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━1章【HAPPY ENDには程遠い】━

10-2 はじめてのデート

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 ****♡side・美崎


 土曜日は晴天、絶好のデート日和であった。大里の見栄っ張りな性格が二人に幸運を呼ぶ。

『駅から近くてセキュリティがしっかりしている、日当たりのよく使いやすい部屋を見せること』
 担当者は大里からそう言いつけられていたらしく、あっという間に気に入った部屋を見つけることができ、仮契約を済ませた。未成年であることもあり、本契約は親に任せるしかない。

「てっきり、担当者さんとの顔合わせくらいは大里が来てくれるものだと思ったから焦ったよ」
 と美崎が言えば、
「なんか今日はモデルの撮影らしいぞ」
 と鶴城から返事。
「え? 大里、モデルなんかやってたのか?」
「いや、大崎のところの自社ブランドの衣料品の。店内で無料配布しているカタログのモデルだってよ」

 ──ん? 大崎グループの?
  確か大里のとこもアパレル部門あったよな?
  どういうこと?

 両家は仲が良いらしいが、ライバル会社だ。そのライバル相手のカタログのモデルをするとはどういうことなのか。
「大崎と片倉、霧島、大里の四人でやってるらしいぞ」
「は?」

 ──いやいや、まてまて。
 何で今世間で騒がれている三人で一緒にやってるんだ?

 美崎は、夏休み頃からワイドショーで取り上げられている“泥沼の三角関係”という見出しを思い出す。
「それについては、生徒会の選挙の応援演説も似たようなものだろ」
 美崎の疑問に彼はそう言って笑った。彼ら四人が入学してきた頃は“大里”と“大崎”の話題でもちきりだった学園も、ものの数ヶ月であっという間に変化を遂げた。
 美崎は思う。来年は、そこに自分はいないのだと。
 圭一も去年自分と同じ事を考えたのだろうか?
 この時、美崎にもやっと“鶴城の不安”の正体が見え始めていたのだった。

   **・**

 土曜日は何処へ行っても人がいっぱいだ。
 大崎グループ系列のデパートでは一階に“噂のカタログ”とやらが沢山置いてあり、興味本位で中身を見て吹く。
「何笑ってんだよ」
「いや、だって」
 今置かれているものには大里は参戦していないらしく久隆、片倉、霧島の三人がモデルをしているのだが。無料で配るものにしてはえらく本気モードなのだ。
 しかもカタログは大変人気のようで。
 男性向け衣料品のカタログにも関わらず、先ほどから手にしていくのが女性ばかりなのである。

「服を売る気はあるのか? と思って」
「確かに三人の写真集みたいになってるわな」
 美崎の手元を覗き込み、彼も笑った。
「で、撮影何処でやってるんだ?」
 美崎はデパートの一角でも使って話題作りでもしているのでは? と、キョロキョロ周りを見渡す。
「本社の方じゃないのか? こんなところじゃやらないだろ」
 と鶴城に言われガッカリした。
「なんだよ、あからさまにガッカリして」
「この間、大崎が片倉にボロクソ言われていたから、こういう時どうなのかと思って」
 撮られ慣れているのか、あのベビーフェイスからは想像つかないほどカタログの中の久隆はカッコよかった。
「大崎は化けるよなー」
「表情の作り方、上手いよな」
 二人はカタログを見ながら感心する。
「さて、インテリアを見に行こう」
 鶴城がそう言って手を差し出すと、美崎はその手を掴み二人は奥へ向かって歩き出した。

 二階にあるインテリアショップは家族連れや若い女性で賑わっている。
 このショップはウッド素材やモノクロのものをメインに扱っているようだ。
「お洒落な店だな」
 “何を買うんだ?”と問われ、美崎は木の皿に視線を移す。鶴城と一緒に暮らすことが今日の内覧で現実味を帯び、お揃いの皿が欲しいと思ったのである。
「お洒落で良いけれど、手入れが大変じゃないのか?」
「オリーブオイルとキッチンペーパーで手入れできるみたい」
 美崎が彼を見上げそう返した時、二人に影がさす。
「鶴城ー!」
 声の主は二人組の男子。
「ん? ああ」
 彼らはどうやら鶴城のクラスメイトらしい。美崎は親しそうに話をする三人を視界の端に入れつつ、皿を吟味していた。

『たった一つしか違わないのに、どうして一緒に居られないんだろ。俺は、去年の片倉が居なかった一年より、来年優也が居なくなる一年のほうがずっとずっと辛い』
 美崎はふと、彼が言っていたことを思い出す。
 その現実が目の前にあった。

 自分が卒業した後の世界。
 鶴城は自分と過ごしていた放課後を友人と過ごすようになるのだろうか。なんだか急に辛くなって唇を噛み締める。

「!」
 いつの間にか鶴城が側に立っており、後ろから片腕を伸ばし抱き寄せられた。
「紹介する、俺の好きな人。美人だろ?」
 何事かと思い、身体を反転させると鶴城は美崎を二人に紹介している。
「先輩って、風紀委員長してる美崎先輩ですよね?」
 鶴城の友人の一人に聞かれ美崎は頷く。
 すると、
「やっぱりそっか。鶴城、いつも美崎先輩の話ばっかしてるんですよー」
 と言われた。
「おい、やめろよ!」
 それを慌てて鶴城が止めている。それは珍しい光景。
 一通り騒がしくすると、友人らは手を降って去っていく。

 二人はデパートを出ると裏路地を喫茶店を探してのんびりと歩いていた。
「まったく」
 恥ずかしいことを暴露され、鶴城はため息をつく。
「慎」
 そんな彼に声をかける美崎。
 決心が鈍る前に伝えたいことがある。
「ん?」
 美崎は心を決め、彼の腕に手を添えたのだった。
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