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────5話*俺のものだよ

3・君の笑顔、バカな自分

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****♡Side・塩田

 休憩すると言って苦情係を出た塩田は、苦情係から一番近い休憩室に居た。電車でんまと二人で。皇は、自分の業務があると言って企画部へ。
「ねえ、副社長大丈夫かな」
 電車は自動販売機からカフェラテを二つ購入すると、一つを塩田へ渡しながら。
「大丈夫だろ、企画部には皇信者がいっぱい居るんだから」
 ”冷たいので良かった?”と電車に聞かれ、塩田は頷く。
「何それ」
 彼は隣に腰を下ろすと、ペットボトルのキャップを開ける。
「企画部の奴なんて、みんなエリート集団。トントン拍子に副社長にまで上り詰めた若きエリート様は、憧れなんだとよ」
「ふーん」

 自分から聞いたくせにそんな反応なのかと、塩田は苦笑いしながらペットボトルの蓋を開けた。塩田は缶コーヒーをあまり好まない。それを知ってのチョイスなんだろうかと、彼を見つめる。
「塩田もさ」
「ん?」
 彼は前を見つめたまま。
「エリートが好き?」
 自分たちはただの平社員だ、苦情係という檻に入れられた。待遇は他の部署より格段に良いが、出世なんて出来ないだろうし、檻から出ることもできない。
 部屋には静かな音量で”my prerogeative”が流れている。
「俺は、紀夫が好きなだけだ」
 エリートと付き合いたいなどと思ったことはない。
 エリートになりたいと思ったことも。

「あは。凄い、殺し文句」
 肩を竦め笑う彼を、塩田はじっと見つめていた。
「ごめんな」
「え? 何、なんで謝るの」
 塩田の謝罪に驚いて、こちらを見る彼。
「二人で逃げる選択肢もあったのに。俺が言ったから承諾したんだろ」
 自分はいつだって彼を犠牲にしている。我慢させていると思っていた。
「いいよ。断る選択肢だって、あったんでしょ?」
 彼は優しくて、一途だ。そして、塩田の気持ちを優先してくれる。大好きで、大切な人。本当は自分の恋人に他の人なんて抱かせたくなかったはずだ。

「ああ」
「じゃあ、断っていたらどうなっていたのか、教えてよ」
 彼が柔らかい笑みを浮かべ、あるはずのない未来を塩田に問う。
「そうだな。会社やめて海外で暮らしてたかな」
「ふうん、塩田は何処に行きたいの?」
 彼の笑顔が好きだ。自分はこの笑顔を守りたいと思っていた。
 それなのに、彼を犠牲にしたのだ。

──馬鹿だな、俺。

「ヨーロッパに行きたい。フランスかイタリア」
「お洒落なところが好きなんだね」
 微笑む彼に、塩田は手を伸ばす。
「じゃあ、新婚旅行はヨーロッパに行こうよ。塩田? どうしたの……?」
 塩田は無言で、彼の胸に顔を埋めた。堪えきれなかった涙が一筋頬を伝う。
「好きだよ、紀夫のりお

──ほんとに俺は、バカだ。
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