上 下
38 / 114
8──このまま堕ちて行けたら【実弟】

1 夜に想いは融けて

しおりを挟む
 丘の上のちょっとしたスペース。
 車から降りてみれば街が一望できた。
 手すりに腰かけ隣に立つ和宏に視線を向ければ、彼はただじっと夜景を見つめている。

──俺だけを見ていればいいのに。

 そんなことを思いながら、優人は和宏に手を伸ばした。
「うん?」
 腰の辺りに絡みついた優人の手に気づく彼。引き寄せれば素直に優人の前に立つ。
「そんなに夜景に夢中にならないでよ」
 少しムッとして言えば、
「なんだ、ヤキモチか?」
と彼が笑う。
 腰を引き寄せ抱きしめると、彼の腕が首に回った。
「中で映画でも観ようよ」
「そうだな」
 優人は和宏にちゅっと口づけると立ち上がり、その手を取って車に向かって歩き出す。


 初恋の相手は姉だった。
 兄と姉は優人に対しての考え方が真逆。どちらも大切にしてくれていたと思う。
 過保護で転ばぬ先の杖をしたがる兄に対し、姉は自己の責任において自由と言うスタンス。可愛い子には旅をさせよという考え方だった。
 初恋が兄弟と言うのは、自分にその優しさが向けられるからだと思う。父母が初恋と言う人もいるだろう。しかしその想いは、大多数が一時的なモノ。
 自分が姉に対して恋心を失っていったのは、彼女の好きな相手が兄だったから。今はどう思っているのかは知らないが、二人で良く出かけているのを見て、嫉妬したこともある。

 自分は年が離れているから相手にされないのだろうか?
 そんなことを考えた時期もあり、背伸びしたがった。
 今思えば、兄弟から仲間外れにされているように感じ、嫉妬したのだろう。

 姉に嫉妬する自分をオカシイと思えなかった。
 姉に恋していたはずなのに、兄を独り占めしている姉に嫉妬したのだ。

「優人、映画観るんじゃなかったのか?」
 後部座席でモニターを観ていた和宏の腰を引き寄せ、その首筋に吸い付く。
 旅館でもあんなにしたのに、身体が兄を求めている。

 兄、和宏は過保護だが甘いわけではなかった。だからと言って冷たいわけでもない。ただ、優人を傷つける全ての者から守ろうとしただけ。
 そしてそれが自分も含まれると感じ、きっと優人の元を去ったのだろうと感じていた。
 だが実際は、
『お前に彼女が出来るのを傍で見ているのは辛いよ。お前、モテるし』
 そんなことを言うのだ。

──ヤキモチも可愛い。
 
 シャツのボタンに手をかけ、彼に口づける。
 露になったその肌に手を滑らせば、息を漏らす。
「ここでするのか?」
「カーテン閉めてるから見えないよ」
 場所をわきまえない自分に、兄は何を思うのだろう。大切にされていないと思うだろうか?
「お前、意外と……」
 何かを言いかけ、彼は小さく笑う。
「なに?」
 和宏をシートに押し倒し首を傾げれば、
「衝動的なんだなと思って。性欲なんかありませんみたいに振舞っているのに、いつも」
「兄さん以外には実際、立たないよ」
 彼に覆いかぶさり、口づけを求める。和宏は優人の言葉に一瞬驚いた顔をした。”こんなに求めてばかりいるのに、相手は自分だけなのか”と思ったのかもしれない。

「嫌?」
と問えば、
「ううん、嬉しいよ」
 それはきっと今の性衝動への返事ではないのだろう。
 それでも優人の背中に腕を回し、ぎゅっと抱き着くのが可愛い。優人はそんな彼を抱きしめ返した。
「俺はずっとお前のことが好きだった。今もずっと」
「愛しているよ、兄さん」
 ”そんな姿、他の人に見せたら嫌だよ?”と耳元で懇願すれば、
「そんなことするか、バカ」
と照れた口調で返答する彼。
 夢中になれる恋愛が誰にでも訪れるわけじゃない。どんなに憧れていても。だから、自分はとても幸せなのだと思った。

──人は人に愛以外の何を求めるというのだろう?
 意思があって思想のある人間を何人なんぴとたりとも押さえつけることはできないのに。

 想いは夜に溶けていく。優しい世界を願いながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

生意気な少年は男の遊び道具にされる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...