものや欲しいものがあれば」
兄は以前からホームセンターが好きなようで、散歩がてらに出向くということも有ったようだ。
「優人はあまりこういうところは来ないのか?」
「そうだねえ。どちらかというと専門の店が並ぶ商店街のようなところの方が好きかも」
K学園の近くにはレンガの敷き詰められたお洒落な路地がたくさんある。
商店街のイメージとはだいぶ異なるが、レトロアンティークカフェのような板張りの床に落ち着いた洋風壁紙を使用したお洒落な店が立ち並んでいた。
「兄さんも学生の頃は行ったの?」
「いや。最近なら行ったな」
「へえ、一人で?」
兄はあまり一人では出歩かない。それというのも、阿貴のことがあったからだろう。もう恐怖はないかもしれないが、出かけるときは佳奈か片織が一緒だと言っていた。
「そう、一人で」
「珍しいね」
「少しづつ慣れないとな」
そう言いながらも、兄の指先が少し震えている。
「何か良いものは見つかった?」
質問ばかりなのもどうかと思ったが、気づかないふりをして笑顔を向けた。
「ああ。これ」
手が離れ、少し寂しさを感じながらも兄の手元を見つめる。軽く捲った手首にシルバーのアクセサリー。アンティーク調でお洒落なデザインのものだ。
「なかなか素敵だね」
「そうだろ?」
と彼はポケットに手を差し入れて。
「実はお揃い」
再びポケットから手を出した彼の手には小さな紙袋の包み。優人はその紙袋を差し出され、反射的に受け取った。
「ペアリングもしてはいるけれど」
と兄。
「嫌じゃなければ」
と続けて。
装飾品をプレゼントするのは独占欲の現れとも言うが、兄になら束縛されても良いと思っている自分にとっては嬉しいプレゼントだった。
「嫌なわけないでしょ。とても嬉しい」
「そっか」
ほんのり頬を染め、嬉しそうに笑う彼が愛しい。
「でも、店の中だから後で開けるね」
小さな紙袋をパーカーのポケットにしまい再び彼の指に振れると、躊躇いなく握り返すその手。少し熱を帯びていて、感情まで伝わってくるようだった。
その後ゲームコーナーで足を止めた彼。
欲しいものでもあるのだろうかと思っていると、話は意外な方向へ。
「優人はゲームや映画のDVDとかを買う時にレビューを参考にしたりする?」
誰でも気軽に安価でインターネットに接続できる時代。一般人の書くレビューはその恩恵の一つかもしれない。
それ以前はどこかの雑誌に載った専門家のレビューを参考にするしかなかった時代もある。その記事を書いている者と趣味が合えば参考になるかもしれないが、やはり偏った解説に過ぎない。
ならばたくさんの人が気軽に書けるようになったから参考になるのかと言えば、一概にそうとも言えないものだ。
「商品レビューは一応見たりはするけれど、それは種類によるかな。食べ物や家電、モノに関するレビューは参考になることも多い。でも、映画やゲームなどの思想が関わっている商品は良し悪しじゃないからね」
娯楽が関わってくる商品の中でも創作物に属するもの、こと物語などに関係するものの基準は『面白いか否か』であり、食品や生活用品などに関する基準は『良し悪し』だと思う。
「それは俺も同感だな。時々、いやな気持になるレビューも見かけるしね」
雑誌などに掲載される専門家の書くものは、少なくとも言葉を選んでいる。一般人の書くものは時折感情に任せたものも混ざっているものだ。
だから見ないんだと言えば、『それは賢明だな』と彼は苦笑いをしたのだった。
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