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リーマン物語1
【七話・ちょ!たぬき】
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週末は飛んでもない日だったなとため息をつきつつ会社へ向かう月曜日。
ミラー張りのデカイ建物を見上げる。わが社、自宅マンションから徒歩五分。
路地裏には赤提灯、通りは二車線。通りの向かい側には有名デパート。なんとも雑多である。
自動ドアから中に入ると数人の男女に次々とデートに誘われた。
今日はモテるdayか? それともエイプリルフールか? と思いながら塩田は
「断る」
と告げ、ずんずんと例の噴水まで歩いて行く。
手すり下の落下防止がガラス張りの階段をのぼろと上を見上げて固まった。吹き抜けの高い天井。二階の手すりからぶら下がる垂れ幕。そこに達筆であり墨汁で書かれた不穏な文字の羅列。
【塩田争奪戦♡みんながんばって by社長】
と、あった。
あのクソたぬき! なんてことをしてくれるんだ。
その間も
「おはよー! 俺の塩田」
と声をかけられる。
「俺は俺のものだ」
塩田は謎の言葉を告げ苦情係へ向かったのだった。
「ズルいでしょ! みんなだけ焼き肉行ってさー」
始業時間ギリギリに電車はやってきて板井の小指につまずき転び、そこへやってきた社長が横切ろうとしていた課長と激突。課長はコーヒーをかぶった。いつも通りの光景である。
「子供か!」
社長がすね、隅っこでいじけていた。
****
「塩田くん、僕とも遊ぼう」
「は?」
社長は気を取り直すと塩田に提案した。塩田の反応は妥当である。
「夜景見に行こう! いいワイン呑ませてやるし、リムジンでお出迎えしてあげるから」
「夜景は家から見えます。ビール派だし、そんな目立つ送迎は結構です」
誰に誘われようが遠慮なく断る。それが塩田であり、塩田にしかできない芸当だ。よって支配欲を掻き立てられるためモテる、モテすぎる。crazyだ。
「じゃあ、うちの娘と結婚しよう。なんなら妻もつけるし」
(おいおい)
「は?」
たぬきが義理の父になったら名実共に“たぬき親父”にしかならんが?
「そんなハーレム要りません」
「じゃあ、キャバクラ行く? 行っちゃう?」
「行きません」
「なんでそんな冷たいの? たぬき汁好き?」
それでは共食いだろ。
「好みません」
「じゃあじゃあ、旅行は? バナナの聖地……」
「俺行く!」
何故か横から電車が飛び出した。電車は塩田の腕に自分の腕を絡めカップルのようだ。
「塩田、楽しみだね♡」
何故か旅行に行くことになった。
「じゃあ、俺も行くわ」
「課長ー! 俺を残して?!」
仕事を一人でやらなきゃならないのかと思った板井が悶絶する。
「板井もくればいいじゃん」
え? この面子で?
****
「なんで塩田くんを誘ったらこんなに人数が増えるんだね?」
何故か管理人もいくらしい。
「俺、モテるんで」
半ばヤケクソだった。
いくなんていっていないのに、何故か行くことに。
そもそもバナナの聖地ってなんだよ! どこだよ、そこ。と思っていた。
「社長、チョコバナナ食います?」
いつの間にかみんなチョコバナナを頬張っている。板井特性チョコバナナ。生チョコで作っているのでかなり旨い。口が汚れるが。
「食べる」
「はい、塩田」
物欲しそうな目をしていたのか、塩田にもバナナチョコが配られた。大満足である。そして、相変わらず緩い会社だ。
「ん?」
そこで黒電話がなった。どうやら苦情らしい。
「はい」
『ちょっと! なんで苦情係だけこんな時期に慰安旅行なの?! ズルくない?!』
情報が早いなと思ったら社長が普通に通達していた。アホである。
ふと、苦情係の入り口をみたら別の部署の連中が中を窺っている。
「社長タヌキに直接言っていただけますか?」
「……」
まったくいい迷惑である。
「塩田くん!」
「はい?」
「アロハとポロシャツどっちがいいかな?!」
社長ははしゃいでいる。
タヌキはどっち着ても変わらないと思うんだが。
****
お手洗いからの帰り、塩田は四人の男女に囲まれた。
どうやら社内でのエリートに位置する企画部の面々である。
「塩田ー」
肩に腕を置き、馴れ馴れしく話しかけてくるイケメンと、腕に手を絡める美女。しかし物怖じしない社内No.1塩男、塩田。
「何か?」
「社長と慰安旅行行くんだって?」
とイケメンが。
「ちょっとズルくなーい?」
と美女が。
社長に直接言えと返そうとしたらそうではなかった。
「なあ、俺たちと旅行しようぜ」
「豪華客船よ」
「船は苦手だ、断る」
塩田は気にせず断った。
「え~⁈ じゃあ、ヨーロッパとか」
「飛行機ならいいでしょ?」
「空は苦手だ、断る」
彼らもそこで引き下がったりはしない。
「国内がいいのか?」
「シシャモ取りに行きましょうよ」
塩田の心は一ミリ揺らいだ。
「間に合っている」
夕飯はスーパーでシシャモを買おう。
100円だしな。
塩田は四人を振り払い、商品部のドアに手をかけた。
「諦めないからな!」
「新しいプラン持ってくるわよ!」
さすが企画部、根性が半端ない。
「あ、塩田さん! わたしとデートしましょうよ」
商品部のドアを開けたとたん、次の誘いが来た。
「なんで?」
塩田vs社員の戦いは続く。
****
「お、塩田じゃん」
商品部でなんとか誘いをかわすと、今度は営業のイケメン二人に呼び止められる。
なんだ、今日は!
なんのゲームだよ。
(たぶん、バナナ争奪戦)
「なんだ、顔が命の営業部」
「今日、俺たちと呑みにいかん?」
「なぜだ?」
理由を問えば大抵は引くが、さすが営業、食い下がってきた。これは歩が悪い。
今まさに、苦情係vs.営業部の火蓋が切っておと……されたりはしない。うん、残念だ。
「塩田くんは、美女が好きなのよねー」
どこから現れたのかやたら露出度の高い受付嬢が乱入してきた。
「違います! 塩田さんは清楚系が好きなんです!」
社長秘書も乱入してくる。
「人数も丁度いい。四人でいきたまえ」
塩田はメガネをくいっとあげると丸く収めたつもり……だった。
「おい! 俺たちは塩田を誘ってるんだぞ」
営業は諦めない。四人はぎゃあぎゃあ言いながら苦情係まで追ってきたが、テンプレートが発生。
次々と板井の小指につまづいて転んだ。
「いてっ!」
「きゃっ!」
「ちょっ!」
「きゃあああ」
「お前ら何しに来たの? 小指折れるし」
板井は涙目で小指をさすっていたのだった。
****
カウンターの内側に逃げた塩田は惨事に巻き込まれはしなかったが……。
「なんだこりゃ」
ファックスも送信できるコピー機がチカチカしていた。おそるおそるフタを開けてみるとA4サイズのコピー用紙に達筆な字で何か書いてある。
『塩田をゲットした者に、金一封(10万円) 社長』
塩田が裏返してみるとそう記してあった。
「おい! たぬきいいい!」
用紙を持って振り返るが、社長はすでに逃亡後。そこにいた全員が商品部からの出口を指している。
「わ、わたくしも戻りますわ」
社長秘書がいそいそと苦情係りを出て行こうとすると我先にと受付嬢と営業の二人が苦情係りの出口に殺到し、再びテンプレート作動。
板井の小指に躓き順番に胴体からズササササッと商品部に雪崩れ込んでいった。テンプレート恐るべし。
「何なんだよー! 短時間で八回も小指に躓くとか。複雑骨折しちゃうだろ!」
板井は涙目で小指を擦っているが、バナナが……もとい、電車がのほほんと
「いい加減、安全靴にしたら?」
と、進言する。
「足首、挫きそう」
「ありうるな」
二人の話を黙って聞いていた課長はまるご○バナナを咥え、片手にコーヒーカップを持ちながら。
また食っているのかよ!
よく飽きないな。
よく太らんな!
「なんすか、一人だけ良いもの食べて」
「買ってくれば……いや、電車でんまの場合、いつコンビニにたどり着くか分からんな。一つやろう」
「わーい。バナナ♪」
まったくもって暢気である。
「俺には?!」
と、板井が便乗した。
「なんだお前ら、バナナ派か?」
と、課長。
「もともとバナナです」
電車がいやに真面目な顔をして返事をする。
バナナ愛しすぎだろ……。
****
「しかし、何で課長は一日にまるごとバ○ナを十本も食べて太らないんです?」
と、板井。
課長はコーヒーカップを口元に持っていきながらその人差し指で簡易キッチンの奥を差した。どうやら壁と同じ色の扉があり、何か張り紙がしてある。電車が近づいてみてみると……。
『トレーニングルーム』
と下手くそな字で書いてあった。
どうやら課長が書いたらしい。恐る恐る扉を開けると様々なトレーニング機器が置いてあった。
「俺の私物だ、使っていいぞ」
「やったー」
と、電車。
しかし彼は痩せ型だ。
「さすが課長」
と、板井。
しかし彼は鍛える必要の無いくらいマッチョだ。
「塩田も使えよー」
と課長。
しかし塩田は嫌な顔しかしない。
そもそも何故、私物が会社にあるんだ!
「わたしも使います」
いつの間にか塩田のマンションの管理人がまるごとバナ○持参で課長の隣にいた。
社員でもないのにしょっちゅう来るが、マンションの管理はいいのか!
「管理人さんは鍛えてどうするの?」
電車が好奇心で話しかけると
「ベランダから塩田さんの家に忍び込む時、意外と筋肉使うので」
意外とどころではない。
「あー黒バナナ盗む時ね」
と、課長。
「いえ、交換です」
まるでスマホの部品交換のような気軽さだ。
ちゅるるとタピオカドリンクを吸い上げて。
それも持ってきたのか!
「え、でも合鍵ありますよね?」
と、板井。
「スパイダー○ンに憧れているので」
ちょ、まて。
やってることはヒーローじゃなくてバナナ泥棒よ?
「あ、そうだ。塩田さんちの最新フォト」
「え、首相だけじゃ飽き足らず……」
管理人のスマホを覗いていた三人が塩田のほうを渋い顔で見た。
「な、なんだよ」
「トランプさんのもあるの?」
おパンツのバックプリントの話である。
ミラー張りのデカイ建物を見上げる。わが社、自宅マンションから徒歩五分。
路地裏には赤提灯、通りは二車線。通りの向かい側には有名デパート。なんとも雑多である。
自動ドアから中に入ると数人の男女に次々とデートに誘われた。
今日はモテるdayか? それともエイプリルフールか? と思いながら塩田は
「断る」
と告げ、ずんずんと例の噴水まで歩いて行く。
手すり下の落下防止がガラス張りの階段をのぼろと上を見上げて固まった。吹き抜けの高い天井。二階の手すりからぶら下がる垂れ幕。そこに達筆であり墨汁で書かれた不穏な文字の羅列。
【塩田争奪戦♡みんながんばって by社長】
と、あった。
あのクソたぬき! なんてことをしてくれるんだ。
その間も
「おはよー! 俺の塩田」
と声をかけられる。
「俺は俺のものだ」
塩田は謎の言葉を告げ苦情係へ向かったのだった。
「ズルいでしょ! みんなだけ焼き肉行ってさー」
始業時間ギリギリに電車はやってきて板井の小指につまずき転び、そこへやってきた社長が横切ろうとしていた課長と激突。課長はコーヒーをかぶった。いつも通りの光景である。
「子供か!」
社長がすね、隅っこでいじけていた。
****
「塩田くん、僕とも遊ぼう」
「は?」
社長は気を取り直すと塩田に提案した。塩田の反応は妥当である。
「夜景見に行こう! いいワイン呑ませてやるし、リムジンでお出迎えしてあげるから」
「夜景は家から見えます。ビール派だし、そんな目立つ送迎は結構です」
誰に誘われようが遠慮なく断る。それが塩田であり、塩田にしかできない芸当だ。よって支配欲を掻き立てられるためモテる、モテすぎる。crazyだ。
「じゃあ、うちの娘と結婚しよう。なんなら妻もつけるし」
(おいおい)
「は?」
たぬきが義理の父になったら名実共に“たぬき親父”にしかならんが?
「そんなハーレム要りません」
「じゃあ、キャバクラ行く? 行っちゃう?」
「行きません」
「なんでそんな冷たいの? たぬき汁好き?」
それでは共食いだろ。
「好みません」
「じゃあじゃあ、旅行は? バナナの聖地……」
「俺行く!」
何故か横から電車が飛び出した。電車は塩田の腕に自分の腕を絡めカップルのようだ。
「塩田、楽しみだね♡」
何故か旅行に行くことになった。
「じゃあ、俺も行くわ」
「課長ー! 俺を残して?!」
仕事を一人でやらなきゃならないのかと思った板井が悶絶する。
「板井もくればいいじゃん」
え? この面子で?
****
「なんで塩田くんを誘ったらこんなに人数が増えるんだね?」
何故か管理人もいくらしい。
「俺、モテるんで」
半ばヤケクソだった。
いくなんていっていないのに、何故か行くことに。
そもそもバナナの聖地ってなんだよ! どこだよ、そこ。と思っていた。
「社長、チョコバナナ食います?」
いつの間にかみんなチョコバナナを頬張っている。板井特性チョコバナナ。生チョコで作っているのでかなり旨い。口が汚れるが。
「食べる」
「はい、塩田」
物欲しそうな目をしていたのか、塩田にもバナナチョコが配られた。大満足である。そして、相変わらず緩い会社だ。
「ん?」
そこで黒電話がなった。どうやら苦情らしい。
「はい」
『ちょっと! なんで苦情係だけこんな時期に慰安旅行なの?! ズルくない?!』
情報が早いなと思ったら社長が普通に通達していた。アホである。
ふと、苦情係の入り口をみたら別の部署の連中が中を窺っている。
「社長タヌキに直接言っていただけますか?」
「……」
まったくいい迷惑である。
「塩田くん!」
「はい?」
「アロハとポロシャツどっちがいいかな?!」
社長ははしゃいでいる。
タヌキはどっち着ても変わらないと思うんだが。
****
お手洗いからの帰り、塩田は四人の男女に囲まれた。
どうやら社内でのエリートに位置する企画部の面々である。
「塩田ー」
肩に腕を置き、馴れ馴れしく話しかけてくるイケメンと、腕に手を絡める美女。しかし物怖じしない社内No.1塩男、塩田。
「何か?」
「社長と慰安旅行行くんだって?」
とイケメンが。
「ちょっとズルくなーい?」
と美女が。
社長に直接言えと返そうとしたらそうではなかった。
「なあ、俺たちと旅行しようぜ」
「豪華客船よ」
「船は苦手だ、断る」
塩田は気にせず断った。
「え~⁈ じゃあ、ヨーロッパとか」
「飛行機ならいいでしょ?」
「空は苦手だ、断る」
彼らもそこで引き下がったりはしない。
「国内がいいのか?」
「シシャモ取りに行きましょうよ」
塩田の心は一ミリ揺らいだ。
「間に合っている」
夕飯はスーパーでシシャモを買おう。
100円だしな。
塩田は四人を振り払い、商品部のドアに手をかけた。
「諦めないからな!」
「新しいプラン持ってくるわよ!」
さすが企画部、根性が半端ない。
「あ、塩田さん! わたしとデートしましょうよ」
商品部のドアを開けたとたん、次の誘いが来た。
「なんで?」
塩田vs社員の戦いは続く。
****
「お、塩田じゃん」
商品部でなんとか誘いをかわすと、今度は営業のイケメン二人に呼び止められる。
なんだ、今日は!
なんのゲームだよ。
(たぶん、バナナ争奪戦)
「なんだ、顔が命の営業部」
「今日、俺たちと呑みにいかん?」
「なぜだ?」
理由を問えば大抵は引くが、さすが営業、食い下がってきた。これは歩が悪い。
今まさに、苦情係vs.営業部の火蓋が切っておと……されたりはしない。うん、残念だ。
「塩田くんは、美女が好きなのよねー」
どこから現れたのかやたら露出度の高い受付嬢が乱入してきた。
「違います! 塩田さんは清楚系が好きなんです!」
社長秘書も乱入してくる。
「人数も丁度いい。四人でいきたまえ」
塩田はメガネをくいっとあげると丸く収めたつもり……だった。
「おい! 俺たちは塩田を誘ってるんだぞ」
営業は諦めない。四人はぎゃあぎゃあ言いながら苦情係まで追ってきたが、テンプレートが発生。
次々と板井の小指につまづいて転んだ。
「いてっ!」
「きゃっ!」
「ちょっ!」
「きゃあああ」
「お前ら何しに来たの? 小指折れるし」
板井は涙目で小指をさすっていたのだった。
****
カウンターの内側に逃げた塩田は惨事に巻き込まれはしなかったが……。
「なんだこりゃ」
ファックスも送信できるコピー機がチカチカしていた。おそるおそるフタを開けてみるとA4サイズのコピー用紙に達筆な字で何か書いてある。
『塩田をゲットした者に、金一封(10万円) 社長』
塩田が裏返してみるとそう記してあった。
「おい! たぬきいいい!」
用紙を持って振り返るが、社長はすでに逃亡後。そこにいた全員が商品部からの出口を指している。
「わ、わたくしも戻りますわ」
社長秘書がいそいそと苦情係りを出て行こうとすると我先にと受付嬢と営業の二人が苦情係りの出口に殺到し、再びテンプレート作動。
板井の小指に躓き順番に胴体からズササササッと商品部に雪崩れ込んでいった。テンプレート恐るべし。
「何なんだよー! 短時間で八回も小指に躓くとか。複雑骨折しちゃうだろ!」
板井は涙目で小指を擦っているが、バナナが……もとい、電車がのほほんと
「いい加減、安全靴にしたら?」
と、進言する。
「足首、挫きそう」
「ありうるな」
二人の話を黙って聞いていた課長はまるご○バナナを咥え、片手にコーヒーカップを持ちながら。
また食っているのかよ!
よく飽きないな。
よく太らんな!
「なんすか、一人だけ良いもの食べて」
「買ってくれば……いや、電車でんまの場合、いつコンビニにたどり着くか分からんな。一つやろう」
「わーい。バナナ♪」
まったくもって暢気である。
「俺には?!」
と、板井が便乗した。
「なんだお前ら、バナナ派か?」
と、課長。
「もともとバナナです」
電車がいやに真面目な顔をして返事をする。
バナナ愛しすぎだろ……。
****
「しかし、何で課長は一日にまるごとバ○ナを十本も食べて太らないんです?」
と、板井。
課長はコーヒーカップを口元に持っていきながらその人差し指で簡易キッチンの奥を差した。どうやら壁と同じ色の扉があり、何か張り紙がしてある。電車が近づいてみてみると……。
『トレーニングルーム』
と下手くそな字で書いてあった。
どうやら課長が書いたらしい。恐る恐る扉を開けると様々なトレーニング機器が置いてあった。
「俺の私物だ、使っていいぞ」
「やったー」
と、電車。
しかし彼は痩せ型だ。
「さすが課長」
と、板井。
しかし彼は鍛える必要の無いくらいマッチョだ。
「塩田も使えよー」
と課長。
しかし塩田は嫌な顔しかしない。
そもそも何故、私物が会社にあるんだ!
「わたしも使います」
いつの間にか塩田のマンションの管理人がまるごとバナ○持参で課長の隣にいた。
社員でもないのにしょっちゅう来るが、マンションの管理はいいのか!
「管理人さんは鍛えてどうするの?」
電車が好奇心で話しかけると
「ベランダから塩田さんの家に忍び込む時、意外と筋肉使うので」
意外とどころではない。
「あー黒バナナ盗む時ね」
と、課長。
「いえ、交換です」
まるでスマホの部品交換のような気軽さだ。
ちゅるるとタピオカドリンクを吸い上げて。
それも持ってきたのか!
「え、でも合鍵ありますよね?」
と、板井。
「スパイダー○ンに憧れているので」
ちょ、まて。
やってることはヒーローじゃなくてバナナ泥棒よ?
「あ、そうだ。塩田さんちの最新フォト」
「え、首相だけじゃ飽き足らず……」
管理人のスマホを覗いていた三人が塩田のほうを渋い顔で見た。
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