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11──独占欲に支配され【実弟】
3 暗黙のルール
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「え? 優人、あのマンション出るの?」
旅館に戻り家族へ兄と一緒に暮らすことを話すと姉から驚きの声。
兄と一緒に暮らすことよりもマンションを出ることの方が気になるらしい。
「平田にはまだ話してないけれど。代わりのルームメイト探さないと」
「じゃあ、わたし立候補する! ねえ、いいよね? お兄ちゃん」
ルームメイトを探しているのは優人なのに、何故か和宏に話を振る姉。
母はニコニコと子供たちを眺め、父は何処かに電話をかけていた。
「ん? ああ、いいんじゃない?」
と兄。
我が家では『兄が良いと言えばわがままが通りやすいという暗黙のルール』がある。それというのも両親が共働きで兄が下の面倒を見ていたからだろう。
両親は妹弟のことは和宏が熟知していると思っているのだ。
極めて軽く返事をする和宏。
「お母さん、いいでしょ? お兄ちゃんも良いっていってるし」
姉は優人の友人である平田と仲が良い。
しかし目的はそこではなく、海の見えるマンションが気に入って良く遊びに来ていたようだ。
「でも、平田君は男の子でしょう? 佳奈、大丈夫なの?」
姉はアセクシャル。以前、男性にしつこくされたことがあり男性も苦手だったりする。
心配する母に、
「平田くんとは仲が良いから平気」
と笑う姉。
それでも母は和宏のほうに視線を向ける。それに気づいた彼が紅茶のカップをテーブルに置く。
「大丈夫だと思うよ」
それは数日平田と過ごしたから言えることなのだろうか?
優人は口を出さずに彼の横に腰を下ろした。ホントべったりねと言いたげな姉の視線が痛い。
「まあ、和宏がああ言うなら大丈夫かしら」
母が簡単に折れるのは兄に対してだけだ。ちょっとズルいなと思ってしまう。
”信頼されているんだねえ”と耳打ちすれば、兄はそっと微笑んだ。
二人きりの時は結構話す兄だが、人が多いところでは家族の前であっても無口。いつものことだ。
「手続きとかは……」
と母。
「叔母さんのとこだから融通利くと思うよ」
ここでやっと口を挟む優人。今借りているマンションは父の妹が大家だ。
「あら、そうだったわね。ちょっと行ってくるわ」
今回集まっているのは雛本一族。
父は分家の出であるが、同じく雛本一族の一員。もちろん妹である叔母も来ているのだ。部屋を出ていく母。
そこへ丁度、電話を切った父が三人のところへやってくる。
「あれ? 優麻は」
優麻とは母のこと。
「叔母さんに会いに行ったよ」
父の妹に会いに行った旨を伝えると、
「今、電話してたんだけどな」
と困った顔をする。
「何かあったの?」
姉がせんべいに手を伸ばしながら父に問う。
「本家に行く日程について話し合うから集まってくれという連絡がな」
父は胸ポケットにスマホをしまうと部屋を出ていこうとした。
「優人たちは戻るのよね?」
せんべいに伸ばしかけた手を止め、立ち上がる姉。
それは自宅へという意だ。
「そのつもりだけど。帰り、大丈夫?」
「お父さんの車に乗っかっていくから大丈夫。帰り、気を付けてね。見送れないけど」
和宏が気にするなと言うように軽く片手をあげた。
どうやら姉も父を追って会議に参加するようだ。
「お父さん、待って。わたしもいく」
慌ただしく部屋を後にする二人の背中を見送って、兄に向き直る優人。和宏は立ち上がるところだった。
「部屋戻るの?」
「ああ、帰る準備しないとな」
帰ると決めれば後は早い。もともと大した荷物は持ってきていなかったため、鞄に衣類を詰めて終わり。
「平田くんに土産買わなくていいのか?」
旅館の入り口で売店を見ながら。
「ああ、うん。そうだね」
優人は荷物を持ったまま売店のワゴンに目を向ける。
「マグカップと饅頭どっちがいいかな?」
兄は隣に立つと饅頭の箱を手に取る。例のネコ饅頭の箱だ。
「ネコで良いんじゃないのか? 可愛いし」
「平田、喜ぶかな」
「別に喜ばなくても良いんじゃないの?」
さりげなく塩なことを言う兄を二度見した優人であった。
旅館に戻り家族へ兄と一緒に暮らすことを話すと姉から驚きの声。
兄と一緒に暮らすことよりもマンションを出ることの方が気になるらしい。
「平田にはまだ話してないけれど。代わりのルームメイト探さないと」
「じゃあ、わたし立候補する! ねえ、いいよね? お兄ちゃん」
ルームメイトを探しているのは優人なのに、何故か和宏に話を振る姉。
母はニコニコと子供たちを眺め、父は何処かに電話をかけていた。
「ん? ああ、いいんじゃない?」
と兄。
我が家では『兄が良いと言えばわがままが通りやすいという暗黙のルール』がある。それというのも両親が共働きで兄が下の面倒を見ていたからだろう。
両親は妹弟のことは和宏が熟知していると思っているのだ。
極めて軽く返事をする和宏。
「お母さん、いいでしょ? お兄ちゃんも良いっていってるし」
姉は優人の友人である平田と仲が良い。
しかし目的はそこではなく、海の見えるマンションが気に入って良く遊びに来ていたようだ。
「でも、平田君は男の子でしょう? 佳奈、大丈夫なの?」
姉はアセクシャル。以前、男性にしつこくされたことがあり男性も苦手だったりする。
心配する母に、
「平田くんとは仲が良いから平気」
と笑う姉。
それでも母は和宏のほうに視線を向ける。それに気づいた彼が紅茶のカップをテーブルに置く。
「大丈夫だと思うよ」
それは数日平田と過ごしたから言えることなのだろうか?
優人は口を出さずに彼の横に腰を下ろした。ホントべったりねと言いたげな姉の視線が痛い。
「まあ、和宏がああ言うなら大丈夫かしら」
母が簡単に折れるのは兄に対してだけだ。ちょっとズルいなと思ってしまう。
”信頼されているんだねえ”と耳打ちすれば、兄はそっと微笑んだ。
二人きりの時は結構話す兄だが、人が多いところでは家族の前であっても無口。いつものことだ。
「手続きとかは……」
と母。
「叔母さんのとこだから融通利くと思うよ」
ここでやっと口を挟む優人。今借りているマンションは父の妹が大家だ。
「あら、そうだったわね。ちょっと行ってくるわ」
今回集まっているのは雛本一族。
父は分家の出であるが、同じく雛本一族の一員。もちろん妹である叔母も来ているのだ。部屋を出ていく母。
そこへ丁度、電話を切った父が三人のところへやってくる。
「あれ? 優麻は」
優麻とは母のこと。
「叔母さんに会いに行ったよ」
父の妹に会いに行った旨を伝えると、
「今、電話してたんだけどな」
と困った顔をする。
「何かあったの?」
姉がせんべいに手を伸ばしながら父に問う。
「本家に行く日程について話し合うから集まってくれという連絡がな」
父は胸ポケットにスマホをしまうと部屋を出ていこうとした。
「優人たちは戻るのよね?」
せんべいに伸ばしかけた手を止め、立ち上がる姉。
それは自宅へという意だ。
「そのつもりだけど。帰り、大丈夫?」
「お父さんの車に乗っかっていくから大丈夫。帰り、気を付けてね。見送れないけど」
和宏が気にするなと言うように軽く片手をあげた。
どうやら姉も父を追って会議に参加するようだ。
「お父さん、待って。わたしもいく」
慌ただしく部屋を後にする二人の背中を見送って、兄に向き直る優人。和宏は立ち上がるところだった。
「部屋戻るの?」
「ああ、帰る準備しないとな」
帰ると決めれば後は早い。もともと大した荷物は持ってきていなかったため、鞄に衣類を詰めて終わり。
「平田くんに土産買わなくていいのか?」
旅館の入り口で売店を見ながら。
「ああ、うん。そうだね」
優人は荷物を持ったまま売店のワゴンに目を向ける。
「マグカップと饅頭どっちがいいかな?」
兄は隣に立つと饅頭の箱を手に取る。例のネコ饅頭の箱だ。
「ネコで良いんじゃないのか? 可愛いし」
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