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11──独占欲に支配され【実弟】

5 平田を信頼する理由

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「反対はしませんよ」
と平田。
 それは姉、佳奈がここでルームシェアすることに対してだ。
「むしろ和宏さんが反対しないことの方が驚きですが。一応男女ですよ? 俺たち」
「それは知っている」
と兄。 
 兄の返答にしばし黙る平田。優人は口出しせずに二人を眺めていた。
 和宏はティーカップをソーサーの上に置くと、
「男同士だろうが女同士だろうが危ないものは危ないし、危なくないものは危なくない。当たり前のことだが、性別は危なさとは関係ない。要は人間性だと思う」
と自分の意見を述べる。

 兄は昔からしっかりと自分の意見を持っている人だった。ただ、求められなければ口にしないという一面も持つ。姉は反対に、求められなくても意見を述べるタイプ。
「つまり信頼されていると受け取って良いのでしょうか?」
 平田が兄に敬語ないし丁寧語なのは単純に年上だからだろう。礼儀を重んじる彼だからこそ、優人とルームシェアしていられたと言っても過言ではない。

 兄は自分の判断で阿貴と家を出はしたが、家族は彼が戻ってくると信じていたから。つまり、非常識な人間と優人がルームシェアなどしようものなら和宏に知れた時、大変なことになることは目に見えている。
 両親が和宏に絶対的な信頼を置いているのは長子だからという理由だけではない。とにかく常識良識にうるさい男だからだ。

「信頼……まあ、そうなるかな」
 平田は優人に好意を持っていたにも関わらず、手を出さなかった。恐らくそのことが今回の件に大きく響いている。
 優人と仲が良い平田のことを信頼しているという結論は兄のお気に召さなかったのか、歯切れの悪い返答。
 しかし平田はそのことを察しているのか、深く追求することはなかった。

「いい部屋が見つかって良かったね」
 優人の言葉に笑みを返した兄。
 翌日、叔母である父の妹が大学の近くにもマンションを持っているというので内覧に出向いた。叔母はまだ旅館の方にいて不在だったが、代わりに委託の管理人が中を案内してくれたのである。
「徒歩で通えるのは良いが、友人のたまり場になるんじゃないのか?」
と兄に指摘され、
「仲が良いのは平田だけだから」
と言えば驚いた顔をされた。

「まだあの事件を引きずってるのか?」
「どうかな。もう子供じゃないし、自分の身は自分で守れる」
 兄は優人が中学の時、同級生に襲われそうになった事件のことを指しているのだとすぐに気づく。
「でも、あの一件以来信用はしなくなったよ、他人を」
 末っ子は愛され方を知っている。だから人に好かれやすくアイドル気質。本来なら友人がたくさんいてもおかしくはない。
 だがあの一件があって人と距離をおくようになった。
「ごめんな、俺のせいで」
「兄さんのせいじゃないでしょ」
 優人は彼の手をぎゅっと握る。
 ハッとしたように顔を上げる和宏。

「友人が多いことだけが幸せだとは思わないよ。でも勝手に責任感じて兄さんがいなくなったことは……」
「悪かった」
 悲し気な兄の瞳を捉える優人。
「もう、俺の気持ちを勝手に決めないでよ」
 伏し目がちに数度浅く頷く彼。
「早く二人で暮らしたいね」
 責めるのが嫌で明るく話を切り替えれば、ぎゅっと抱き着かれ優人は困惑した。
「あの、ここ往来だし。ひとまず帰ろうよ」
「ああ」

 帰りの車の中では、
「ところでなんでそんなに平田くんを信頼してるんだ?」
と兄に問われる。
「なんでって……うーん。あんまり深く考えたことないな」
 平田は不思議な男だった。
『つき合わないか?』
と言われ、秒で断ったにも関わらずそれ以降も接し方は変わらなかった。
「しいて言えば、変わらないからかな」
「変わらない?」
 不思議そうに問い返す兄。

 好きに対しての求め方は人それぞれだと思う。
 両想いになりたいと思う人もいれば、友人のままでもいいから好きでいたいという人もいるだろう。
 だが、相手が自分を好きじゃないからと態度を変える男は意外と多いものだ。
「それに、平田は全性愛者パンセクシャルだから」
 パンセクシャルとは好きになった人が好きであり、好きでなければ男女関係なく好きではないということ。つまりそれは『優人だから好き』ということ。
 同性だからとか異性だからとか関係なく、○○が好きと言うのは信じるに値するのではないだろうか? 優人はそう思ったのだ。
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