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12──彼らの事情【社長】
4 偶然の再会
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居場所が確定するということは、行動範囲もおのずと知れるということ。
何をしているんだろうなと思いつつ、K学園大学部の近くの商店街をぶらりとしているとお洒落な喫茶店を見つけた。
今はやりのレトロな喫茶店だ。
「何してんだ? こんなところで」
遠江が入ろうかどうか迷っていると、背後から見知った声。
「和宏」
振り返ると、和宏がエコバッグを持って立っている。スーパーの帰りだろうか。
「市場調査かな」
「へえ。この辺に空き地なんかあったか?」
見抜かれる嘘だとはわかっている。本当の理由なんて述べられやしない。
”入るのか?”と言うように、親指を店の方に向ける彼。
「迷っている」
と素直に本心を告げれば、
「腹が減っているだけなら、一緒に昼飯でも食う?」
と和宏。
新居はこの近くらしい。
「優人くんが怒るんじゃないの?」
「一応連絡は入れておくけど、担当が来ることになっているし」
”二人きりじゃないからいいだろ”と彼は言う。
遠江は彼の言葉に甘えることにした。
「新居はどう?」
荷物を一つ受け取ると、彼と共に歩き出す。昼にハンバーグを作るらしい。
「まあまあかな。優人が以前住んでいた海の近くのマンションは見晴らしがよかった」
今のところは周りのビルなどが見えるだけで、大して良い景色とは言えないようだ。
「ま、学生の街だからお洒落な店も多くて便利ではあるけど」
「なるほど」
たどり着いた先はお洒落な外装のマンション。ロビーに入ると管理人が観葉植物の入ったプランターに水をやっていた。挨拶をし、エレベーターに乗り込む。
「そう言えば、あの後どうなった? 俺たちは先に帰ったから良く知らないが」
「ああ。いい方向に行きそうだね。阿貴の義姉さんと話をしたよ」
最終的にどんな決定になったのかを話すと、それは良かったと言って彼が微笑む。遠江は彼の穏やかな笑みに疑問を感じた。
「君は僕や阿貴を憎んでいるんじゃないの」
「憎む……そうだなあ」
和宏は自宅のドアに鍵を差し込みながら、
「憎むって感情がもたらすものは、好きと同等だと思うんだ」
と答えドアを開ける。
どうぞと中に促され、遠江は玄関に足を踏み入れた。
中は使い勝手のよさそうな間取りだった。
「さっきの話だけれど」
L字型の対面キッチンのカウンターに腰かけ、玉ねぎを適度な大きさに切る和宏を見上げる遠江。出されたティーカップに指をかけながら。
「憎むってことは、それなりに相手のことを考えることだと思うんだ。どんな感情も思い続けるから持続する」
「そうだね」
和宏は適度な大きさに切った玉ねぎを調理器具に入れると紐を引っ張りみじん切りにした。
「つまりそれなりに体力がいるということ。俺は優人が笑顔で傍にいてくれればそれでいい」
つまり、憎んでいないわけではないが優人以外のことを考えたくないということなのだろう。
「俺は自由でいたい。だからもう、嘘はつかない」
”時間がないから生でいい?”と聞かれ、玉ねぎのことだと気づくまでに三秒かかった。さすがにハンバーグは生では食べれないだろう。
ハンバーグを鉄板に乗せる頃には、彼の担当の片織が到着した。
「ケーキ四つで良かった?」
「うん、ありがとう」
後で食べましょうと言って冷蔵にしまう片織。その様子から、付き合いが長いというものあるだろうが、信頼関係にあるのだなと感じる。
真っ当な出会い方をしていたなら、彼女のように信頼関係が築けたのだろうか。そう思うと、少し羨ましくもある。
「優人くんはお昼どうするって?」
三人でダイニングテーブルに移動しながら、片織が彼に問う。
「午後の講義があるから平田君と学食で済ますって」
遠江がここにいる以上、すっ飛んで帰ってくると思っていただけに意外だ。
「優人くん、大人になったのねえ」
片織の言葉に、思わず吹き出す遠江。
「友人との時間も大切だろ」
表情を変えない和宏に、肩をすくめた片織であった。
何をしているんだろうなと思いつつ、K学園大学部の近くの商店街をぶらりとしているとお洒落な喫茶店を見つけた。
今はやりのレトロな喫茶店だ。
「何してんだ? こんなところで」
遠江が入ろうかどうか迷っていると、背後から見知った声。
「和宏」
振り返ると、和宏がエコバッグを持って立っている。スーパーの帰りだろうか。
「市場調査かな」
「へえ。この辺に空き地なんかあったか?」
見抜かれる嘘だとはわかっている。本当の理由なんて述べられやしない。
”入るのか?”と言うように、親指を店の方に向ける彼。
「迷っている」
と素直に本心を告げれば、
「腹が減っているだけなら、一緒に昼飯でも食う?」
と和宏。
新居はこの近くらしい。
「優人くんが怒るんじゃないの?」
「一応連絡は入れておくけど、担当が来ることになっているし」
”二人きりじゃないからいいだろ”と彼は言う。
遠江は彼の言葉に甘えることにした。
「新居はどう?」
荷物を一つ受け取ると、彼と共に歩き出す。昼にハンバーグを作るらしい。
「まあまあかな。優人が以前住んでいた海の近くのマンションは見晴らしがよかった」
今のところは周りのビルなどが見えるだけで、大して良い景色とは言えないようだ。
「ま、学生の街だからお洒落な店も多くて便利ではあるけど」
「なるほど」
たどり着いた先はお洒落な外装のマンション。ロビーに入ると管理人が観葉植物の入ったプランターに水をやっていた。挨拶をし、エレベーターに乗り込む。
「そう言えば、あの後どうなった? 俺たちは先に帰ったから良く知らないが」
「ああ。いい方向に行きそうだね。阿貴の義姉さんと話をしたよ」
最終的にどんな決定になったのかを話すと、それは良かったと言って彼が微笑む。遠江は彼の穏やかな笑みに疑問を感じた。
「君は僕や阿貴を憎んでいるんじゃないの」
「憎む……そうだなあ」
和宏は自宅のドアに鍵を差し込みながら、
「憎むって感情がもたらすものは、好きと同等だと思うんだ」
と答えドアを開ける。
どうぞと中に促され、遠江は玄関に足を踏み入れた。
中は使い勝手のよさそうな間取りだった。
「さっきの話だけれど」
L字型の対面キッチンのカウンターに腰かけ、玉ねぎを適度な大きさに切る和宏を見上げる遠江。出されたティーカップに指をかけながら。
「憎むってことは、それなりに相手のことを考えることだと思うんだ。どんな感情も思い続けるから持続する」
「そうだね」
和宏は適度な大きさに切った玉ねぎを調理器具に入れると紐を引っ張りみじん切りにした。
「つまりそれなりに体力がいるということ。俺は優人が笑顔で傍にいてくれればそれでいい」
つまり、憎んでいないわけではないが優人以外のことを考えたくないということなのだろう。
「俺は自由でいたい。だからもう、嘘はつかない」
”時間がないから生でいい?”と聞かれ、玉ねぎのことだと気づくまでに三秒かかった。さすがにハンバーグは生では食べれないだろう。
ハンバーグを鉄板に乗せる頃には、彼の担当の片織が到着した。
「ケーキ四つで良かった?」
「うん、ありがとう」
後で食べましょうと言って冷蔵にしまう片織。その様子から、付き合いが長いというものあるだろうが、信頼関係にあるのだなと感じる。
真っ当な出会い方をしていたなら、彼女のように信頼関係が築けたのだろうか。そう思うと、少し羨ましくもある。
「優人くんはお昼どうするって?」
三人でダイニングテーブルに移動しながら、片織が彼に問う。
「午後の講義があるから平田君と学食で済ますって」
遠江がここにいる以上、すっ飛んで帰ってくると思っていただけに意外だ。
「優人くん、大人になったのねえ」
片織の言葉に、思わず吹き出す遠江。
「友人との時間も大切だろ」
表情を変えない和宏に、肩をすくめた片織であった。
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