草草不一

花栗 詩音

文字の大きさ
上 下
1 / 2

出会いと始まりと

しおりを挟む

「見てて」

そう言うと泰人たいと徐ろおもむに巻物のような物を取り出し、胡座あぐらをかいて目の前に広げた。
それは細長い紙のようなものに書かれている鍵盤だった。

「何これ?ピアノ」

えんがそっとそれに手を触れるとポンと軽い音が空中に弾け飛んで消えた。

「そう、魔法みたいでしょ?」

泰人はニッコリと微笑み遠の頭を撫でた。遠の細く柔らかい黄金色の髪の美しさに満足し更に頬を染めた、愛おしい。この感情を表すのにはその言葉が相応しかった

「これで宇宙の音を降らせるんだ」

泰人の弟の息子である遠は彼が23歳の時に産まれた。
それはそれは幼少期の弟にそっくりで弟を溺愛していた泰人が遠を異常なまでに可愛がるのは至極当たり前のことであった。
毎日のように家を訪れ遠の成長を見守り、歩けるようになってからは毎週のように外に連れ出して色んな場所に連れていった。
弟夫婦に二人の時間を与えたいというのはただの建前で本音はこの愛おしすぎる幼子と一緒にいたいだけであった。

12歳になり中学に上がっても泰人の溺愛っぷりは変わらずそれまでよりも増して見えた。
頭の良かった遠は両親の進めで中学受験を受け、見事余裕で合格し自宅から離れた学校に通うことになった。
寮も完備されている学校だったが遠は頑なにそれを拒否、一人暮らしを要求した。
しかしそれを両親が拒否、中学に上がったばかりの子供を一人暮らしさせるなど無謀だと思ったのだ。
そこで手を差し伸べたのが泰人。遠の学校の近くに引越しを決め一緒に暮らす提案をした。
さすがにその行為に両親は引き気味だったが息子の喜ぶ姿を見てどうでもよくなってしまった。
結局のところkも両親も遠を溺愛しているのだ。

何やかんや勢いで始まった、叔父と甥の同居生活はとても豊かで教養的な時間であった。
真面目な遠は学校が終わり次第寄り道などすることなくすぐに家に帰ってくる。そして一通り宿題と自己学習を済ませると1番奥にある泰人の部屋をノックした。

ノックが聞こえると泰人は「どうぞ」と短い返事をし遠を招き入れる。
1番奥にある部屋は6畳ほどの小さな部屋だが日当たりが良く、風通りも良い。
夏は少し熱く感じるがそれ以外の季節は快適で趣深い場所だった。
その1番良い部屋はこの家の主である泰人の自室権仕事部屋となっており、仕事がある時は一日中その部屋に籠りっぱなしであった。
そんな時、遠は何をするわけでも無くこの部屋に一緒に居るのだ。
特に会話をする訳でもなく、泰人に構うことなく、ずっと作曲をするその背中を見ながら奏でられる音を身体で受け止めていた。
普段はPCと電子ピアノを使いながら制作をする泰人だが、時々ロールピアノを取り出して演奏していた。
遠はロールピアノを演奏する泰人が好きだった。
どこか愁いを含んだような、それ自体が不思議な楽器から奏でられるピアノの音が好きだった。
「宇宙の音」
泰人はピアノの音をそう表現する。

「俺は音楽を作ってるんじゃない、宇宙から降る音を此処に並べてるだけなんだ」と。

泰人は愛おしそうにロールピアノの鍵盤を撫で、遠に向き直った。
遠は泰人の目を真っ直ぐ見つめると顔をクシャッと歪ませ微笑んだ。
幼い頃から変わらない、泰人は堪らず遠を抱きしめた。
その行為に少し驚いた遠だったが、素直にその細くか弱そうな胸板に身を任せた。
泰人の心音が聴こえる、規則正しく、そして弱々しく。
昔から叔父の胸の中で眠るのが好きだった、薄らと金木犀の淡い香りがするのだ。
その優しい香りがとても好きなのだ。
暫くすると遠はそのまま眠りについてしまい、幼いとはいえそこそこになった体重が泰人に寄りかかってきた。
少し体勢を変え、泰人はまたロールピアノを叩く。
寝顔は赤子の時から変わらない、ずっと変わらないのだ。

「あと少し、あと少しだけ…どうか…」

そう願いながら泰人は夢中で楽譜に音を刻み込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

彼はオレを推しているらしい

まと
BL
クラスのイケメン男子が、なぜか平凡男子のオレに視線を向けてくる。 どうせ絶対に嫌われているのだと思っていたんだけど...? きっかけは突然の雨。 ほのぼのした世界観が書きたくて。 4話で完結です(執筆済み) 需要がありそうでしたら続編も書いていこうかなと思っておいます(*^^*) もし良ければコメントお待ちしております。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

孤独な戦い(1)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

処理中です...