上 下
20 / 52
━1章【HAPPY ENDには程遠い】━

9-1 あの日のこと

しおりを挟む
 ****♡side・美崎

「ま……こと」
 美崎が躊躇いがちに鶴城の名を呼べば、彼は興奮絶頂と言わんばかりの瞳で見つめてくる。

 ──鶴城は好きだというけれど、俺のこと手軽にヤれる奴だって思ってるのかな。
  初めてを無理矢理奪った時だって軽い謝罪しかしてこなかったし。
 なんか嫌だ。俺は……こんなにも鶴城のこと好きなのにッ。

「優也? なんで、泣いて……」
「泣いてなんてない」
 悔し涙が溢れ、美崎は腕で顔を覆う。
「?!」
 そのまま襲ってくると思った鶴城に腕を引かれ、美崎は彼の胸に抱き締められる。
「ごめん」
「なんで、謝る?」
「俺のせいで泣いてるんだろ? 俺、また何かした?」
 美崎は言いたくなかった。
 しかし自分の気持ちを告げなければ、今までとなにも変わらないとも思う。

「鶴城は俺のこと、軽い奴だと思ってる? こんな、ナリだし」
 長めの金髪。学校では制服を着崩している。
 でもそれはカッコつけているわけでもなんでもない。風紀委員長としてできる、生徒たちが自由な校風に馴染むためであり、風紀を乱すのが目的なわけでもなかった。
 それに反して鶴城は見た目からして真面目な奴だった。黒髪短髪、体育会系っぽいガタイ。

「そんなこと、思ったことない」
「じゃあ、なんで……平気なんだよ!」
「何のことだよ」
 もっと、真摯に向き合って欲しかった。

「どうして簡単にこんなことするんだよ。初めての時だって……。ああいうのはちゃんと気持ちを伝えあって、つき合って……手順を踏んで……」
 押さえきれない涙が頬を伝う。
 軽いと思っていなくたって、大事にされなかった事実が辛いのだ。
「俺のことヤれる道具としか思ってないくせに」
「そんなこと、一度だって……」
 言葉を途中で切った鶴城は、美崎から離れると、床に手をついた。
「本当に済まなかった。優也が好きで好きで堪らないんだよ」
 美崎は土下座をする鶴城に驚いて目を見開く。
「自分を抑えられないんだよ」
 その言葉からは、一応抑えようとはしていると感じられる。
 だがそれで納得できるはずもない。
「優也、実はさ」
 土下座をしていた鶴城は真面目な顔をしてベッドの上の美崎を見上げた。
「白石から“バレンタイン”の日のこと聞いたんだ」

   **・**

鶴城あんたに美崎先輩はもったいないわよ! 何も知らないくせにっ」
 美崎のことを親しげに“優也”と呼ぶ鶴城に、白石はとうとう堪忍袋の緒が切れたようだ。
 そして彼女の口から告げられたあの日の真実。
 美崎はあの日のことを思い出す。

『俺、鶴城に告白しようと思うんだ』
 バレンタインの日。白石に好きだと告白され、チョコを受け取らなかった美崎は胸のうちを彼女に告げた。
『フラれるかもしれないけど』
 そう付け加えて。
 本気の白石だったから、美崎もちゃんと自分のことを話したのだ。
 すると彼女は応援すると言ってくれた。

 しかし、そんな美崎を待っていたのは絶望だった。

「あんたは、ヘラヘラ誰からでもチョコを受け取ってさ。美崎先輩がどんな想いでいたかも知らないで、今さら美崎先輩に近づかないでよ!」
 鶴城はそう言われたらしい。

 美崎は大勢の中の1人になりたくなかった。
 義理だなんて思われたくなかった。
『じゃあ、これはもう要らないな』
 美崎は自分の想いごと、チョコをゴミ箱に棄てたのだ。
 叶わない想いなのだと思いながら。
 一部始終を見ていた白石に、
『鶴城ってモテるんだな』
 と自嘲気味に漏らすと、彼女は美崎より泣きそうな顔をしていた。

 なのに……。
 あの日から鶴城は美崎に夢中になっていったのである。
 元々、互いの家を行き来するくらいは仲が良かったが、鶴城の目は友人のそれではなくっていた。
「俺は、あの日からずっと優也が特別なんだ」
 美崎はなんと返せばいいのか分からず、ただじっと鶴城を見つめるほかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

上司と俺のSM関係

雫@更新不定期です
BL
タイトルの通りです。

柔道部

むちむちボディ
BL
とある高校の柔道部で起こる秘め事について書いてみます。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

処理中です...