179 / 218
────7話*彼の導く選択
14・彼の提示する未来
しおりを挟む
****♡Side・塩田
先日から電車が何かを話したそうにしているのは分かっていたが、いやな予感がして避けてきた塩田だったが。
「ねえ、優ちゃん」
電車は皇を呼ぶ声。
──優ちゃん?
「なんだ、紀」
それに返事をする皇。
──紀?
二人の呼び方に塩田は眉を潜める。まさか電車は皇にくら替えでもしようというのだろうか。
ムッとしているとその電車に後ろから抱き着かれ、彼をチラリと見上げた。
名前の呼び方が変わったくらいで特にいつもと変わらないように見える。
「ご機嫌斜めなの? 塩田」
「お前は随分機嫌が良いように見えるが?」
皇は電車の質問に返答を寄越したのち、会議があると言ってそそくさと玄関に向かったようだ。
「だって、昨日もいっぱい愛し合ったしね」
と電車。
塩田はそこでむせた。
「な、なんだよ。皇との方が仲いいみたいじゃないか。名前で呼び合っているみたいだし」
相手にペースに乗せられてしまっては電車の思うツボだと思った塩田はムッとしたままそう答える。
「これからも一緒にいるわけだし、副社長じゃ嫌だっていうからさ」
彼の言いまわしに少し引っかかりを感じたものの、どうそれを言葉にしていいのかわからない塩田は、
「そうかよ」
とため息をつく。
「塩田も名前で呼んで欲しいの? 以往タンって呼ぼうか?」
「それはちょっと……」
首筋にちゅっと口づけられて、浮気の線を心の中で消去した。彼がそんなに気が多いわけでもなく、器用でもないことは自分が一番知っているはずだ。
「皇に鞍替えする気なのかと思ったぞ」
それでも思ったことは伝えるべきだと思う塩田は心中を吐露する。
「俺は……塩田以外に興味ないよ」
いつも明るい彼が、真面目なトーンで少し投げやりな言い方をすることに塩田はドキリとした。
それが本心なのは分かる。
しかし何か感じるものがあったのだ。
「どうしてわからないかな、塩田は」
シャツの中に手のひらが差し入れられ、胸を撫でられる。心臓の辺りを。
「俺は塩田のためならなんでもするのに」
「紀夫?」
「そんなに不安そうにしなくても大丈夫。俺はいつでも塩田の傍に居るよ」
塩田は彼の手にシャツの上から自分の手を添えた。
「不安になるだろ、誰だって」
”急に呼び方を変えたら”と続ければ、彼の手がするりと離れていく。
自分は何かいけないことを言ってしまったのだろうかと思っていると、電車はふっと笑って塩田の正面に立った。
「ねえ、塩田」
彼は塩田の目の前でしゃがみこむと塩田の両手を掴んで、
「今すぐじゃなくてもいい。俺と結婚して欲しい」
「それは……無論」
「そして、三人でずっと一緒にいようよ」
「え?」
言われている意味が分からずに思わず漏れてしまった疑問符。
「塩田は副社長のこととても心配しているよね?」
塩田の未来には電車と結婚するという道がちゃんと見えている。その証拠にすぐに返事をくれたと彼は言う。
しかし、妙な間があったのはこのままその未来に進むことを躊躇っているからだと。躊躇う原因は皇にあるのだ。
「別に二股だってかまわないって言ってる」
「いや……それはおかしいだろ」
非常識すぎる提案に塩田は眉を寄せた。
「でも、結果はそうなる」
と彼。
強い光を湛えた瞳。それはきっと確信。
「塩田はずっと俺が別れ話をすると思っている。それは何故なの? 副社長のことが引っかかっているからでしょ」
「それは……」
答えることが出来ないというのは、肯定と同等。
「あの人が塩田以外と一緒にいて幸せになれるというのなら、塩田は悩まない。そうでしょ?」
自惚れならどんなに良かっただろう。
人の心は変わるものだ。だからいつか彼に好きな人ができるならそれで良いと思う。しかし今突き放したら、皇の行く先は地獄でしかない。
好きでもないという言い方は少し違うのかもしれないが、望まない相手に身体を開き続けるのはどう考えても地獄としか思えないのだ。
「だったら一緒にいればいい。違うの?」
単純明快な答え。そうは思うが、塩田はどうしても頷けないのだった。
先日から電車が何かを話したそうにしているのは分かっていたが、いやな予感がして避けてきた塩田だったが。
「ねえ、優ちゃん」
電車は皇を呼ぶ声。
──優ちゃん?
「なんだ、紀」
それに返事をする皇。
──紀?
二人の呼び方に塩田は眉を潜める。まさか電車は皇にくら替えでもしようというのだろうか。
ムッとしているとその電車に後ろから抱き着かれ、彼をチラリと見上げた。
名前の呼び方が変わったくらいで特にいつもと変わらないように見える。
「ご機嫌斜めなの? 塩田」
「お前は随分機嫌が良いように見えるが?」
皇は電車の質問に返答を寄越したのち、会議があると言ってそそくさと玄関に向かったようだ。
「だって、昨日もいっぱい愛し合ったしね」
と電車。
塩田はそこでむせた。
「な、なんだよ。皇との方が仲いいみたいじゃないか。名前で呼び合っているみたいだし」
相手にペースに乗せられてしまっては電車の思うツボだと思った塩田はムッとしたままそう答える。
「これからも一緒にいるわけだし、副社長じゃ嫌だっていうからさ」
彼の言いまわしに少し引っかかりを感じたものの、どうそれを言葉にしていいのかわからない塩田は、
「そうかよ」
とため息をつく。
「塩田も名前で呼んで欲しいの? 以往タンって呼ぼうか?」
「それはちょっと……」
首筋にちゅっと口づけられて、浮気の線を心の中で消去した。彼がそんなに気が多いわけでもなく、器用でもないことは自分が一番知っているはずだ。
「皇に鞍替えする気なのかと思ったぞ」
それでも思ったことは伝えるべきだと思う塩田は心中を吐露する。
「俺は……塩田以外に興味ないよ」
いつも明るい彼が、真面目なトーンで少し投げやりな言い方をすることに塩田はドキリとした。
それが本心なのは分かる。
しかし何か感じるものがあったのだ。
「どうしてわからないかな、塩田は」
シャツの中に手のひらが差し入れられ、胸を撫でられる。心臓の辺りを。
「俺は塩田のためならなんでもするのに」
「紀夫?」
「そんなに不安そうにしなくても大丈夫。俺はいつでも塩田の傍に居るよ」
塩田は彼の手にシャツの上から自分の手を添えた。
「不安になるだろ、誰だって」
”急に呼び方を変えたら”と続ければ、彼の手がするりと離れていく。
自分は何かいけないことを言ってしまったのだろうかと思っていると、電車はふっと笑って塩田の正面に立った。
「ねえ、塩田」
彼は塩田の目の前でしゃがみこむと塩田の両手を掴んで、
「今すぐじゃなくてもいい。俺と結婚して欲しい」
「それは……無論」
「そして、三人でずっと一緒にいようよ」
「え?」
言われている意味が分からずに思わず漏れてしまった疑問符。
「塩田は副社長のこととても心配しているよね?」
塩田の未来には電車と結婚するという道がちゃんと見えている。その証拠にすぐに返事をくれたと彼は言う。
しかし、妙な間があったのはこのままその未来に進むことを躊躇っているからだと。躊躇う原因は皇にあるのだ。
「別に二股だってかまわないって言ってる」
「いや……それはおかしいだろ」
非常識すぎる提案に塩田は眉を寄せた。
「でも、結果はそうなる」
と彼。
強い光を湛えた瞳。それはきっと確信。
「塩田はずっと俺が別れ話をすると思っている。それは何故なの? 副社長のことが引っかかっているからでしょ」
「それは……」
答えることが出来ないというのは、肯定と同等。
「あの人が塩田以外と一緒にいて幸せになれるというのなら、塩田は悩まない。そうでしょ?」
自惚れならどんなに良かっただろう。
人の心は変わるものだ。だからいつか彼に好きな人ができるならそれで良いと思う。しかし今突き放したら、皇の行く先は地獄でしかない。
好きでもないという言い方は少し違うのかもしれないが、望まない相手に身体を開き続けるのはどう考えても地獄としか思えないのだ。
「だったら一緒にいればいい。違うの?」
単純明快な答え。そうは思うが、塩田はどうしても頷けないのだった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
【トチ狂った下ネタコメディ】全米が悶絶⁈カオスな職場とリーマン物語
crazy’s7@体調不良不定期更新中
大衆娯楽
【あらすじ】
(株)原始人、苦情係で繰り広げられるカオスコメディ。
BL版の元ネタコメディ。ある日突然トチ狂ったコメディが書きたくなり、塩対応な主人公と電車に常に乗り遅れる同期、常に足の小指をぶつけまくる同期。バナナばかり食べている上司で苦情係を作ったらどうなるんだろうか?という妄想から書き始めたカオスなコメディ。
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
R18【オメガバース】愛を持たざる者ども─αとΩに愛されたβ─
crazy’s7@体調不良不定期更新中
BL
愛を持たざる者どもが出会うとき、運命が交差する────。彼らの奇跡の物語。(独立国編)
β・Ω・α三人で幸せの形を模索する、ハッピートライアングルloveストーリー♡
((注)どちらかを選ぶ物語ではありません)
世界で一番幸せなα、β、Ωの形のバースモノをあなたへ。
特殊設定あり。三視点(α→Ω→β)で進みます。
□あらすじ□
────5×××年
βはαから独立した国を持った。
愛を持たないとされるα。
αの統治国家で産まれた”心”を持つ奇跡の子クライス(α)は交易のためαの統治国家を訪れていたβ”カイル”に特別な想いを抱く。それが”恋というもの”なのか確かめるべく、不正に入手した許可書を携えβの独立国に乗り込もうとしていた。
一方、βの独立国で産まれた第一皇子カイルは、友人のΩが発情し、国の法によって彼の恋人となった。そのことにより、以前より恋人だった者と引き裂かれ、皇子であることも剥奪されてしまう。
そして、彼を選んだΩ男性体であるレンは、カイルを選んだ時、彼に恋人がいることも皇子であることも知らなかった。そのことを知り、罪悪感に苛まれていく。しかし、彼のある一言から”恋人”とは何かについて健気に学ぼうとし始める。
交差する三人の想い、愛を持たざる者とされる彼ら(α、Ω)の奇跡の物語。
**
この物語は特殊設定が多数あります。
・β独立国で虐げられるのはα。
通常オメガバースというと、αが威張っている、優れているイメージがありますが、そういうタイプを自分は尊敬したいとは思わないので、もし自分がβだったらどうするかな? と考え、独立することにしました(笑)変わったものが読みたい方向けです。ミステリー要素のあるファンタジーです。
R18【異性恋愛】『猟奇的、美形彼氏は』
crazy’s7@体調不良不定期更新中
恋愛
なんでもかんでも下ネタに聞こえてしまうリーマン×かわいい系受付嬢のトチ狂ったラブコメ。ロマンチックあり、シリアスあり。
──あらすじ──
主人公『相模悠』は株式会社原始人の得意先である商社に勤める受付嬢。
彼女の恋人『池内蓮』は、なんでもかんでも脳内で下ネタに変換されるイケメンリーマン。見た目はイケてるが、脳内がイケてない残念な男。
仕事をヤリ過ぎて、社長に怒られるのは毎度のこと。
今日も彼は、社長を発狂させる?!
そんな彼だが、実はONとOFFで別人のように違う。
つきあうことになったきっかけは冗談みたいな状況だったが、悠は彼のことを知れば知るほど惹かれていくのだった。
究極狂愛♡株原シリーズ
SLAVE 屋敷の奥で〜百回いくまで逃げられない〜🔞
阿沙🌷
BL
秘密の屋敷に囲われている青年の脱走未遂。捕縛された彼の仕置がはじまる。
成人向け、ヤマナシオチナシイミナシ。未成年者の閲覧は厳禁。痛い、救いない、地雷がいっぱい、何でも許せるかた向け。
地雷避けに↓
序編
Day1 束縛 ローター スパンキング イラマ 乳首責め 挿入 中出し
Day2 束縛 フェラ 挿入 連続
Day0 下剤 衆人 前封じ ローター 媚薬 見せしめ
Day3 手淫
Day4 拘束 複数 三所責め
Day5 拘束 焦らし 集団 水揚げ 媚薬 潮 イラマ ナカイキ
Day6 かくれんぼ 踏みつけ
・地下室編
1日目 限界寸 ローションガーゼ 前を責め
2日目 乳首を責め
3日目 前→乳首ときたら最後はアレ
・屋敷編
とりあえず屋敷ものっぽくそれなりにお仕事をしていただく回になる予定。(五月の更新再開後~更新終了は未定)
・藤滝過去編
・動乱編
構想だけ練っているため、完全に未定。
✿応援してくださったかた、ありがとうございます!ストレス発散にゴリゴリ書いている当BLですが(本当にBがLしているのか??)、しばらくの間、亀オブ亀更新【めっっっっっっっっちゃ更新が鈍くなります】すみません!また戻ってきますのでその時は藤滝とやっちんにかまってくださいまし~~!!(爆)
✿いつも閲覧ありがとうございます。いつの間にかお気に入りの数が増えていて驚きました。恐れ多いことにございます。読んで頂けて嬉しいです。
ぼちぼちまた、お気に入り80overの時のように、感謝SSを書けたらいいなぁと思います。いつになるかわかりませんが(苦笑)。
本編もなんとな~く、それとな~く、どういうふうに終わらせるのか、少しずつ考えています。にしても、その終着にたどり着くまでの過程で発生する濡れ場シーンのプレイをどうにか書ききらないとなぁ~と。いや、そこがメインなんですが。
屋敷編がひと段落ついたら、次は「わんこプレイ」させたいので(落ち着け)、がんばるぞ~!(とか言いつつ相変わらず鈍足更新になるのでそこのところは……)
✿番外編! お気に入り80overありがとう企画SS→https://www.alphapolis.co.jp/novel/54693141/955607132【完結】
✿その他の無理矢理系ハードエロシリーズ
・執事は淫らにため息をつく→https://www.alphapolis.co.jp/novel/54693141/473477124
・習作→https://www.alphapolis.co.jp/novel/54693141/711466966
表紙は装丁カフェさまから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる