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━2章【不器用な二人】━
4『嬉しい旅行』
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****♡side・美崎
「ここじゃ、嫌だ」
どこでもすぐ襲ってくる鶴城。襲うなといっても無駄なことはわかっている。だからといって全て相手の思い通りなんて許せない。
「駄目なのは場所だけ?」
あらかた脱がされてしまっている。全裸に近い姿で移動するのは嫌だなと思っていたら抱き上げられた。お姫様抱っこというやつである。
ロマンチックに憧れる美崎は心がときめく。
「ほら、腕回して」
言われて慌てて彼の首に腕を巻きつけた。
「やだッ……」
「なんで、綺麗だよ?」
「暗くしてってば」
いつだって鶴城は強引で、美崎の全てを見たがる。恥ずかしいところも全部。
──あの子なら小柄だし、可愛いかもしれないけれど。
そんな風にいつだって自分とあの子【片倉葵】と比べるのは間違っていると頭では理解はしていても、心は追いつかない。
「慎ッ……やだっていってるだろッ!」
「見たい、目に全部焼き付けたいのになんで駄目なんだよ」
「恥ずかしいから」
じっと涙目で見つめていたらちゅっと口付けされてしまう。
「はいはい」
最後は折れてくれる。そんな彼が大好きなのだ。
──可愛らしく生まれてきたかった。
慎の好みに。
そしたらこんなに不安にはならないのに。
「んんッ」
「こうしたら見えなくなっちゃうだろ?」
美崎は奥を突かれながらぎゅっと彼にしがみついた。
「見なくていいの!」
「なんでだよ」
鶴城は繋がる部分を見るのが好きなようで、煌々と明かりの照らすところで美崎の奥の蕾を舐め回すのだ。美崎からしてみればただの変態である。
「俺だけのものだと思うと愛しくて可愛くて、舐め……」
そこで美崎は手の平で鶴城の口を塞いだ。
「なに朝からトチ狂ったこと言ってるんだよ!」
──俺のことかと思って聞いていたらアソコのことだったなんて!
慎の馬鹿!
「やれやれ、うちのお姫様は激しいんだから」
「やれやれはこっちだよ」
なんだこいつ! と言わんばかりに睨みつけていたら、彼はなぜか嬉しそうに笑った。
──変態め!
**・**
朝から好き勝手され、だるい身体を引きずるように学園に向かい、やっとのことで一日を終える。今日はさっさと見回りを終わらせようとしていたら、風紀の後輩たちから今日は自分たちがやりますからと優しい言葉をかけられた。
そのことを知らない鶴城を迎えに美崎がいつものように生徒会室に行くと先客がいた。
一年の【大里聖】である。
以前ならいつものことなのだが、最近は大崎たちといてあまり生徒会室に顔を出さない上に、生徒会室に来る時は【黒川彩都】を連れてくるので違和感しかない。
しかも何故かイヤホンまでつけて自分の世界に入っている。それは話しかけるなと言わんばかりで。”何しに来たんだよ? アイツ”と顔と親指を使い鶴城にジェスチャーで問いかければ彼は大仰に両手を広げ、首を傾げ”さあ?”というジェスチャーを返してくる。
「ほっといていいのかよ?」
美崎が彼に声をかけると
「いいんじゃね?」
と返事され、旅行ガイドを渡された。
「子供じゃないんだし」
と、続けながら
「子供だろ!」
美崎はすかさずツッコミを入れる。
「あのなあ、大里が構って欲しい相手は大崎だけなんだからほっときゃいいんだよ」
呆れ顔でため息をつく鶴城に、
「まともな事も言うんだな」
と素で言ってしまい、
「おまっ……酷いな。俺を何だと思ってるんだよ」
と、笑われたが。
「え? 発情期の猿」
と真顔で返すと、鶴城は怒るでもなく爆笑した。
「なんだよ」
「いや、優也はそんな俺が好きなんだな、と思って」
「好きとかいってないぞ?」
「好きだろ?」
──うわ! ずりい!
**・**
「さて、俺たちも帰るぞ」
「うん」
鶴城に手を差し出され美崎はそれを握った。
「温泉楽しみだな」
鶴城は初めて美崎と風呂をともに出来ることをすごく喜んでいるようだった。それを知ってなんだかとても複雑な気持ちになる。
──そ、そりゃ、俺だって一緒に入るのはイヤじゃないけど。
慎はどこでも襲って来るしさ。
身体洗ってるの見られるの恥ずかしいし。
イチャイチャはしたいけど。
「電車の時間大丈夫かな?」
学園から家、家から駅。どちらも近い。
間に合うかよりもタイミングのことを言っているのは明らかであった。
「すぐ来るよ、きっと」
鶴城にそう返せば、彼はこちらを見下ろしニコッと笑う。美崎は彼の笑顔が好きだ。優しげで落ち着く。
二人は家に着くとすぐに私服へ着替え、荷物を掴み駅へと向かった。初めての旅行に心が躍る。遠出は初めてだった。電車の座席に並んで座るとやっと実感が沸き、笑みがこぼれる。
「嬉しい?」
「もちろん」
鶴城に問われ頷くと繋いだ手を強く握られた。
「こんなことなら、もっと早く旅行に連れて行けば良かった」
後悔を含んだ声音に、美崎は困った顔をして彼を見つめる。
「俺さ、優也が嬉しそうだと凄く嬉しいし、幸せな気持ちになるんだ」
──慎は強引でまったく言っても聞かないやつだけど。
優しい……。
「だから、そんなに嬉しそうな優也を見ていると後悔してしまう」
「これからいっぱい連れて行ってくれるんだろ?」
「それは、もちろん」
美崎は彼の肩に頭をつけ寄りかかった。
「いっぱい思い出作ろうよ」
甘えるように言えば彼の指が唇に触れる。
「これから、たくさんな」
それは、ずっと一緒にいような。という意味であった。
「うん」
──ずっと、一緒にいたい。
なんだかんだで、慎が好きだ。
いつでも、俺のこと一番に考えてくれる慎が。
**・**
黒い漆塗りの木造の建物、赤いのれん。シマトネリコ。ほんのり色を変え始めた木々。もっと秋らしく紅葉が深まればさらに風流になるだろう。まさに老舗旅館といった存在感であった。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
女将を筆頭に従業員がおもてなしをしてくれるのだが、美崎はそこであることに気がついた。
「ね、鶴城」
部屋に着くなり、気付いたことを聞いてみる。
「ここって、片倉の?」
「ん?」
鶴城が中学時代に好きであり、後輩でもある”片倉 葵”の父が社長であるということは知っていたがどんな会社を経営しているとか、どんな職業であるとか詳しいことを聞いたことはなかった。しかし先ほどロビーのフロントにあった証明書には片倉グループの名があり、それがとても気になったのだ。
「ああ、そうかもな」
鶴城はまったく興味がないようで、広縁から露天風呂を楽しげに覗きこんでいる。
疑っていたわけではないけれど、片倉ってほんとに良いとこの坊ちゃんなんだな。そんなことを思いながら、鶴城の背中を眺めていると彼が振り返る。
「少し休憩したら、入ろうや」
黒い角型のちゃぶ台の上には和菓子とお茶のセットが乗っていた。こういう老舗の旅館では仲居さんがお世話をしてくれるものだが、露天風呂付きの客室でお忍びでくることも多い高級旅館であるからあえて仲居は姿を現さなかった。フロントにて、担当は夕飯時の午後七時ごろ来ると言っていた。
「お、見てみろよ」
和菓子の人形焼はネコの形をしている。
「可愛い」
美崎が呼ばれて近づけば、先にあぐらをかいて座っていた鶴城が両手をこちらに向かって広げる。
「え?」
「来いよ、いいだろ?」
こんなこと初めてで、美崎は戸惑っていた。ムードの欠片もない強引絶倫男が膝の上に来いというのだ。もちろん、美崎はときめいた。
「なんだよ、大人しいじゃん」
頬を染め鶴城の膝の上にちょこんと腰掛けた美崎に彼は笑う。
「嫌がるかと思った」
彼に横抱きにされ、ちゅっと軽くキスをされるとどうしていいかわからない。鶴城は”あーん”といって人形焼きを半分にして美崎の口元に持っていったのだが……。
「何その顔」
「ねこがあああああああ!」
可愛い可愛いネコの顔が縦割りにされ、半泣きになった。
「もっとじっくり愛でて、写メ撮ってSNSにアップしようとしたのに!」
「女子かよ……」
「慎のばかあああ!」
前途多難な二人であった。
「ここじゃ、嫌だ」
どこでもすぐ襲ってくる鶴城。襲うなといっても無駄なことはわかっている。だからといって全て相手の思い通りなんて許せない。
「駄目なのは場所だけ?」
あらかた脱がされてしまっている。全裸に近い姿で移動するのは嫌だなと思っていたら抱き上げられた。お姫様抱っこというやつである。
ロマンチックに憧れる美崎は心がときめく。
「ほら、腕回して」
言われて慌てて彼の首に腕を巻きつけた。
「やだッ……」
「なんで、綺麗だよ?」
「暗くしてってば」
いつだって鶴城は強引で、美崎の全てを見たがる。恥ずかしいところも全部。
──あの子なら小柄だし、可愛いかもしれないけれど。
そんな風にいつだって自分とあの子【片倉葵】と比べるのは間違っていると頭では理解はしていても、心は追いつかない。
「慎ッ……やだっていってるだろッ!」
「見たい、目に全部焼き付けたいのになんで駄目なんだよ」
「恥ずかしいから」
じっと涙目で見つめていたらちゅっと口付けされてしまう。
「はいはい」
最後は折れてくれる。そんな彼が大好きなのだ。
──可愛らしく生まれてきたかった。
慎の好みに。
そしたらこんなに不安にはならないのに。
「んんッ」
「こうしたら見えなくなっちゃうだろ?」
美崎は奥を突かれながらぎゅっと彼にしがみついた。
「見なくていいの!」
「なんでだよ」
鶴城は繋がる部分を見るのが好きなようで、煌々と明かりの照らすところで美崎の奥の蕾を舐め回すのだ。美崎からしてみればただの変態である。
「俺だけのものだと思うと愛しくて可愛くて、舐め……」
そこで美崎は手の平で鶴城の口を塞いだ。
「なに朝からトチ狂ったこと言ってるんだよ!」
──俺のことかと思って聞いていたらアソコのことだったなんて!
慎の馬鹿!
「やれやれ、うちのお姫様は激しいんだから」
「やれやれはこっちだよ」
なんだこいつ! と言わんばかりに睨みつけていたら、彼はなぜか嬉しそうに笑った。
──変態め!
**・**
朝から好き勝手され、だるい身体を引きずるように学園に向かい、やっとのことで一日を終える。今日はさっさと見回りを終わらせようとしていたら、風紀の後輩たちから今日は自分たちがやりますからと優しい言葉をかけられた。
そのことを知らない鶴城を迎えに美崎がいつものように生徒会室に行くと先客がいた。
一年の【大里聖】である。
以前ならいつものことなのだが、最近は大崎たちといてあまり生徒会室に顔を出さない上に、生徒会室に来る時は【黒川彩都】を連れてくるので違和感しかない。
しかも何故かイヤホンまでつけて自分の世界に入っている。それは話しかけるなと言わんばかりで。”何しに来たんだよ? アイツ”と顔と親指を使い鶴城にジェスチャーで問いかければ彼は大仰に両手を広げ、首を傾げ”さあ?”というジェスチャーを返してくる。
「ほっといていいのかよ?」
美崎が彼に声をかけると
「いいんじゃね?」
と返事され、旅行ガイドを渡された。
「子供じゃないんだし」
と、続けながら
「子供だろ!」
美崎はすかさずツッコミを入れる。
「あのなあ、大里が構って欲しい相手は大崎だけなんだからほっときゃいいんだよ」
呆れ顔でため息をつく鶴城に、
「まともな事も言うんだな」
と素で言ってしまい、
「おまっ……酷いな。俺を何だと思ってるんだよ」
と、笑われたが。
「え? 発情期の猿」
と真顔で返すと、鶴城は怒るでもなく爆笑した。
「なんだよ」
「いや、優也はそんな俺が好きなんだな、と思って」
「好きとかいってないぞ?」
「好きだろ?」
──うわ! ずりい!
**・**
「さて、俺たちも帰るぞ」
「うん」
鶴城に手を差し出され美崎はそれを握った。
「温泉楽しみだな」
鶴城は初めて美崎と風呂をともに出来ることをすごく喜んでいるようだった。それを知ってなんだかとても複雑な気持ちになる。
──そ、そりゃ、俺だって一緒に入るのはイヤじゃないけど。
慎はどこでも襲って来るしさ。
身体洗ってるの見られるの恥ずかしいし。
イチャイチャはしたいけど。
「電車の時間大丈夫かな?」
学園から家、家から駅。どちらも近い。
間に合うかよりもタイミングのことを言っているのは明らかであった。
「すぐ来るよ、きっと」
鶴城にそう返せば、彼はこちらを見下ろしニコッと笑う。美崎は彼の笑顔が好きだ。優しげで落ち着く。
二人は家に着くとすぐに私服へ着替え、荷物を掴み駅へと向かった。初めての旅行に心が躍る。遠出は初めてだった。電車の座席に並んで座るとやっと実感が沸き、笑みがこぼれる。
「嬉しい?」
「もちろん」
鶴城に問われ頷くと繋いだ手を強く握られた。
「こんなことなら、もっと早く旅行に連れて行けば良かった」
後悔を含んだ声音に、美崎は困った顔をして彼を見つめる。
「俺さ、優也が嬉しそうだと凄く嬉しいし、幸せな気持ちになるんだ」
──慎は強引でまったく言っても聞かないやつだけど。
優しい……。
「だから、そんなに嬉しそうな優也を見ていると後悔してしまう」
「これからいっぱい連れて行ってくれるんだろ?」
「それは、もちろん」
美崎は彼の肩に頭をつけ寄りかかった。
「いっぱい思い出作ろうよ」
甘えるように言えば彼の指が唇に触れる。
「これから、たくさんな」
それは、ずっと一緒にいような。という意味であった。
「うん」
──ずっと、一緒にいたい。
なんだかんだで、慎が好きだ。
いつでも、俺のこと一番に考えてくれる慎が。
**・**
黒い漆塗りの木造の建物、赤いのれん。シマトネリコ。ほんのり色を変え始めた木々。もっと秋らしく紅葉が深まればさらに風流になるだろう。まさに老舗旅館といった存在感であった。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
女将を筆頭に従業員がおもてなしをしてくれるのだが、美崎はそこであることに気がついた。
「ね、鶴城」
部屋に着くなり、気付いたことを聞いてみる。
「ここって、片倉の?」
「ん?」
鶴城が中学時代に好きであり、後輩でもある”片倉 葵”の父が社長であるということは知っていたがどんな会社を経営しているとか、どんな職業であるとか詳しいことを聞いたことはなかった。しかし先ほどロビーのフロントにあった証明書には片倉グループの名があり、それがとても気になったのだ。
「ああ、そうかもな」
鶴城はまったく興味がないようで、広縁から露天風呂を楽しげに覗きこんでいる。
疑っていたわけではないけれど、片倉ってほんとに良いとこの坊ちゃんなんだな。そんなことを思いながら、鶴城の背中を眺めていると彼が振り返る。
「少し休憩したら、入ろうや」
黒い角型のちゃぶ台の上には和菓子とお茶のセットが乗っていた。こういう老舗の旅館では仲居さんがお世話をしてくれるものだが、露天風呂付きの客室でお忍びでくることも多い高級旅館であるからあえて仲居は姿を現さなかった。フロントにて、担当は夕飯時の午後七時ごろ来ると言っていた。
「お、見てみろよ」
和菓子の人形焼はネコの形をしている。
「可愛い」
美崎が呼ばれて近づけば、先にあぐらをかいて座っていた鶴城が両手をこちらに向かって広げる。
「え?」
「来いよ、いいだろ?」
こんなこと初めてで、美崎は戸惑っていた。ムードの欠片もない強引絶倫男が膝の上に来いというのだ。もちろん、美崎はときめいた。
「なんだよ、大人しいじゃん」
頬を染め鶴城の膝の上にちょこんと腰掛けた美崎に彼は笑う。
「嫌がるかと思った」
彼に横抱きにされ、ちゅっと軽くキスをされるとどうしていいかわからない。鶴城は”あーん”といって人形焼きを半分にして美崎の口元に持っていったのだが……。
「何その顔」
「ねこがあああああああ!」
可愛い可愛いネコの顔が縦割りにされ、半泣きになった。
「もっとじっくり愛でて、写メ撮ってSNSにアップしようとしたのに!」
「女子かよ……」
「慎のばかあああ!」
前途多難な二人であった。
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