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────3話*俺のものだから

13・ここではない何処かへ

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****♡Side・副社長(皇)

「家まで送って行くよ」
「いえ、一度社に寄って行きます。車で来てますので」
 皇は社長の申し出を断ると、彼に顎を掴まれた。
「朝、迎えに行くのに」
 優しい瞳で見つめられ、腰を引かれる。そして、耳元で一言。
「え? 今……なんて?」

────”僕と、恋愛をしよう。皇くん”

「しょうがないね、社まで送っていく」
「社長?」
「さあ、戻ろう」
 手首を掴まれ、ホテルの部屋を後にする。車の中で彼はずっと、他愛のない話をしていた。さっきのことには一言も触れずに。
 皇は聞き間違いかもしれないと思い始めていたが、社の玄関につくと、
「考えておいて」
と言われ、彼が本気で言ってるのだということを知った。

──何故、今さら?

 皇は社長のことが分からなくなっている。そもそも恋愛をするとはどういうことなのか。彼には妻子がいて、自分には別れられない婚約者がいて、心を占める存在もいるのに。

 皇は社に入るとタイムカードを切り、駐車場がある側の出口に向かう。なんと返事をしたものかと悩みつつ、車に乗り込んだところでスマホに着信が。
「なんだ?」
 表示を見て眉を顰めつつ、耳に充てる。
『なんだとはご挨拶だな』
 不機嫌な相手は総括部長の黒岩だ。
「俺様に何の用だ」
『随分遅いんじゃないのか? 会食とやらは。お前の昼飯は何時間かかるんだよ』
「どうやら七時間のようだな」
 皇は腕時計に目をやって。
「ところでどこにいるんだ? まだ、社内か?」
『ああ』

──まさか、俺を心配して今まで社に?

 どうせなら塩田に心配されたかったな、などと思いながら、
「まだ仕事? 帰れるなら降りて来いよ」


****♡Side・総括(黒岩)

『少し、ドライブに付き合え』
 そう言われ彼の車に乗り込んだものの、彼はただじっと前を見つめていた。すっかり日は落ちて、煌めく街のネオン、車はゆっくりと走行していく。どうやら帰りのラッシュにはまってしまったようだ。

──何かあったのだろうか?

 黒岩は何も聞けないまま、ただ彼を見つめていた。車内にはお洒落な曲が流れていてまるでデートのような気分になる。だが、一つ気になることが。
 彼から香るのはいつもの香水ではなく、シャンプーの香り。昼まではそんな香りはしなかった。
「皇」
「ん?」
「良い匂いする」
「なんだ、腹が減ったのか?」
 カマをかけとようとして失敗し、更に、
「飯でも食ってくか?」
と問われる。
 黒岩はなんと返そうか迷い黙っていた。
 すると、彼は赤信号でブレーキを踏み、
「おい、返事くらいしろよ」
とこちらに顔を向ける。
「お前、いつもと違う匂いがする」
「……」
 彼は黒岩の言葉にため息をついた。
 信号が変わりアクセルを踏むと、
「そんなこと言って、どうしたいの」
ともっともなことを口にする。

──だよな。聞きたいことがあれば、ストレートに言わなきゃ伝わらない。
まるで、浮気を疑うような言い方したって仕方ない。

「なあ、皇」
「ん?」
「俺が離婚したら付き合ってくれる?」
「はあ?!」
 どうやら直球すぎたようだ。

 しかしこの時の自分は、この後の選択次第で泥沼の三角関係になるなんて、思ってもいなかったのである。
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