140 / 218
────5話*俺のものだよ
21・変わりはじめた日常
しおりを挟む
****♡Side・副社長(皇)
「?」
皇はいつものように苦情係に足を踏み入れ、違和感を持った。
「どうしたの? 副社長」
後からやってきた電車が不思議そうに問う。手にはコーヒーカップを持って。この会社でも基本、飲み物は個人個人で入れるが、苦情係では朝一の飲み物は板井が入れてくれていた。
「あ、いや。板井と課長は?」
「もうすぐ来るんじゃない?」
そういうと電車は給湯室へ。
まだ始業十分前なので、遅刻というわけではないが、いつもなら自分たちよりも早く来ているはずの二人がいないのは変な感じがした。
「いつまでも突っ立ってないで座れば?」
皇がぼんやりしていると、先に苦情係に来てPCを立ち上げていた塩田に声をかけられる。
彼とは先日、駅での待ち合わせ以来、少し距離が近くなったように感じていた。身体の関係になっておいて、今更なんだという話ではあるが。
つい最近の休みの日には、気軽に三人で遠出したほどである。
皇が塩田の隣に腰かけPCを立ち上げていると、
「どーぞー」
と言って電車が紅茶をいれたカップをデスクに置いていく。
「ありがとう」
別に彼らは皇が副社長だからお茶を入れてくれているわけではない。そもそも皇は手伝いに来ているだけで、ここの部署の担当ではないのである。つまり彼らからすると、お礼の一種なのだ。
「ねえ、副社長」
「ん?」
電車は席に着くとアイスコーヒーにストローを差しながら。
塩田はそんな電車の前に手を伸ばし、PCの電源を入れた。
「この間行ったところ、楽しかったね。またどっか連れて行ってよ」
「運転してたの電車だけどな」
と皇。
塩田は下の売店で購入したカフェラテに口をつけながら、スマホに目を落とす。そんな塩田を眺めながら、あれだけ”紀夫の運転する車には乗りたくない”とごねていたのに、電車の車を見た途端態度が変わったことを思い出し、皇はクスリと笑う。
電車の自家用車は十人乗りの黒のワゴン車であった。値の高い車が好きなのか、駐車場で彼の車を目にした途端、塩田の目はキラキラした。
そして、
『乗る』
と一言。
『いや、待って。やっと着いたばかりなのに』
そこそこの距離を運転してきた電車は実家からの荷物を積んだまま、塩田をさらに積むことになったのだ。
困惑する彼に、
『俺が運転するから、スーパーにでも行こうか』
と声をかけたのは皇。
皇の方が長距離運転をした後だったのだが、たまにしか運転しない彼に比べれば疲れは少なかった。あの時、免許を持っていない塩田が一番嬉しそうに見えて、可愛い奴だなと思ったのだ。
そして先日の休みに三人で博物館へ。
意外にも電車は海外の歴史に詳しく、展示物に添えてある説明以上に深く歴史に触れることができ、話も盛り上がった。
「そうだな」
と皇が返すと、なぜか塩田の目がキラキラする。
口には出さないが、どうやら出かけられるのが嬉しいようである。最近、少しづつ彼のことが理解できるようになったのではないかと、皇は感じていた。
──友達もいなかったみたいだし、親に免許を取るのを反対されていたみたいだしな。
かといって、一人で遠出するタイプでもなさそうだし。
皇も人のことを言えないくらい友人はいなかったが、どちらかと言えばアクティブな方だったため、一人で何処へでも行く。特にドライブは好きで、遠くまで夜景を見に行ったこともあった。
「そうだな。今度泊りがけで、温泉でも行くか?」
と皇が提案すると、
「いいね!」
と電車。
「乗った」
と珍しく塩田が返事をする。
「お、早いな」
とそこへ課長の唯野と、
「おはようございます」
と板井が入って来た。
──一緒に来たのか?
それとも、下で会ったのか?
なんとなくそんなことが気になった皇であったが、それよりも彼の手に視線がくぎ付けになったのであった。
何かが変わり始めている。ゆっくりと足音を立てずに。
「?」
皇はいつものように苦情係に足を踏み入れ、違和感を持った。
「どうしたの? 副社長」
後からやってきた電車が不思議そうに問う。手にはコーヒーカップを持って。この会社でも基本、飲み物は個人個人で入れるが、苦情係では朝一の飲み物は板井が入れてくれていた。
「あ、いや。板井と課長は?」
「もうすぐ来るんじゃない?」
そういうと電車は給湯室へ。
まだ始業十分前なので、遅刻というわけではないが、いつもなら自分たちよりも早く来ているはずの二人がいないのは変な感じがした。
「いつまでも突っ立ってないで座れば?」
皇がぼんやりしていると、先に苦情係に来てPCを立ち上げていた塩田に声をかけられる。
彼とは先日、駅での待ち合わせ以来、少し距離が近くなったように感じていた。身体の関係になっておいて、今更なんだという話ではあるが。
つい最近の休みの日には、気軽に三人で遠出したほどである。
皇が塩田の隣に腰かけPCを立ち上げていると、
「どーぞー」
と言って電車が紅茶をいれたカップをデスクに置いていく。
「ありがとう」
別に彼らは皇が副社長だからお茶を入れてくれているわけではない。そもそも皇は手伝いに来ているだけで、ここの部署の担当ではないのである。つまり彼らからすると、お礼の一種なのだ。
「ねえ、副社長」
「ん?」
電車は席に着くとアイスコーヒーにストローを差しながら。
塩田はそんな電車の前に手を伸ばし、PCの電源を入れた。
「この間行ったところ、楽しかったね。またどっか連れて行ってよ」
「運転してたの電車だけどな」
と皇。
塩田は下の売店で購入したカフェラテに口をつけながら、スマホに目を落とす。そんな塩田を眺めながら、あれだけ”紀夫の運転する車には乗りたくない”とごねていたのに、電車の車を見た途端態度が変わったことを思い出し、皇はクスリと笑う。
電車の自家用車は十人乗りの黒のワゴン車であった。値の高い車が好きなのか、駐車場で彼の車を目にした途端、塩田の目はキラキラした。
そして、
『乗る』
と一言。
『いや、待って。やっと着いたばかりなのに』
そこそこの距離を運転してきた電車は実家からの荷物を積んだまま、塩田をさらに積むことになったのだ。
困惑する彼に、
『俺が運転するから、スーパーにでも行こうか』
と声をかけたのは皇。
皇の方が長距離運転をした後だったのだが、たまにしか運転しない彼に比べれば疲れは少なかった。あの時、免許を持っていない塩田が一番嬉しそうに見えて、可愛い奴だなと思ったのだ。
そして先日の休みに三人で博物館へ。
意外にも電車は海外の歴史に詳しく、展示物に添えてある説明以上に深く歴史に触れることができ、話も盛り上がった。
「そうだな」
と皇が返すと、なぜか塩田の目がキラキラする。
口には出さないが、どうやら出かけられるのが嬉しいようである。最近、少しづつ彼のことが理解できるようになったのではないかと、皇は感じていた。
──友達もいなかったみたいだし、親に免許を取るのを反対されていたみたいだしな。
かといって、一人で遠出するタイプでもなさそうだし。
皇も人のことを言えないくらい友人はいなかったが、どちらかと言えばアクティブな方だったため、一人で何処へでも行く。特にドライブは好きで、遠くまで夜景を見に行ったこともあった。
「そうだな。今度泊りがけで、温泉でも行くか?」
と皇が提案すると、
「いいね!」
と電車。
「乗った」
と珍しく塩田が返事をする。
「お、早いな」
とそこへ課長の唯野と、
「おはようございます」
と板井が入って来た。
──一緒に来たのか?
それとも、下で会ったのか?
なんとなくそんなことが気になった皇であったが、それよりも彼の手に視線がくぎ付けになったのであった。
何かが変わり始めている。ゆっくりと足音を立てずに。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる