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7──許されるならば永遠に【兄】

1 欲しかった宝物

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 人は産まれながらに自由だ。
 自由に人を愛する権利がある。
 たとえそれが、世間一般に許されない関係だとしても。

『不倫とかなら反対するけれど、互いが良いならそれでいいの。恥じることはないわ、和宏』
 母は応援すると言ってくれた。
 愛されなさいと言ったのだ。
『父さんは?』
『和史も反対してないわ。可愛い自分の子供たちだもの、もちろん応援するわよ』
 仮に反対しても、母が説き伏せるのだろうと思う。
 父は母のことを溺愛しており、彼女の言うことに反対したことはない。そう、阿貴を引き取ると言った時でさえ。

『優人は優しくしてくれる? あの子はまだ子供だから』
と母が言う。
 それが愛の営みを指しているのだと知り、和宏は頬を染めた。
『とても優しいよ。上手いし』
と言えば、
『あら♡』
と表現しがたい表情で笑う。
『何かと心配になることもあるとは思うけれど、あの子は大丈夫。一途よ』
 離れていた間、いろんな子と付き合ったという話も聞いているので、母のその言葉は和宏にとって、とても心強かった。

 弟への想いを自覚して、ずっと辛い日々を送っていたのに。
 気づけば暗闇から救い出され、その温かい胸の中にいる。

「奥、行こうか」
 優人は部屋の鍵を閉めると和宏をじっと見つめた。
 二人きりは初めてではないのに、どうしてこんなにドキドキしてしまうのだろうか?
 奥へ行けばガラス戸の向こう側に温泉が見えた。
 部屋についているとは聞いていたが、なかなか豪華である。

「素敵だね」
 彼はそういうとスーツのジャケットをハンガーにかけ、ネクタイに指をかけた。和宏は、そんな優人の腕に思わず手を伸ばす。
「え?」
 K学園の高等部の制服は確かブレザー。母から送られてきた写真や動画の中には彼の制服姿はなかったように思う。
「見たかったな、お前の制服姿」
 丸っと三年。彼の高校時代にいなかった自分。

 いまさら悔やんでも仕方ないのに、宝物をどこかに落っことして来たような残念な気持ちになる。
「ブレザー?」
「うん」
「中等部だってブレザーだったじゃない」
「中学生と高校生は違うだろ」
 優人は首元を少し緩めただけで、和宏の腰を引き寄せると口づけをくれた。
「スマホに写真あるかな。お姉ちゃんが勝手に撮って送ってきたやつ」

 優人は胸ポケットに手を差し込むと、スマホを取り出し操作する。
「あった。これだけど」
 K学園高等部の制服はほんのり灰色がかったワイシャツにえんじのネクタイ。灰色系のジャケット。学校指定のセーターやカーディガンはベージュ。
 全体的に落ち着いた雰囲気なのが特徴である。
「お前、絶対モテただろ」
 細めのネクタイなのが良いのか、今回着て来たスーツと違って良く似合っていた。

「兄さんはヤキモチ妬きだなあ」
 ふふふっと彼が笑う。
 耳を包み込むようにして頬に手があてられ、その温かな手に自分の手を重ねた。
「俺ね。ずっと、ヤキモチを妬かれるのってめんどくさいなって思ってた」
 優しいその瞳がじっと和宏を捉える。
「でも、兄さんに妬かれるのは嬉しいかな」
 彼の瞳が唇を捉えたのをきっかけにして、和宏は瞳を閉じた。
 唇に触れる柔らかい感触。
 彼の舌は下唇をなぞり、歯を割って和宏の舌を求める。
 その口づけに甘く酔う。

「これからは、ずっと一緒だよ。どんな時でも」
 唇から離れた彼は強く和宏を抱きしめて。
「傍にいるから」
「じゃ……じゃさ」
「ん?」
 どうしたの? と言うように優しい声音。
 そんな優人に対し、
「制服姿、リアルで見たい」
と和宏が言えば、
「は?」
という反応。

「何、今更高校部の制服を着ろと?」
「うん。まだ卒業して一年経ってないし、着れるだろ?」
 優人は和宏のおねだりに、困惑気味だ。
「うーんじゃあ、こうしよう」
と彼。
「兄さんも着て」
「え? 俺は着られないと思うぞ?」
 すると、優人は和宏の両腰に手をあて、
「全然イケる」
と言うではないか。
「なに、俺は高等部の頃から成長してないって言いたいのか?」
 ”どうせ俺は華奢ですよ”と拗ねて見せれば、”可愛い”と優しく抱きしめられたのだった。
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