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────0話*出会いと恋
6・変化していく塩田と電車の関係
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****side■塩田
興味を持たなかったことが癪に障ったのか、塩田は副社長の皇に絡まれることが多くなっていった。
彼は業務はこなすが、自慢話が多い。自慢話とは相手の気を引くためにするもので承認欲求のために行うこともあるが、自分をよく見せたいというのが一般的なのではないだろうか。
当然、塩田にそんな心理が理解できるはずもなく、
「少し黙ってろ」
と言うと、驚いた顔をしたのは皇ではなく同僚の板井の方であった。
板井は真面目で無口。非常に空気を読み、気遣いも上手い。
塩田は彼を単純に凄い奴だなと思っていた。そんな彼とは休憩時間を共にすることが多く、次第に冗談を言い合うような仲に。
しかしもう一人の同僚の電車とはなかなか仲良くなる機会がなかった。
彼は自分のことで精一杯。
部署内で家までの距離が一番遠く、通勤時間も他の者よりもかかるため、疲労困憊という状況にあった。その上、彼の使う路線は終電が早かったのである。
塩田がそんな電車と仲良くなるきっかけは逃した終電と共にやって来た。
「終電逃したなら、うちに泊めてやるよ」
塩田の言葉が意外だったのか?
その場にいた全員が何故か塩田の方を見たのだった。
初めは躊躇していた彼だったが、ホテルを取るよりも寛げるだろうと言えば不安そうに頷く。
初めて部屋に来た時の彼は、きっと緊張していたのだろう。
一所懸命話しかけてくれた。
普段は仕事の話ししかしない関係だったからか、塩田にはそれがとても新鮮に感じたのである。
「一緒に入るか? 裸の付き合いは良いというし」
塩田は”裸の付き合い”の正しい意味を知らなかった為、そんなことを提案した。電車は塩田の提案に驚いていたようだが、何も言わなかったのだ。
それは”裸の付き合い”が物理的なことではなく、心を意味すると知っていたから。そのことは後日、本人から聞いた。
兎にも角にもこの日を堺に、電車との関係は変わっていったのである。
電車には数人の兄弟がいるらしく、彼は見かけによらず長子。苦情係では面倒をみられる方だが、家では彼らの面倒を見ているという。
「お前、頭洗うの上手いな」
礼など要らないといえば、彼は塩田の髪を洗ってくれたのである。
彼が塩田の家に泊まることが増え、そのたびに髪を洗って貰うのが習慣化していた。
「弟たちを風呂に入れるのは俺の仕事だったから」
「じゃあ、残業で帰るのが遅くなると寂しいんじゃ?」
と塩田。
人の情緒に鈍感な塩田でも普段賑やかな環境にいるものが静かな環境に置かれたら寂しさを感じることくらい理解できた。
「うん。だから一緒に寝ていい?」
塩田のマンションは広い。
客間もあるが、彼は何故か一緒に寝たがった。電車は優しげで可愛い顔をしていたので危機を感じなかったのである。
その上、恋人も友人もいなかった塩田はそれがおかしな距離感だと気づかず、いつの間にか日常と化していった。
それが電車の画策だとも知らずに。
一方電車は、話しかければ気さくな塩田に好感を持ち始め、特別なポジションを狙っていたのだった。
興味を持たなかったことが癪に障ったのか、塩田は副社長の皇に絡まれることが多くなっていった。
彼は業務はこなすが、自慢話が多い。自慢話とは相手の気を引くためにするもので承認欲求のために行うこともあるが、自分をよく見せたいというのが一般的なのではないだろうか。
当然、塩田にそんな心理が理解できるはずもなく、
「少し黙ってろ」
と言うと、驚いた顔をしたのは皇ではなく同僚の板井の方であった。
板井は真面目で無口。非常に空気を読み、気遣いも上手い。
塩田は彼を単純に凄い奴だなと思っていた。そんな彼とは休憩時間を共にすることが多く、次第に冗談を言い合うような仲に。
しかしもう一人の同僚の電車とはなかなか仲良くなる機会がなかった。
彼は自分のことで精一杯。
部署内で家までの距離が一番遠く、通勤時間も他の者よりもかかるため、疲労困憊という状況にあった。その上、彼の使う路線は終電が早かったのである。
塩田がそんな電車と仲良くなるきっかけは逃した終電と共にやって来た。
「終電逃したなら、うちに泊めてやるよ」
塩田の言葉が意外だったのか?
その場にいた全員が何故か塩田の方を見たのだった。
初めは躊躇していた彼だったが、ホテルを取るよりも寛げるだろうと言えば不安そうに頷く。
初めて部屋に来た時の彼は、きっと緊張していたのだろう。
一所懸命話しかけてくれた。
普段は仕事の話ししかしない関係だったからか、塩田にはそれがとても新鮮に感じたのである。
「一緒に入るか? 裸の付き合いは良いというし」
塩田は”裸の付き合い”の正しい意味を知らなかった為、そんなことを提案した。電車は塩田の提案に驚いていたようだが、何も言わなかったのだ。
それは”裸の付き合い”が物理的なことではなく、心を意味すると知っていたから。そのことは後日、本人から聞いた。
兎にも角にもこの日を堺に、電車との関係は変わっていったのである。
電車には数人の兄弟がいるらしく、彼は見かけによらず長子。苦情係では面倒をみられる方だが、家では彼らの面倒を見ているという。
「お前、頭洗うの上手いな」
礼など要らないといえば、彼は塩田の髪を洗ってくれたのである。
彼が塩田の家に泊まることが増え、そのたびに髪を洗って貰うのが習慣化していた。
「弟たちを風呂に入れるのは俺の仕事だったから」
「じゃあ、残業で帰るのが遅くなると寂しいんじゃ?」
と塩田。
人の情緒に鈍感な塩田でも普段賑やかな環境にいるものが静かな環境に置かれたら寂しさを感じることくらい理解できた。
「うん。だから一緒に寝ていい?」
塩田のマンションは広い。
客間もあるが、彼は何故か一緒に寝たがった。電車は優しげで可愛い顔をしていたので危機を感じなかったのである。
その上、恋人も友人もいなかった塩田はそれがおかしな距離感だと気づかず、いつの間にか日常と化していった。
それが電車の画策だとも知らずに。
一方電車は、話しかければ気さくな塩田に好感を持ち始め、特別なポジションを狙っていたのだった。
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