上 下
36 / 52
━2章【不器用な二人】━

2-1『強引な君には屈しない』【R】

しおりを挟む
 ****♡side・美崎

「慎ッ……やだッ」
 彼とのエッチは嫌じゃない。
 むろん彼のことは好きだ。
 強引なのが彼なのだし、そこも含めて“鶴城 慎”という一人の人間だと理解している。
 結婚したいと言われるのは嬉しい。ちゃんと考えてから返事をしようと思ってるのだ。

 なのに!
 これは脅しだよな?
 無理矢理yesと言わせるのはちがう!
 こんなの…ッ。

「んッ……いやぁッ」
「嫌? 俺と結婚するの嫌なの?」
 自分ばかり二度とほど逹イかされて、鶴城には『返事をくれなければれてやらない』と言われた。
 先ほどから鶴城の指が奥の良いところをツツく。美崎は彼が欲しくてたまらないが、そのことを口にすることは出来ない。
「違うッ」
 自分の気持ちを上手く伝えることも、口に出すことも苦手な美崎の気持ちが否定の言葉だけで伝わるはずもなく。それでも臆病で自信のない自分は心の中で抗議するしかない。

 ──ズルい、いつもだ。
  こんなやり方は、汚い!
  なんでだよ。
  大切にして欲しいって言ったのに。

 彼の普段の態度ではなおのこと、美崎には“鶴城の自信のなさ”は伝わって来なかった。
 彼の強引さはむしろ自信に満ちているように見えたし、それが納得できるほどに彼はモテる。彼が不安から無理矢理にでも美崎と婚約したいと思っているだなんて、露ほどにも思わなかった。

「慎のバカッ」
 美崎は頭の近くにあった枕を掴むと、鶴城に投げつける。
 彼は驚いて美崎の中から指を引き抜いた。目に溜めていた美崎の涙がぽろりと転げ落ち、窓の外から差し込む光に煌めいて彼が息を呑むのがわかる。
「なんでいつも意地悪するんだよッ」
 そんな鶴城に美崎は文句をいいながら抱きつくが。
「俺……」
 彼は俯いた。
 強引なことをすれば素直でない美崎だって文句を言われることくらい想像がつくはずだ。いつもの彼ならば、自分の強引さを反省して謝罪の言葉を述べるだろう。それなのに、なんだかいつもの彼と違っていて美崎は不安を感じた。

 ──別れるとか言わないよな?
  そんなこと……。

「頭冷やしてくるよ」
 案の定、いつもとは違う言動。
 そして彼はスッと美崎から離れる。床から服を取り上げ無言羽織る彼を美崎は見つめていた。
「ちょっとロビー行ってくる、すぐ戻るから」
「慎ッ!」
 着衣を整えると鶴城は力なくそう言って背を向ける。美崎が名前を呼んでも、彼は振り返らなかった。

 ──なんで?
  なんで行っちゃうわけ?
  俺が悪いの?

 パタンと閉まるドア。
 夜景と月明かりが相変わらず部屋を照らし出している。美崎はこぼれ落ちる涙を止めることが出来なかった。

 ──慎はモテる。
 思い通りにならない俺よりも、言いなりになる子を選ぶかもしれない。
 そんなの、嫌だ!

 コミュニケーションを上手に取れない自分。他の人に対してはなんら問題はないのに、大好きな彼に対してはいつもこうなのだ。思っていることを上手く伝えられたなら、すれ違うこともなくもっと分かり合えるかもしれないのに。後悔したくないと思った美崎は、彼を追うため急いで衣服を身につける。
 鶴城がロビーで意外な人物たちに遭遇していることも知らずに。

 ──慎……。
  どこ?

 一階ロビーは人が多かった。
 ロビーの客層は大抵がビジネスマン。取引先の人と待ち合わせに利用しているようだ。待ち合わせの相手と合流すると彼らはエレベーターに乗り込んでいく。地下のバーに向かっているのかもしれない。そして外国人も多い。
 それはそうだ、ホテルなのだから。

 「まこと……」
 美崎は、心細くなってきた。部屋で待っているべきだったのかもしれないと思った。
 『まさか一人で帰ったりしないよな』などと考えていると、トイレへの入り口付近で彼の背中を見つける。どうやら誰かと話をしているようで。そんな彼に美崎は恐る恐る近づいてみた。『まさか、浮気じゃないよな』などと思いながら。

 「!」
 彼の話し相手を見て美崎は驚く。
 「あ、美崎先輩」
 先にこちらに気づいたのは鶴城ではなく、話し相手の方であった。

 ──なんでこんなところにいるんだ?

 それは二人の後輩にあたる“大里 聖”であった。
 ここは大崎グループ系列のホテル。彼が利用するなら自社である大里グループ系列の方ではないのかと思っていたら、鶴城が振り返りばつの悪そうな表情かおをした。
 何か言いかけたところで、トイレから出てきた人物を見て美崎は更に混乱したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

上司と俺のSM関係

雫@更新不定期です
BL
タイトルの通りです。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...