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8──このまま堕ちて行けたら【実弟】
2 一族と決断と
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他人の恋愛は他人のもの。
自分の恋愛は他人には無関係。
そう思えたなら、人はもっと自由に愛を与えあうことができるだろう。
実際は倫理道徳観に支配され、性欲に支配される。
本当に好いた相手と結ばれる人は、この世にどれくらい占めるのだろうか?
一度も妥協をしたことがないと胸を張って言えるだろうか。
和宏の手首を車のシートに縫い付け、その胸に舌を這わせた。
「んんッ……」
優人に触発されれば、応じる兄が愛しい。
脇腹を撫で上げ、じっと彼の反応を伺う。車内にはロマンチックな曲が静かに流れている。
まるでこの世にふたりきりのような、静かな夜。この箱の中が世界の全てならば、どんなにか幸せだろう。
いつの間にか自分たちは、運命と言う名の大きな渦の中心にいて。
そこから抜け出すために、必死にもがいている。
『優人、本当に大丈夫?』
親族会議が終わった後、姉にそう問われた。
確かに大役だが、やってやれないことはないだろう。
元は遠江に原因があって借りを作ってしまったのだとしても、兄を救い出してくれたのは彼だ。
その借りを返すというのが、憎むべき相手である阿貴を救うという結果になったとしても。
今回は母から『阿貴が義姉と子を作った経緯』について聞くことが出来た。巻き込まれたのだから、経緯くらいは聞いておいても損はないだろうとも思う。
話を聞き、彼のしたことを許せるわけではないが同情もした。
やはり大元の問題は伯父にある。
伯父と阿貴の実母が無責任なことをしたばかりに、たくさんの人が傷つく結果となったのだ。
だが傷つけられたからと言って、他の人間を傷つける権利は誰にもない。すなわち、阿貴もまた身勝手。
自分はただ、これ以上兄が傷つくことのないよう彼らから守るだけ。
『本来なら、優人が阿貴を助ける義理なんてない』
姉、佳奈は旅館の中庭を見つめながら。
普段は明るく感情のままに話すことの多い姉。その彼女が今は感情を押し殺し低く言葉を繋ぐ。
『だが、実際に助ける相手は阿貴じゃない。俺たちにとっても従姉にあたる彼の義姉だ。俺たちは彼女を憎んではいない』
優人はパーカーのポケットからカフェオレの缶を取り出すと、姉に差し出しながら。
『そうね。同情すらしているわ』
佳奈は優人から缶を受け取るとプルタブを引いた。
『カフェオレなのね』
近くのベンチに腰かけた優人の方を見やり、彼女もそれに倣う。
黒い漆塗りのベンチには赤い布が被せられ、和を重んじたこの旅館の雰囲気にとても合っていた。
『うん』
この旅館は見えるところに自動販売機が置いていない。
景観を乱さないようにするためらしい。
『缶のストレートティーはあまり見かけたことがないし、ミルクティーはいまいちだからね』
雛本一家は母の影響で皆、紅茶派だった。
『ペットボトルはポケットに入れておけないし』
『まあ、伸びちゃうしね。重みで』
缶を両手で包み込み、優人をチラリと見やった佳奈。
彼女は優人の着ているパーカーが兄和宏から贈られたモノだということを知っていた。
『夜はどうするの?』
と彼女。
『あの人数じゃあ、大部屋で宴会だろう?』
昔から一族の結束は固い。
盆や正月には遠方から分家の者が多く本家へ集まる。今回は予定外の招集。
『宴会好きの一族にも困ったものよねえ』
『父さんが船盛だってはしゃいでいたね』
ため息をつく彼女に笑顔を向ける優人。
本家での集まりでは、女性陣が宴会の準備に駆り出される。それを経験している佳奈は今から疲れ切っていたが、優人はその雰囲気は嫌いではなかった。
『で?』
と佳奈。
『俺は兄さんとドライブにでも行ってくるよ』
『そうね。それが良いと思うわ』
恐らく阿貴や遠江も宴会には参加するだろう。今回の作戦には一族の協力は欠かせない。
そして差し伸べられた手をしっかりとつかむべきだと思う。
これが一族と阿貴の初めての一歩なのだから。
自分の恋愛は他人には無関係。
そう思えたなら、人はもっと自由に愛を与えあうことができるだろう。
実際は倫理道徳観に支配され、性欲に支配される。
本当に好いた相手と結ばれる人は、この世にどれくらい占めるのだろうか?
一度も妥協をしたことがないと胸を張って言えるだろうか。
和宏の手首を車のシートに縫い付け、その胸に舌を這わせた。
「んんッ……」
優人に触発されれば、応じる兄が愛しい。
脇腹を撫で上げ、じっと彼の反応を伺う。車内にはロマンチックな曲が静かに流れている。
まるでこの世にふたりきりのような、静かな夜。この箱の中が世界の全てならば、どんなにか幸せだろう。
いつの間にか自分たちは、運命と言う名の大きな渦の中心にいて。
そこから抜け出すために、必死にもがいている。
『優人、本当に大丈夫?』
親族会議が終わった後、姉にそう問われた。
確かに大役だが、やってやれないことはないだろう。
元は遠江に原因があって借りを作ってしまったのだとしても、兄を救い出してくれたのは彼だ。
その借りを返すというのが、憎むべき相手である阿貴を救うという結果になったとしても。
今回は母から『阿貴が義姉と子を作った経緯』について聞くことが出来た。巻き込まれたのだから、経緯くらいは聞いておいても損はないだろうとも思う。
話を聞き、彼のしたことを許せるわけではないが同情もした。
やはり大元の問題は伯父にある。
伯父と阿貴の実母が無責任なことをしたばかりに、たくさんの人が傷つく結果となったのだ。
だが傷つけられたからと言って、他の人間を傷つける権利は誰にもない。すなわち、阿貴もまた身勝手。
自分はただ、これ以上兄が傷つくことのないよう彼らから守るだけ。
『本来なら、優人が阿貴を助ける義理なんてない』
姉、佳奈は旅館の中庭を見つめながら。
普段は明るく感情のままに話すことの多い姉。その彼女が今は感情を押し殺し低く言葉を繋ぐ。
『だが、実際に助ける相手は阿貴じゃない。俺たちにとっても従姉にあたる彼の義姉だ。俺たちは彼女を憎んではいない』
優人はパーカーのポケットからカフェオレの缶を取り出すと、姉に差し出しながら。
『そうね。同情すらしているわ』
佳奈は優人から缶を受け取るとプルタブを引いた。
『カフェオレなのね』
近くのベンチに腰かけた優人の方を見やり、彼女もそれに倣う。
黒い漆塗りのベンチには赤い布が被せられ、和を重んじたこの旅館の雰囲気にとても合っていた。
『うん』
この旅館は見えるところに自動販売機が置いていない。
景観を乱さないようにするためらしい。
『缶のストレートティーはあまり見かけたことがないし、ミルクティーはいまいちだからね』
雛本一家は母の影響で皆、紅茶派だった。
『ペットボトルはポケットに入れておけないし』
『まあ、伸びちゃうしね。重みで』
缶を両手で包み込み、優人をチラリと見やった佳奈。
彼女は優人の着ているパーカーが兄和宏から贈られたモノだということを知っていた。
『夜はどうするの?』
と彼女。
『あの人数じゃあ、大部屋で宴会だろう?』
昔から一族の結束は固い。
盆や正月には遠方から分家の者が多く本家へ集まる。今回は予定外の招集。
『宴会好きの一族にも困ったものよねえ』
『父さんが船盛だってはしゃいでいたね』
ため息をつく彼女に笑顔を向ける優人。
本家での集まりでは、女性陣が宴会の準備に駆り出される。それを経験している佳奈は今から疲れ切っていたが、優人はその雰囲気は嫌いではなかった。
『で?』
と佳奈。
『俺は兄さんとドライブにでも行ってくるよ』
『そうね。それが良いと思うわ』
恐らく阿貴や遠江も宴会には参加するだろう。今回の作戦には一族の協力は欠かせない。
そして差し伸べられた手をしっかりとつかむべきだと思う。
これが一族と阿貴の初めての一歩なのだから。
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