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2章『二人で探る幸せの場所』
8:彼に逢いに行く
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****♡Side・塩田
「あれ? 塩田、駅行くの?」
それは週末。
声をかけて来たのは、同僚の電車。皇の出張の日、仕事が終わり会社を出ると塩田は駅に向かっていた。会社から駅は、すぐそこである。
「ああ」
苦情係のメンバーは、塩田以外が電車通勤。車でも通えない距離ではないが、皆電車の方が楽らしい。塩田の周りで車通勤と言えば、副社長と社長くらいなモノだ。
「へえ、珍しい」
駅まで一緒に行こうよ、と彼は言う。方角は一緒、五分程度ということから塩田は頷いた。
”電車 紀夫”、塩田は彼のことは嫌いではない。むしろ仲は良い。噂では彼女がいるらしいが、一緒に居るところは見たことがなかった。
「塩田、これ可愛くない?」
列車を待っている間、キオスクを覗いていた彼が指さしたのは、六コ入りのお菓子。ふわふわした生地の中にチョコレートクリームとカスタードクリームが入って居るのだが、見た目が白くハート形をしていた。一個が一口大くらいの大きさだ。
「買う」
塩田は一つ掴むと、迷わず購入する。皇も自分も甘いものは好まないが、ハートのお菓子を食べている皇の姿を想像したら可愛らしかったからだ。
「え」
それを見た電車が驚いている。話を振ったのは、そっちのくせにと思いながら、お菓子の入ったビニール袋を受け取るとカバンにしまう。
そこで待っていた車両が来たのか電車が、
「塩田、また月曜日にね」
といって列車に乗り込んでいった。
塩田の待つ列車は反対側。電光掲示板を見上げると到着は一分後であった。
「皇、大丈夫かな……」
たった一日逢っていないだけで、もう何日も会っていないような気持がする。早く会いたいと思いながらスマホの画面に視線を移すと、どうやら三分前にメッセが来ていたらしいことに気づく。
彼からは一言、
”気を付けておいで”
と書かれていた。
こんな時、塩田は彼が年上で長男なのだなと実感する。
どんなに対等だと思っていても。
恋人は対等でいるべきだと理想を掲げても。
塩田は深いため息をつく。別に自分が優位に立ちたいとか、そんなことを思っているわけではない。ただ、彼に頼りにされる存在で居たい。
たとえ社内でで彼がどんな振る舞いをしていても、会社の一歩外に出てしまえば、常識を持ち良識的な社会人なのだ。だからこそ彼は、社長にも好かれているし取引先の者からも評判がいい。
会社の業績が急激に上がったのは、皇の力あってだと社長は言う。以前は全く興味がなかった塩田もその通りだと思っている。
──早く、皇に逢いたい。
不安なわけじゃない。ただ、彼の傍が落ち着くのだ。
珍しく手土産など持参する自分に、彼はどんな言葉をくれるのだろうか。そんな事を考えながら塩田は、列車に乗り込んだのだった。
「あれ? 塩田、駅行くの?」
それは週末。
声をかけて来たのは、同僚の電車。皇の出張の日、仕事が終わり会社を出ると塩田は駅に向かっていた。会社から駅は、すぐそこである。
「ああ」
苦情係のメンバーは、塩田以外が電車通勤。車でも通えない距離ではないが、皆電車の方が楽らしい。塩田の周りで車通勤と言えば、副社長と社長くらいなモノだ。
「へえ、珍しい」
駅まで一緒に行こうよ、と彼は言う。方角は一緒、五分程度ということから塩田は頷いた。
”電車 紀夫”、塩田は彼のことは嫌いではない。むしろ仲は良い。噂では彼女がいるらしいが、一緒に居るところは見たことがなかった。
「塩田、これ可愛くない?」
列車を待っている間、キオスクを覗いていた彼が指さしたのは、六コ入りのお菓子。ふわふわした生地の中にチョコレートクリームとカスタードクリームが入って居るのだが、見た目が白くハート形をしていた。一個が一口大くらいの大きさだ。
「買う」
塩田は一つ掴むと、迷わず購入する。皇も自分も甘いものは好まないが、ハートのお菓子を食べている皇の姿を想像したら可愛らしかったからだ。
「え」
それを見た電車が驚いている。話を振ったのは、そっちのくせにと思いながら、お菓子の入ったビニール袋を受け取るとカバンにしまう。
そこで待っていた車両が来たのか電車が、
「塩田、また月曜日にね」
といって列車に乗り込んでいった。
塩田の待つ列車は反対側。電光掲示板を見上げると到着は一分後であった。
「皇、大丈夫かな……」
たった一日逢っていないだけで、もう何日も会っていないような気持がする。早く会いたいと思いながらスマホの画面に視線を移すと、どうやら三分前にメッセが来ていたらしいことに気づく。
彼からは一言、
”気を付けておいで”
と書かれていた。
こんな時、塩田は彼が年上で長男なのだなと実感する。
どんなに対等だと思っていても。
恋人は対等でいるべきだと理想を掲げても。
塩田は深いため息をつく。別に自分が優位に立ちたいとか、そんなことを思っているわけではない。ただ、彼に頼りにされる存在で居たい。
たとえ社内でで彼がどんな振る舞いをしていても、会社の一歩外に出てしまえば、常識を持ち良識的な社会人なのだ。だからこそ彼は、社長にも好かれているし取引先の者からも評判がいい。
会社の業績が急激に上がったのは、皇の力あってだと社長は言う。以前は全く興味がなかった塩田もその通りだと思っている。
──早く、皇に逢いたい。
不安なわけじゃない。ただ、彼の傍が落ち着くのだ。
珍しく手土産など持参する自分に、彼はどんな言葉をくれるのだろうか。そんな事を考えながら塩田は、列車に乗り込んだのだった。
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