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6──雛本一族の問題【実弟】
4 一族の集う場所へ
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「優人、和宏」
集合場所に辿り着くと、母たちが待機していた。
ここから個々に”クヌギ旅館”へ向かうらしい。大人数になるので家族で纏まってと言われていたので、本日はワゴン車で来たのだが。
本家近くのコインパーキングには何世帯もの家族が集合していたが、割合は女性と子供が多い。本家の男性陣は抜けられない人もいたようだ。
家族で来ているのはやはり本家を出た世帯の方が多い。
うちの一族はこんな大人数だったのだなと、改めて感じた。
「うちは息子たちと行くから」
母の優麻が他の家族に声をかけている。
今日は遠くから電車で来ている人もいるようで車の貸し借りも行われているようだ。
「うちの車貸したから、優人たちの方乗っていくわよ」
と母。
「じゃあ、僕が運転するから子供たちは後ろに」
と父。
三列目の一番後ろに和宏と優人。
二列目に姉の佳奈が乗り込み、自分たち家族は先導車に続いたのだった。
「どんな感じなの?」
状況を把握したいと思った優人は車が走り出すなり、母に問う。
兄との久々の再会だというのに、父母にはそれを味わう余裕もない。
「本家の家長である祖父があんなだしねえ。もっとガツンと言ってくれたら、状況も変わると思うのだけれど」
一族のトップであるはずなのに、あまり強く出ない家長。優人にとっては曾祖父にあたる。
今回の件では、母の兄であり阿貴の父が好き勝手やっているらしい。
「先方はかなり年上なんだよね?」
「ええ。慰みものにでもするつもりなんだと思うわ」
その言葉を聞いた兄、和宏がぴくんと反応する。
真面目で一途で真っ直ぐな彼には、そのことが許せないのであろう。
優人は大丈夫というように、その手を握りこむ。
「奪還作戦はどんな計画?」
「無難に恋人役を送り込むのが良いって話だけれど」
優人が花嫁を奪い去るあれかと思っていると、
「それをね、優人にやって欲しいのよ」
「は?」
奪還の作戦内容案を持ってきたのは『遠江』だという。
初めは資産家であり社長の彼にやってもらうのが良いという話になったのだが、それだと嘘が見抜かれる可能性が高いという。
なにせ、彼女は阿貴と子を設けたくらいだ。
年上の彼では信憑性がないらしい。
「いや、待って。それはわかるけれど。なんで俺?」
本家の者では嘘がすぐにバレる。
今回分家のものもたくさん加勢には来ているが、その中で相手を納得させられる美男子と言えば……満場一致で優人が指名されたらしい。
「分家が集っている意味!」
「そっちは家族会議のためだから」
と母。
数時間かけて目的地に着くころには、ぐったりとしていた。
「あなたたちには二人部屋とったから」
車から降り、父に駐車を任せると母はそういった。他の世帯は適当に男女に別れて泊るというのに、豪勢だなと思っていると母が兄になにか耳打ちをする。
「?」
不思議そうにそれを眺める優人。
「きっと、おめでとうって言ってるのよ。お母さん」
「へ?」
一瞬思考が停止する。
まだ兄との関係は言っていないはずなのに。
「え? お姉ちゃん、えっと」
「いいって。言わなくても分かっているし」
そういう仲なんでしょ? と言われ優人はたじろぐ。
「部屋に露天風呂がついてるんだって。あんまり嵌め外さないようにね。聞こえちゃうから」
「ちょ!」
いいからいいからとジェスチャーで制止され、弁解の余地はなさそうだ。
──確かに、することしてるしなあ。
でも母さんにもバレているってこと?
「優人、行こう」
ほんのり顔を赤らめた兄に声をかけられ、優人は黙ってそれに従う。
まるで、”上手くね!”とでも言うように両手の親指を立て笑顔を見せる母に、止めろってと優人はジェスチャーして見せた。
本当に恥ずかしい。
兄弟なのに応援してくれる家族がいることに感謝しながら暖簾をくぐれば、高級感あふれた和の空間が広がっていた。漆塗りの柱に、鏡のように反射する板張りの廊下。掛け軸にも趣がある。
「部屋に露天風呂があるんだって」
と兄。
「一緒に入ろうね」
と言えば頬を染め彼はこくりと頷いた。
集合場所に辿り着くと、母たちが待機していた。
ここから個々に”クヌギ旅館”へ向かうらしい。大人数になるので家族で纏まってと言われていたので、本日はワゴン車で来たのだが。
本家近くのコインパーキングには何世帯もの家族が集合していたが、割合は女性と子供が多い。本家の男性陣は抜けられない人もいたようだ。
家族で来ているのはやはり本家を出た世帯の方が多い。
うちの一族はこんな大人数だったのだなと、改めて感じた。
「うちは息子たちと行くから」
母の優麻が他の家族に声をかけている。
今日は遠くから電車で来ている人もいるようで車の貸し借りも行われているようだ。
「うちの車貸したから、優人たちの方乗っていくわよ」
と母。
「じゃあ、僕が運転するから子供たちは後ろに」
と父。
三列目の一番後ろに和宏と優人。
二列目に姉の佳奈が乗り込み、自分たち家族は先導車に続いたのだった。
「どんな感じなの?」
状況を把握したいと思った優人は車が走り出すなり、母に問う。
兄との久々の再会だというのに、父母にはそれを味わう余裕もない。
「本家の家長である祖父があんなだしねえ。もっとガツンと言ってくれたら、状況も変わると思うのだけれど」
一族のトップであるはずなのに、あまり強く出ない家長。優人にとっては曾祖父にあたる。
今回の件では、母の兄であり阿貴の父が好き勝手やっているらしい。
「先方はかなり年上なんだよね?」
「ええ。慰みものにでもするつもりなんだと思うわ」
その言葉を聞いた兄、和宏がぴくんと反応する。
真面目で一途で真っ直ぐな彼には、そのことが許せないのであろう。
優人は大丈夫というように、その手を握りこむ。
「奪還作戦はどんな計画?」
「無難に恋人役を送り込むのが良いって話だけれど」
優人が花嫁を奪い去るあれかと思っていると、
「それをね、優人にやって欲しいのよ」
「は?」
奪還の作戦内容案を持ってきたのは『遠江』だという。
初めは資産家であり社長の彼にやってもらうのが良いという話になったのだが、それだと嘘が見抜かれる可能性が高いという。
なにせ、彼女は阿貴と子を設けたくらいだ。
年上の彼では信憑性がないらしい。
「いや、待って。それはわかるけれど。なんで俺?」
本家の者では嘘がすぐにバレる。
今回分家のものもたくさん加勢には来ているが、その中で相手を納得させられる美男子と言えば……満場一致で優人が指名されたらしい。
「分家が集っている意味!」
「そっちは家族会議のためだから」
と母。
数時間かけて目的地に着くころには、ぐったりとしていた。
「あなたたちには二人部屋とったから」
車から降り、父に駐車を任せると母はそういった。他の世帯は適当に男女に別れて泊るというのに、豪勢だなと思っていると母が兄になにか耳打ちをする。
「?」
不思議そうにそれを眺める優人。
「きっと、おめでとうって言ってるのよ。お母さん」
「へ?」
一瞬思考が停止する。
まだ兄との関係は言っていないはずなのに。
「え? お姉ちゃん、えっと」
「いいって。言わなくても分かっているし」
そういう仲なんでしょ? と言われ優人はたじろぐ。
「部屋に露天風呂がついてるんだって。あんまり嵌め外さないようにね。聞こえちゃうから」
「ちょ!」
いいからいいからとジェスチャーで制止され、弁解の余地はなさそうだ。
──確かに、することしてるしなあ。
でも母さんにもバレているってこと?
「優人、行こう」
ほんのり顔を赤らめた兄に声をかけられ、優人は黙ってそれに従う。
まるで、”上手くね!”とでも言うように両手の親指を立て笑顔を見せる母に、止めろってと優人はジェスチャーして見せた。
本当に恥ずかしい。
兄弟なのに応援してくれる家族がいることに感謝しながら暖簾をくぐれば、高級感あふれた和の空間が広がっていた。漆塗りの柱に、鏡のように反射する板張りの廊下。掛け軸にも趣がある。
「部屋に露天風呂があるんだって」
と兄。
「一緒に入ろうね」
と言えば頬を染め彼はこくりと頷いた。
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