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━1章【HAPPY ENDには程遠い】━

4 好きなんて言わない

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 ****♡side・美崎

「ヤりたいからやる、お前は猿かッ!」
 美崎はやっとシツコイ性交から解放され、弁当に箸をつけつつ鶴城に抗議をする。
 すると、
「そうかもな」
 と投げやりな返答を貰い余計に腹が立った。
「俺は、お前の性欲の捌け口になんてなりたくない」
「してない」
 鶴城にため息をつかれ『俺が悪いのかよ?!』と泣きたくなる。

 ──なんでこんな想いしなきゃいけないんだよ。
  半年経ったら一年間、こんな風に一緒に居られなくなる。
  その間に鶴城の気持ちが変わってしまったら、誰が責任とってくれるんだよ?

「あーもう、わかった」
 鶴城がお手上げだという仕草をし、続ける。
「じゃあ、美崎のことは諦めるって……」

 ──は?
 何だよそれ。
 散々好き勝手して……

「言ったら……って、なんで泣くんだよ?!」
「最低」
「美崎!」
 涙を見られたことが悔しくて、腕で顔を覆い横を向くと向かい側の鶴城が慌て席を立った。

「はぁ……。話は最後まで聞かないし、泣くし」
 呆れ声で言いながらぎゅっと抱き締めてくる鶴城。
「美崎さぁ」
「なんだよ、レイプ魔ッ」
「可愛くてたまらんのだが?」
「変態!」
「酷い言われようだな」
 鶴城がくくくッと笑う。悔しくて堪らなかった。

 ──余裕かましやがって!

「美崎、好きだよ」
「知らん」
「拗ねるなよ、また襲いたくなるだろ」
「絶倫めっ」
「褒め言葉として受け取っておくよ」

 ──悔しい。
  悔しいけど、好き。
  言ってやらないけどなッ。

「美崎」
「な……に」
 ふわりと抱き締められて戸惑う。普段の鶴城からは考えられないくらい優しい表情で、まるで”愛しい”とでもいうように。
「拗ねるなよ」
「拗ねてなんか無い」
 髪を撫でる手が優しい。思わず背中に腕を回しそうになる。
 恋人じゃない、そんなことをしたらまた調子にのるだけだとぐっと耐えた。

 ──鶴城が好き……。

   **・**

『ん? どうした?』

 放課後は、学園内の見回りがある。生徒会と協力をし、イジメなどの撲滅に励むのが風紀委員の仕事だ。
 最近鶴城に張りつかれているため、なかなか一人になる機会がなかった美崎はチャンスだと思い元凶である“大崎 圭一”に連絡を取ることにした。
 忙しいのかもしれない。切ろうか迷っていたところで相手が電話口にでる。
「大崎先輩」
『ごめんな、運転中でなかなか電話取れなかった』
 彼の弟の【大崎久隆おおさきくりゅう】とは似ても似つかない圭一の姿を思い浮かべた。
『で、何かあったのか?』
 彼の穏やかな声に、美崎は堰を切ったように今までの経緯を話す。黙って聞いていた圭一だったが、美崎が話を終え怨み言を溢すと、渇いた笑いを漏らす。苦笑いというやつだ。

『美崎はどうしたい?』
 彼は”合意のない性交はダメだ”とはっきりと言ったあと、美崎の希望を問う。
「わからないです」
 それは素直な気持ちだった。鶴城が好きだし、付き合いたくないわけでも彼とのセックスが嫌なわけでもない。ただ、鶴城を信じることが出来なくて、どうしたら信じられるかもわからないというのが本音。
『じゃあ、美崎は何が不安?』

 ──不安なことならいくらでもある。
  自分は美人でもなければ可愛いわけでもない。
  年上だし、性格だって……。

『美崎は可愛いよ?』
 自分自身に対する不満、それは鶴城が好きだった相手とは正反対なこと。高校を卒業したら今のようにしょっちゅう一緒に居られるわけではなくので鶴城の心変わりが心配だということを圭一に話せば、そんなことを言われドキリとする。
『大丈夫、俺が保証する。何年のつきあいだと思ってるんだよ』
 お互いK学園の内部生の圭一とは、付属幼稚園からのつきあいだ。
『来週、少し時間が出来てしばらく実家にいるから会おうか』 
 多忙な圭一が自分のために時間を作ってくれると知った美崎は素直に喜んでいた。
 背後に鶴城がムッとして立っているとも知らずに。

   **・**

「電話、誰」
 美崎は電話を切ったところで背後から声をかけられ、ビクッと肩を揺らした。
「なあ?」
「ちょっ……」
 振り向こうとしたら後ろから彼に抱きすくめられ、ドキリとする。
「ニコニコ嬉しそうにさー」
 とても不機嫌そうな声で。
「うるさいな。なんだよ鶴城ッ」

 ちゅッと首筋を吸われ美崎は鶴城の腕をほどこうと身を捩るが、びくともしなかった。
「妬いてるんだよ」
 鶴城の意外な言葉に顔に熱が籠ってゆく。
「ほんと、どうかしてるぞ?」
「なんで隠すんだよ、浮気だろ」

 ──何を言ってるんだ、こいつは。
  浮気もなんも、俺たちは恋人関係じゃないし……。

「美崎、妬かせないで」
「んッ」
 耳を優しく噛まれ、声が漏れた。
 恥ずかしい。
「大崎先輩だッ。も、やめろよ、外でこんな」
「どこでだって、イチャイチャしたい」
「俺は嫌だ」
「じゃあ、早く帰ろう」
 美崎は心を掻き乱されて、どうにかなってしまいそうだった。
 仕方なく風紀委員室に戻り、報告書を提出して荷物を掴む。
 彼はというと、腕を組んでじっと美崎を待っていた。
 こんな押せ押せなやつだったのかと知り、美崎はどうして良いのか分からず困ってしまう。それに反しそういうところも良いなと思い始めている自分もいる。
「ところで、大崎先輩と何を話してたんだ?」
 家に向かって歩きながら、鶴城に質問される。
「来週、時間作ってくれるって話」
「ふーん?」
 鶴城は何故か微妙な表情をしていた。
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