147 / 218
────6話*狂いだした歯車と動き出す運命
5・分かることのない望み
しおりを挟む
****♡Side・社長(呉崎)
「社長。もうこんなことはやめるべきです」
休日出勤に応じた彼は、社長室へ出向き強い語調でそう言った。
「皇には皇の人生がある。わかっておいででしょう?」
呉崎は社長室から見える風景を後ろ手に組んで眺めていたが、
「君は、いつでも強気だね」
と言って、彼の方に向き直る。
「でもそれは、君が僕にとって必要不可欠な存在だからこそ、許されることだと分かっているのかい?」
「と、言いますと?」
彼は怯むことなく、呉崎を見つめていた。
「そんな生意気な口をきけるのは、僕が許しているからだということだよ」
彼は呉崎の言葉に一瞬、目を見開いたがすぐ穏やかな表情になって、
「自分は、ダメなことをダメと言います。どんな相手であっても」
と口にする。
「本当にそうかい?」
それは、彼の言動に疑念を抱いたからではない。
「自分が忖度をするとでも?」
”それとも”と彼は続ける。
「以前は違ったとでも言いたいのですか? そこまで綿密でなければ、気が済みませんか?」
穏やかな彼が嫌味を吐くのを呉崎はじっと見ていた。
──君は、僕のお気に入り。
決して株原の中から出しはしない。
僕の庭で彼らを守り、足掻き、朽ち果てるまで。
『社長が執着している相手は、本当に皇副社長なのですか?』
再び、秘書神流川に言われた言葉が脳裏を過る。
フッと笑みを零すと、呉崎は彼の肩に手を置いた。
「板井君とはよろしくやっているのかね? 唯野君」
さすがの彼も、”信じられない”と言う顔で呉崎に目を向ける。
「セクハラして楽しいですか?」
にらみつけるでもなく、冷静な彼の反応が呉崎を焦らす。
「ああ。楽しいよ」
──決して屈しない君を嬲るのは。
とても甘美だ。
「悪趣味ですね」
「そうかい?」
「ええ、とても」
”なら”と、呉崎は唯野の腰に手を回し引き寄せ、
「不愉快だと言う顔をしてごらんよ」
と耳元で囁く。
「板井君はどんな風に君を抱くの?」
スルリと腰を撫でながら意地悪く問うても彼は、身じろぎどころか眉一つ動かさない。
呉崎の性欲が自分に向くことはないと思ってのことだろう。
「そんなこと聞いてどうするんです?」
と蔑んだような眼差しを向けた彼は、
「興味なんかないクセに」
と吐き捨てるように言った。
呉崎はその言葉に驚く。
「あなたがこんなことをするのは、ただの嫌がらせ。それ以上でもそれ以下でもない。そんなことは初めから分かっている」
そう言って唇を嚙み締める彼。
「じゃあ、君は何を望んでいるんだい?」
自分でも何故そんなことを問うのか分からなかった。
彼の去った社長室で一人、デスクに片手をついて呉崎は項垂れていた。
『こんなことで、皇を守れるというのならいくらだって耐えてやる』
彼は恨みのこもった瞳を向け、そう言った。
──『何かを望んでいるのは、あなたでしょう?』
……か。
呉崎は十七年前の事件のことを反芻する。
彼は誰にも助けを求めることなく、一人で耐えていた。
──あの時、君を組み敷いていれば僕の心は満たされたのだろうか?
「社長。もうこんなことはやめるべきです」
休日出勤に応じた彼は、社長室へ出向き強い語調でそう言った。
「皇には皇の人生がある。わかっておいででしょう?」
呉崎は社長室から見える風景を後ろ手に組んで眺めていたが、
「君は、いつでも強気だね」
と言って、彼の方に向き直る。
「でもそれは、君が僕にとって必要不可欠な存在だからこそ、許されることだと分かっているのかい?」
「と、言いますと?」
彼は怯むことなく、呉崎を見つめていた。
「そんな生意気な口をきけるのは、僕が許しているからだということだよ」
彼は呉崎の言葉に一瞬、目を見開いたがすぐ穏やかな表情になって、
「自分は、ダメなことをダメと言います。どんな相手であっても」
と口にする。
「本当にそうかい?」
それは、彼の言動に疑念を抱いたからではない。
「自分が忖度をするとでも?」
”それとも”と彼は続ける。
「以前は違ったとでも言いたいのですか? そこまで綿密でなければ、気が済みませんか?」
穏やかな彼が嫌味を吐くのを呉崎はじっと見ていた。
──君は、僕のお気に入り。
決して株原の中から出しはしない。
僕の庭で彼らを守り、足掻き、朽ち果てるまで。
『社長が執着している相手は、本当に皇副社長なのですか?』
再び、秘書神流川に言われた言葉が脳裏を過る。
フッと笑みを零すと、呉崎は彼の肩に手を置いた。
「板井君とはよろしくやっているのかね? 唯野君」
さすがの彼も、”信じられない”と言う顔で呉崎に目を向ける。
「セクハラして楽しいですか?」
にらみつけるでもなく、冷静な彼の反応が呉崎を焦らす。
「ああ。楽しいよ」
──決して屈しない君を嬲るのは。
とても甘美だ。
「悪趣味ですね」
「そうかい?」
「ええ、とても」
”なら”と、呉崎は唯野の腰に手を回し引き寄せ、
「不愉快だと言う顔をしてごらんよ」
と耳元で囁く。
「板井君はどんな風に君を抱くの?」
スルリと腰を撫でながら意地悪く問うても彼は、身じろぎどころか眉一つ動かさない。
呉崎の性欲が自分に向くことはないと思ってのことだろう。
「そんなこと聞いてどうするんです?」
と蔑んだような眼差しを向けた彼は、
「興味なんかないクセに」
と吐き捨てるように言った。
呉崎はその言葉に驚く。
「あなたがこんなことをするのは、ただの嫌がらせ。それ以上でもそれ以下でもない。そんなことは初めから分かっている」
そう言って唇を嚙み締める彼。
「じゃあ、君は何を望んでいるんだい?」
自分でも何故そんなことを問うのか分からなかった。
彼の去った社長室で一人、デスクに片手をついて呉崎は項垂れていた。
『こんなことで、皇を守れるというのならいくらだって耐えてやる』
彼は恨みのこもった瞳を向け、そう言った。
──『何かを望んでいるのは、あなたでしょう?』
……か。
呉崎は十七年前の事件のことを反芻する。
彼は誰にも助けを求めることなく、一人で耐えていた。
──あの時、君を組み敷いていれば僕の心は満たされたのだろうか?
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
[R-18] 奴隷のレッスン:騎士団所属の末っ子王子は、イケメン奴隷に身も心も奪われる
山葉らわん
BL
【縦読み推奨】
■ 第一章(第1話〜第9話)
アラディーム国の第七王子であるノモクは、騎士団長ローエの招きを受けて保養地オシヤクを訪れた。ノモクは滞在先であるローエの館で、男奴隷エシフと出会う。
滞在初日の夜、エシフが「夜のデザート」と称し、女奴隷とともにノモクの部屋を訪れる。しかし純潔を重んじるノモクは、「初体験の手ほどき」を断り、エシフたちを部屋から追い返してしまう。
■ 第二章(第1話〜第10話)
ノモクが「夜のデザート」を断ったことで、エシフは司祭ゼーゲンの立合いのもと、ローエから拷問を受けることになってしまう。
拷問のあと、ノモクは司祭ゼーゲンにエシフを自分の部屋に運ぶように依頼した。それは、持参した薬草でエシフを治療してあげるためだった。しかしノモクは、その意図を悟られないように、エシフの前で「拷問の仕方を覚えたい」と嘘をついてしまう。
■ 第三章(第1話〜第11話)
ノモクは乳母の教えに従い、薬草をエシフの傷口に塗り、口吻をしていたが、途中でエシフが目を覚ましてしまう。奴隷ごっこがしたいのなら、とエシフはノモクに口交を強要する。
■ 第四章(第1話〜第9話)
ノモクは、修道僧エークから地下の拷問部屋へと誘われる。そこではギーフとナコシュのふたりが、女奴隷たちを相手に淫らな戯れに興じていた。エークは、驚くノモクに拷問の手引き書を渡し、エシフをうまく拷問に掛ければ勇敢な騎士として認めてもらえるだろうと助言する。
◾️第五章(第1話〜第10話)
「わたしは奴隷です。あなたを悦ばせるためなら……」
こう云ってエシフは、ノモクと交わる。
◾️第六章(第1話〜第10話)
ノモクはエシフから新しい名「イェロード」を与えられ、またエシフの本当の名が「シュード」であることを知らされる。
さらにイェロード(=ノモク)は、滞在先であるローエの館の秘密を目の当たりにすることになる。
◾️第七章(第1話〜第12話)
現在、まとめ中。
◾️第八章(第1話〜)
現在、執筆中。
【地雷について】
「第一章第4話」と「第四章第3話」に男女の絡みシーンが出てきます(後者には「小スカ」もあり)。過度な描写にならないよう心掛けていますが、地雷だという読者さまは読み飛ばしてください(※をつけています)。
「第二章第10話」に拷問シーンが出てきます。過度な描写にならないよう心掛けていますが、地雷だという読者さまは読み飛ばしてください(※をつけています)。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
初恋の幼馴染の女の子の恰好をさせられメス調教もされて「彼女」の代わりをさせられる男の娘シンガー
湊戸アサギリ
BL
またメス調教ものです。今回はエロ無しです。女装で押し倒されいますがエロはありません
女装させられ、女の代わりをさせられる屈辱路線です。メス調教ものは他にも書いていますのでよろしくお願いいたします
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる