204 / 218
────8話*この手を離さないで
16・自分を縛るもの
しおりを挟む
****♡Side・総括(黒岩)
「俺はずっと、黒岩が何を考えているのかわからなかった」
唯野の腰に当てていた手を背中に滑らし引き寄せれば、彼は大人しく黒岩の胸に額を寄せる。
かつては誘われれば誰とでも寝るような男だった黒岩が、唯一本気になったのは彼だけだった。ロマンチストで努力家で一途に愛されたいと望む彼、唯野 修二ただ一人。そしてそれは、黒岩が初めて自分から興味を抱いた相手でもある。
「あの時黒岩に言った言葉に嘘はないし、専務の言っていることも正しいと思う」
”俺は確かに黒岩のことが好きだった”と言われ、やはり過去形なのだなと思った。
「俺の婚姻に疑念を抱いていると言っていたけれど」
「ああ」
「嵌められたんだよ。飲み会があったあの日」
十七年前の話なのにすぐにどの日か思い当たるのは、いつもは二つ返事で飲み会に参加する黒岩が参加しなかった日だったからだ。
むしろその隙を狙ったと言われた方がしっくりくる。
「俺は無知だった。そんなに早く妊娠が発覚するものではないと知らなかったし。それよりもそのことがきっかけで会社をクビになることの方が怖かった」
「どうして相談しなかった?」
「言えるわけないだろ」
唯野は続けてその後何が起きたのかを口にする。
「元会長に?」
「そうだよ」
妻のことで脅され元会長に性的なおもちゃにされた彼は、社長に助けられたという。
──これですべてが繋がった。
社長は唯野に手を出さなかったんじゃない。出せなかったんだ。
社長が皇に手を出したのは彼が受け入れたから。
元会長から酷いことをされている現場に出くわしたら、いくらなんでも手を出そうとはしないだろう。
だがその過去が社長を縛っている。唯野を縛ったように。
傍に置きたい気持ちが変わらないのに素直になれないのは、唯野の気持ちが自分にないとわかっていたからなのだろうか?
ずっと理性で抑え込んでいた気持ちが歪んだ形で唯野に襲い掛かった。
板井がそれを成してしまったから。
女性と結婚したから異性愛者であり、男に嫌悪を持っているとも思ったはずだ。だが板井とつき合っている以上、それは払拭されるだろう。
──板井とつき合えるなら男もイケる。そう思わせているなら、唯野を追い詰めているのは板井ではないのか?
だが唯野を追い詰めているのは【黒岩】なのだと専務ははっきり言った。その理由がまだ自分には分からないが、もしかすると。
「唯野、俺は今でもお前が好きだ」
「は、はあ?」
何を言ってるんだと言うように眉を寄せる彼。
「お前は奥さんのこと大事にしているんじゃないのかよ」
皇ではなく、妻のことを出してくるあたり自分の予想が外れていないことを物語っている。
「何故そう思うんだ」
「だって、結婚してから一度も浮気してないだろ?」
確かに婚姻後は妻以外と肉体関係になったことはないが、それは妻が理由ではない。
「唯野は何か誤解をしている」
「誤解?」
「俺たちの間にはそもそも愛なんてない。妻には結婚当初から他に男がいるしな」
”なんだよそれ”と唯野が瞳を揺らす。
妻とは契約結婚のようなものだ。それでも肉体関係を含む浮気や不倫は不法行為とはなり得る。だがそれは不貞行為をされた側がそれに対して不満を抱いた場合に限るだろう。今の日本では不貞行為自体は犯罪ではないからだ。
つまり、黒岩が妻の不貞行為を黙認している以上は夫婦間に問題はないものとされるということだ。
「それって幸せなのか?」
「幸せそうに見えるか?」
「見えないよ」
黒岩は彼の返答に”そう”と笑った。
「誠実でいたいのは妻にではなく、唯野に対してだよ」
ズルいことは分かっているし、今更この関係が変わらないことも理解しているつもりだ。
だが唯野を幸せにしてやるには黒岩自身がこの呪縛から逃れなければならないだろう。
「俺はずっと、黒岩が何を考えているのかわからなかった」
唯野の腰に当てていた手を背中に滑らし引き寄せれば、彼は大人しく黒岩の胸に額を寄せる。
かつては誘われれば誰とでも寝るような男だった黒岩が、唯一本気になったのは彼だけだった。ロマンチストで努力家で一途に愛されたいと望む彼、唯野 修二ただ一人。そしてそれは、黒岩が初めて自分から興味を抱いた相手でもある。
「あの時黒岩に言った言葉に嘘はないし、専務の言っていることも正しいと思う」
”俺は確かに黒岩のことが好きだった”と言われ、やはり過去形なのだなと思った。
「俺の婚姻に疑念を抱いていると言っていたけれど」
「ああ」
「嵌められたんだよ。飲み会があったあの日」
十七年前の話なのにすぐにどの日か思い当たるのは、いつもは二つ返事で飲み会に参加する黒岩が参加しなかった日だったからだ。
むしろその隙を狙ったと言われた方がしっくりくる。
「俺は無知だった。そんなに早く妊娠が発覚するものではないと知らなかったし。それよりもそのことがきっかけで会社をクビになることの方が怖かった」
「どうして相談しなかった?」
「言えるわけないだろ」
唯野は続けてその後何が起きたのかを口にする。
「元会長に?」
「そうだよ」
妻のことで脅され元会長に性的なおもちゃにされた彼は、社長に助けられたという。
──これですべてが繋がった。
社長は唯野に手を出さなかったんじゃない。出せなかったんだ。
社長が皇に手を出したのは彼が受け入れたから。
元会長から酷いことをされている現場に出くわしたら、いくらなんでも手を出そうとはしないだろう。
だがその過去が社長を縛っている。唯野を縛ったように。
傍に置きたい気持ちが変わらないのに素直になれないのは、唯野の気持ちが自分にないとわかっていたからなのだろうか?
ずっと理性で抑え込んでいた気持ちが歪んだ形で唯野に襲い掛かった。
板井がそれを成してしまったから。
女性と結婚したから異性愛者であり、男に嫌悪を持っているとも思ったはずだ。だが板井とつき合っている以上、それは払拭されるだろう。
──板井とつき合えるなら男もイケる。そう思わせているなら、唯野を追い詰めているのは板井ではないのか?
だが唯野を追い詰めているのは【黒岩】なのだと専務ははっきり言った。その理由がまだ自分には分からないが、もしかすると。
「唯野、俺は今でもお前が好きだ」
「は、はあ?」
何を言ってるんだと言うように眉を寄せる彼。
「お前は奥さんのこと大事にしているんじゃないのかよ」
皇ではなく、妻のことを出してくるあたり自分の予想が外れていないことを物語っている。
「何故そう思うんだ」
「だって、結婚してから一度も浮気してないだろ?」
確かに婚姻後は妻以外と肉体関係になったことはないが、それは妻が理由ではない。
「唯野は何か誤解をしている」
「誤解?」
「俺たちの間にはそもそも愛なんてない。妻には結婚当初から他に男がいるしな」
”なんだよそれ”と唯野が瞳を揺らす。
妻とは契約結婚のようなものだ。それでも肉体関係を含む浮気や不倫は不法行為とはなり得る。だがそれは不貞行為をされた側がそれに対して不満を抱いた場合に限るだろう。今の日本では不貞行為自体は犯罪ではないからだ。
つまり、黒岩が妻の不貞行為を黙認している以上は夫婦間に問題はないものとされるということだ。
「それって幸せなのか?」
「幸せそうに見えるか?」
「見えないよ」
黒岩は彼の返答に”そう”と笑った。
「誠実でいたいのは妻にではなく、唯野に対してだよ」
ズルいことは分かっているし、今更この関係が変わらないことも理解しているつもりだ。
だが唯野を幸せにしてやるには黒岩自身がこの呪縛から逃れなければならないだろう。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
[R-18] 奴隷のレッスン:騎士団所属の末っ子王子は、イケメン奴隷に身も心も奪われる
山葉らわん
BL
【縦読み推奨】
■ 第一章(第1話〜第9話)
アラディーム国の第七王子であるノモクは、騎士団長ローエの招きを受けて保養地オシヤクを訪れた。ノモクは滞在先であるローエの館で、男奴隷エシフと出会う。
滞在初日の夜、エシフが「夜のデザート」と称し、女奴隷とともにノモクの部屋を訪れる。しかし純潔を重んじるノモクは、「初体験の手ほどき」を断り、エシフたちを部屋から追い返してしまう。
■ 第二章(第1話〜第10話)
ノモクが「夜のデザート」を断ったことで、エシフは司祭ゼーゲンの立合いのもと、ローエから拷問を受けることになってしまう。
拷問のあと、ノモクは司祭ゼーゲンにエシフを自分の部屋に運ぶように依頼した。それは、持参した薬草でエシフを治療してあげるためだった。しかしノモクは、その意図を悟られないように、エシフの前で「拷問の仕方を覚えたい」と嘘をついてしまう。
■ 第三章(第1話〜第11話)
ノモクは乳母の教えに従い、薬草をエシフの傷口に塗り、口吻をしていたが、途中でエシフが目を覚ましてしまう。奴隷ごっこがしたいのなら、とエシフはノモクに口交を強要する。
■ 第四章(第1話〜第9話)
ノモクは、修道僧エークから地下の拷問部屋へと誘われる。そこではギーフとナコシュのふたりが、女奴隷たちを相手に淫らな戯れに興じていた。エークは、驚くノモクに拷問の手引き書を渡し、エシフをうまく拷問に掛ければ勇敢な騎士として認めてもらえるだろうと助言する。
◾️第五章(第1話〜第10話)
「わたしは奴隷です。あなたを悦ばせるためなら……」
こう云ってエシフは、ノモクと交わる。
◾️第六章(第1話〜第10話)
ノモクはエシフから新しい名「イェロード」を与えられ、またエシフの本当の名が「シュード」であることを知らされる。
さらにイェロード(=ノモク)は、滞在先であるローエの館の秘密を目の当たりにすることになる。
◾️第七章(第1話〜第12話)
現在、まとめ中。
◾️第八章(第1話〜)
現在、執筆中。
【地雷について】
「第一章第4話」と「第四章第3話」に男女の絡みシーンが出てきます(後者には「小スカ」もあり)。過度な描写にならないよう心掛けていますが、地雷だという読者さまは読み飛ばしてください(※をつけています)。
「第二章第10話」に拷問シーンが出てきます。過度な描写にならないよう心掛けていますが、地雷だという読者さまは読み飛ばしてください(※をつけています)。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
初恋の幼馴染の女の子の恰好をさせられメス調教もされて「彼女」の代わりをさせられる男の娘シンガー
湊戸アサギリ
BL
またメス調教ものです。今回はエロ無しです。女装で押し倒されいますがエロはありません
女装させられ、女の代わりをさせられる屈辱路線です。メス調教ものは他にも書いていますのでよろしくお願いいたします
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる