59 / 114
12──彼らの事情【社長】
2 解決の糸口
しおりを挟む
「話すのは構いませんが、話すことでどのように状況が変わると考えておられるのか、お聞かせ願えませんか?」
遠江はそう返答され、彼女が何故知りたいのかについて考えた。
少し会話をしただけだが、阿貴の義姉が聡明な人物だというのは分かる。
人には二種のタイプがいるものだ。
考えながら話を聞くタイプとただ受け止めるタイプ。
彼女は少なくとも前者。ただし前者にも二種のタイプがいる。
空気を読んで事を成そうとするタイプと単に好奇心を満たそうとするタイプだ。残念なことに後者の場合は自己完結型なので、なんの役にも立たない。
遠江は前者であることを祈りながら、
「今回のケースはあなたの父を開放することが雛本一族にとって良い結果になると思っています。それにはあなたの協力が必要であり、そのことを『優麻』さんに話す必要があると考えています」
と自分の考えを述べた。
雛本一族は世襲家系だというが彼女から見て曾祖父が現在の家長。
彼女の正確な年齢は分からないが、阿貴の義姉ということを考えても最低二十四以上ということになるだろう。
となると彼女の父は最低でも四十代後半からそれ以上となる。そうして計算しても曾祖父はかなりの高齢。
彼女の祖父が継ぐ頃、父は更に年を重ねていることだろう。
世襲とは言え、長男の長子である男児が継いでいくだけなら彼女の父が継ぐ必要はないのではないか? 年齢的に考えて一世代抜かしても問題ないと思ったのである。
その説明を彼女にすると、
「そうですね。わたしたちの代になる頃には兄は今の父と同じくらいか、それ以上の年齢になっているでしょうから」
という返答。
「そのことも一緒に叔母へ話してみます」
どうやら彼女は前者だったようだ。
遠江の意見を聞き、それが一族にとって良いことなら取り入れようと思っているように感じた。
「あなたはお父様を恨んではいないのですか?」
遠江は少し不思議に思ったことを聞いてみる。
「どうでしょうね。同じ境遇だったらわたしも自由になりたいと感じたと思うので」
彼女は言う。
日本は女性ばかりが負担を強いられることが多いと。
女性は自分で望んで女として産まれてきたわけではない。それなのに、男はその大変さも知らずに女性にばかり負担を強いて、自分たちは無責任にいきている。
雛本家が世襲を強いられるのはそれに似ていると思うのだと。
「父は好きで長男の長子として産まれてきたわけじゃない。運命が決められている、人生が他人によって決められるというのは辛いと思うのです」
人は産まれながらに自由を約束されている。それは法によって守られているはずなのに、家庭という小さな集団には無効。
「家庭には人権があってないようなものなのです」
一人で生きていけない子供は親に従うしかない。
子供は親を選べない。
その子が幸せになれるか、自由でいられるかどうかは常に親に委ねられているということなのだろう。
「好きでもない相手と結婚させられるのは、何も女だけじゃない。それが我が一族」
血統はそんなに大切なものなのだろうか?
価値観は人それぞれ。自由恋愛になったからと言ってどれほどの人が心から好いた相手と結ばれているのか。
少なくとも自分が好いた相手は傍にはいない。そして自分のものになることもないだろう。
遠江は彼女と別れ、例の中庭は見える廊下にいた。
ガラス張りの向こう側、暖かな光が降り注いでいる。
チャンスを自ら棒に振っておいて、本当は手に入れたかったなどと口にしたらオカシイだろうか?
和宏はもう、自分に興味を持つことはないだろう。彼の意識は優人にしか向かない。
「遠江」
ぼんやりと中庭を眺めていたら不意に名前を呼ばれる。
「阿貴」
「義姉さんに会ったのか?」
声のしたほうに表を向ければ、心配そうに阿貴がこちらを見上げていたのだった。
遠江はそう返答され、彼女が何故知りたいのかについて考えた。
少し会話をしただけだが、阿貴の義姉が聡明な人物だというのは分かる。
人には二種のタイプがいるものだ。
考えながら話を聞くタイプとただ受け止めるタイプ。
彼女は少なくとも前者。ただし前者にも二種のタイプがいる。
空気を読んで事を成そうとするタイプと単に好奇心を満たそうとするタイプだ。残念なことに後者の場合は自己完結型なので、なんの役にも立たない。
遠江は前者であることを祈りながら、
「今回のケースはあなたの父を開放することが雛本一族にとって良い結果になると思っています。それにはあなたの協力が必要であり、そのことを『優麻』さんに話す必要があると考えています」
と自分の考えを述べた。
雛本一族は世襲家系だというが彼女から見て曾祖父が現在の家長。
彼女の正確な年齢は分からないが、阿貴の義姉ということを考えても最低二十四以上ということになるだろう。
となると彼女の父は最低でも四十代後半からそれ以上となる。そうして計算しても曾祖父はかなりの高齢。
彼女の祖父が継ぐ頃、父は更に年を重ねていることだろう。
世襲とは言え、長男の長子である男児が継いでいくだけなら彼女の父が継ぐ必要はないのではないか? 年齢的に考えて一世代抜かしても問題ないと思ったのである。
その説明を彼女にすると、
「そうですね。わたしたちの代になる頃には兄は今の父と同じくらいか、それ以上の年齢になっているでしょうから」
という返答。
「そのことも一緒に叔母へ話してみます」
どうやら彼女は前者だったようだ。
遠江の意見を聞き、それが一族にとって良いことなら取り入れようと思っているように感じた。
「あなたはお父様を恨んではいないのですか?」
遠江は少し不思議に思ったことを聞いてみる。
「どうでしょうね。同じ境遇だったらわたしも自由になりたいと感じたと思うので」
彼女は言う。
日本は女性ばかりが負担を強いられることが多いと。
女性は自分で望んで女として産まれてきたわけではない。それなのに、男はその大変さも知らずに女性にばかり負担を強いて、自分たちは無責任にいきている。
雛本家が世襲を強いられるのはそれに似ていると思うのだと。
「父は好きで長男の長子として産まれてきたわけじゃない。運命が決められている、人生が他人によって決められるというのは辛いと思うのです」
人は産まれながらに自由を約束されている。それは法によって守られているはずなのに、家庭という小さな集団には無効。
「家庭には人権があってないようなものなのです」
一人で生きていけない子供は親に従うしかない。
子供は親を選べない。
その子が幸せになれるか、自由でいられるかどうかは常に親に委ねられているということなのだろう。
「好きでもない相手と結婚させられるのは、何も女だけじゃない。それが我が一族」
血統はそんなに大切なものなのだろうか?
価値観は人それぞれ。自由恋愛になったからと言ってどれほどの人が心から好いた相手と結ばれているのか。
少なくとも自分が好いた相手は傍にはいない。そして自分のものになることもないだろう。
遠江は彼女と別れ、例の中庭は見える廊下にいた。
ガラス張りの向こう側、暖かな光が降り注いでいる。
チャンスを自ら棒に振っておいて、本当は手に入れたかったなどと口にしたらオカシイだろうか?
和宏はもう、自分に興味を持つことはないだろう。彼の意識は優人にしか向かない。
「遠江」
ぼんやりと中庭を眺めていたら不意に名前を呼ばれる。
「阿貴」
「義姉さんに会ったのか?」
声のしたほうに表を向ければ、心配そうに阿貴がこちらを見上げていたのだった。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる