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────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
17・平行線の先
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****♡Side・板井(同僚)
板井は一人ベランダで黄昏ていた。
わかっていたことだ。
過去が変えられないことも、唯野はその過去を変えることを望んでいないことも。
──俺は変えたいと願っていた。
けれど修二さんはそれを望まない。
どうして唯野の気持ちが動いたのか、本当は今でも理解できないでいる。
自分が想いを告げるまで彼にはその選択肢はなかったはずだから。
板井は欄干に前かがみになると疎らな明かりを見つめる。この星には何十億という人が存在し、今この瞬間にもいろんなドラマが繰り広げられているはずだ。きっと自分の悩みなんてちっぽけに違いない。
「?!」
不意に暖かいものが背中に触れた。
「板井、何してんだよ。こんな時間に」
「何って、夜風にあたっているだけです」
「一人で?」
「どう見ても一人でしょう?」
身体を反転させ、自分に密着した彼を抱きしめる。
「また考え事か?」
不満そうな表情をする彼に口づけるともっとというように彼の腕が背中に回った。
「中、入ろうよ」
優しく甘い声。
自分は穏やかな彼が好きだった。
その中に激情を秘めていることを知らずに。
──俺は塩田が羨ましいのかな。
無理強いすることを良いとは思わないが、そこまでして手に入れたかった熱。そんなものを自分は彼から感じたことはない。
唯野に腕を掴まれ、仕方なくリビングへ足を踏み入れる板井。
「修二さん」
ベランダへの窓を閉め、カーテンを直すと彼に声をかける。
「なんだ?」
「俺は過去を変えたいと思っています」
もちろん変えることなんてできないことは分かっているが。
「うん」
「あなたが変えたくないと思っていても」
板井の言葉に彼は苦笑いをする。
どうしてわざわざそんなことを告げるのだろうと思っているのだろうか?
「あなたがどんなに嫌がったって、あなたの全てを暴いて俺のものにしたい」
「板井……?」
「俺は納得してないんだと思います。何故、あなたの心が動いたのか」
”俺が好きというまで、あなたには俺と恋人関係になるという選択肢はなかったはずでしょう?”と続ければ唯野は目に涙を浮かべた。
「お前さ……」
「はい」
「俺が流されたとでも思ってる?」
決定的なことを言われ、板井は口を噤む。
そういうことなのだと思った。
自分は彼が流されてこうなったと思っているのだと。
失えないから『板井の意に沿う』そういう選択をした。
「なんでそこまでしてお前にはそっぽ向かれたくなかったのか、わかってない? いや、わかっていなかったのは俺だと思う」
唯野は自分自身の気持ちに気づいていなかったと言いたいのだろうか。
「お前の気持ちが恋心だとは思っていなかったし、いくら信頼してくれているとしても部下に対してそこまで執着する意味にも気づいてなかった」
板井は黙って彼の話を聞いていた。
「俺は板井に好きだと言わて自問自答したよ。どうして失いたくないのか」
”向き合う覚悟もした”と続ける彼。
「好きだからと理解しても、怖かった。つき合うのは簡単だ。けれども、もし違うと言われてしまったら?」
全てを知って幻滅されたらという不安。
離れていったら、もう自分には何も残っていないと唯野は言う。
「俺はそんなに強くない」
”俺にはお前が必要なんだよ”と言われ、板井はなんと答えていいのかわからなかった。
「わかってないよ、板井は。俺がどれだけお前を必要としているのか」
ぽろぽろと彼の涙が床に落ちていく。
『俺はただ、お前に笑って欲しくて……』
不意に昼間言われた言葉を思い出す。
「お前は俺が見たくなかったものを無理やり見せたんだよ。気づきたくなかった本心を暴いたんだよ。余計なこと考えないで、俺の傍に居ればいい」
「ごめんなさい」
それが何に対しての謝罪なのか自分でもわからない。
泣かせてしまったことがショックで頭が働かない。
「責任取れよ、バカ」
ぎゅうっと抱き着かれ、抱きしめ返すのがやっとだった。
板井は一人ベランダで黄昏ていた。
わかっていたことだ。
過去が変えられないことも、唯野はその過去を変えることを望んでいないことも。
──俺は変えたいと願っていた。
けれど修二さんはそれを望まない。
どうして唯野の気持ちが動いたのか、本当は今でも理解できないでいる。
自分が想いを告げるまで彼にはその選択肢はなかったはずだから。
板井は欄干に前かがみになると疎らな明かりを見つめる。この星には何十億という人が存在し、今この瞬間にもいろんなドラマが繰り広げられているはずだ。きっと自分の悩みなんてちっぽけに違いない。
「?!」
不意に暖かいものが背中に触れた。
「板井、何してんだよ。こんな時間に」
「何って、夜風にあたっているだけです」
「一人で?」
「どう見ても一人でしょう?」
身体を反転させ、自分に密着した彼を抱きしめる。
「また考え事か?」
不満そうな表情をする彼に口づけるともっとというように彼の腕が背中に回った。
「中、入ろうよ」
優しく甘い声。
自分は穏やかな彼が好きだった。
その中に激情を秘めていることを知らずに。
──俺は塩田が羨ましいのかな。
無理強いすることを良いとは思わないが、そこまでして手に入れたかった熱。そんなものを自分は彼から感じたことはない。
唯野に腕を掴まれ、仕方なくリビングへ足を踏み入れる板井。
「修二さん」
ベランダへの窓を閉め、カーテンを直すと彼に声をかける。
「なんだ?」
「俺は過去を変えたいと思っています」
もちろん変えることなんてできないことは分かっているが。
「うん」
「あなたが変えたくないと思っていても」
板井の言葉に彼は苦笑いをする。
どうしてわざわざそんなことを告げるのだろうと思っているのだろうか?
「あなたがどんなに嫌がったって、あなたの全てを暴いて俺のものにしたい」
「板井……?」
「俺は納得してないんだと思います。何故、あなたの心が動いたのか」
”俺が好きというまで、あなたには俺と恋人関係になるという選択肢はなかったはずでしょう?”と続ければ唯野は目に涙を浮かべた。
「お前さ……」
「はい」
「俺が流されたとでも思ってる?」
決定的なことを言われ、板井は口を噤む。
そういうことなのだと思った。
自分は彼が流されてこうなったと思っているのだと。
失えないから『板井の意に沿う』そういう選択をした。
「なんでそこまでしてお前にはそっぽ向かれたくなかったのか、わかってない? いや、わかっていなかったのは俺だと思う」
唯野は自分自身の気持ちに気づいていなかったと言いたいのだろうか。
「お前の気持ちが恋心だとは思っていなかったし、いくら信頼してくれているとしても部下に対してそこまで執着する意味にも気づいてなかった」
板井は黙って彼の話を聞いていた。
「俺は板井に好きだと言わて自問自答したよ。どうして失いたくないのか」
”向き合う覚悟もした”と続ける彼。
「好きだからと理解しても、怖かった。つき合うのは簡単だ。けれども、もし違うと言われてしまったら?」
全てを知って幻滅されたらという不安。
離れていったら、もう自分には何も残っていないと唯野は言う。
「俺はそんなに強くない」
”俺にはお前が必要なんだよ”と言われ、板井はなんと答えていいのかわからなかった。
「わかってないよ、板井は。俺がどれだけお前を必要としているのか」
ぽろぽろと彼の涙が床に落ちていく。
『俺はただ、お前に笑って欲しくて……』
不意に昼間言われた言葉を思い出す。
「お前は俺が見たくなかったものを無理やり見せたんだよ。気づきたくなかった本心を暴いたんだよ。余計なこと考えないで、俺の傍に居ればいい」
「ごめんなさい」
それが何に対しての謝罪なのか自分でもわからない。
泣かせてしまったことがショックで頭が働かない。
「責任取れよ、バカ」
ぎゅうっと抱き着かれ、抱きしめ返すのがやっとだった。
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