精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜

文字の大きさ
上 下
33 / 63
第四章冒険者事業

王様は弱々しい

しおりを挟む
王宮に着いた。

大勢の精霊達は魔法使いに見られると目立つので、門の前で待って貰っている。精霊達は「いっしょにいきたい!」と駄々をこねたが、フォレの鶴の一声で不満を言われながらも待たせてもらうことが出来た。ちなみに精霊の下級や中級などというのは力の差の区別だと思っていたが、権力的にも立場的にも最高位が圧倒的に高いという。日本でいうと平社員と社長みたいな感じか。そりゃ逆らえないな。それでもこの世界では精霊が偉いことに変わりはないが。
そしてフォレとロランは休憩も兼ねて馬車に隠れている。

まあそんなことしても道中凄い目立つ。
兵士達と馬車を連想すると、あの時のことを思い出してしまう。なので私は「馬車ではなく普通に歩かせてください」と頼んだ。兵士達は「精霊使い様に歩かせるなど」ととても遠慮されたが···。
まあそこは平社員と社長なわけですから。
ほとんどゴリ押しで兵士を説得し、歩かせて貰っていた。しかし最初はうーまに乗ろうと思っていた。

今まで馬鹿にされたり見下されたりが多かった私は、せっかくなので気高き美しいうーまと共に国民を下に見て偉そうにしてやろう!···などと思って調子に乗っていたのも束の間。
少し前まで平凡な女子高生だった私に、罪も無い幼い子供やガッチリとした大人達を見下すことなんて出来ず、うーまの横でビクビクと歩いていた。

国民達から見ると、兵士達が急に馬車を用意し門へ向かったと思えば戻ると美しい馬と目つきの悪い女を連れていた。というわけのわからない状況が出来ているのだ。
そんな国民の大衆からは「あの女は誰?」「美しい馬と目つきの悪い女···そうか!あの女は罪を犯したんだ!」「きっとあの馬車にはお偉い方が乗っているのよ!あの美しい馬はその方の馬だわ!」「その道中あの犯罪者を捕まえたわけか···」などという謎のひそひそ話の推理が行われている。
黒目黒髪も、この国どころか世界的に珍しいらしく、凄く不審な目で見られた。

いや勝手に人を犯罪者にするな。ステータスのおかげか耳が良くなってる気がする。そして余計なひそひそ話までバッチリ聞こえる。

そんな民衆の視線と声に耐えながら、なんとか王宮まで辿り着いた。
あくびをしながら馬車から出てきたフォレとロラン。私達は兵士に「こちらです」と案内される。
しかしフォレが「ちょっと」と兵士に声をかける。

「ここまで来てやってるのにまだ王様は出てこないの?早く話をつけたいんだけど」

「も、申し訳ございません。国王陛下も心の準備が整っておらず···」

「はあ?そっちから呼び出しておいて何よそれ」

フォレは不満そうに言っているだけだが兵士の顔は真っ青だ。最高位の精霊が怒っているのだから怖いのだろう。しかし私から見ればいつものフォレだ。周りの兵士達はあんなに私達にビクビクしているのに···慣れなのかな。

愚痴を言うフォレと謝る兵士。
少し大人気ないフォレに私がため息をついていると、別の兵士がコソッと教えてくれた。

「申し訳ございません精霊使い様。精霊使い様が姿を現してくださいましたのに、国が出向かないというのは不常識。しかし前の精霊使い様···あの男、カルクは散々王に罵声を飛ばし···しかし精霊使い様に逆らうことも出来ず、国王陛下のプライドはズタズタ。申し上げにくいのですがそれ故、精霊使い様であられるあなた様に会うことを躊躇っておられるのです」

教えてくれた兵士はまた小さく「申し訳ございません」と漏らした。

「きゃ、客室に御案内します···」

フォレがまた文句を言おうとしていたが、兵士がもう泣きそうだったので止めておいた。
私達は兵士に案内され、とある部屋に着いた。その部屋はなんとまあ広く豪華で、奥には大きくキラキラとした椅子···玉座のようなものがあった。

兵士に「お座り下さい」と言われ、少し躊躇いながらも椅子にゆっくり腰を下ろした。ふかふかだ。

「少々お待ち下さい」

兵士にそう言われ、緊張感で「ひゃい!」という裏返った声が出た。
兵士もなんと言えば良いのかわからないという困った表情を浮かべ、結局何も言わず部屋から出て行った。なんだか申し訳ない。
豪華な部屋に目を輝かせるロランと、面倒くさいといった表情のフォレ。

疲れてため息が出たが、コンコンというノックの音と、「失礼します」という低い男性の声で思わず背筋を伸ばした。
ドアが開き、ゆっくり入ってきたのは太い髭を生やしたおじさん。
···しかし、身なりはしっかりとした装飾品を付けており、周りの兵士からの扱いなどを見て私はすぐにおじさんが誰なのか理解した。

「···王様、ですか?」

私がゆっくり問いかけると、おじさんはビクッとして小さく頷いた。
いやビクビクしすぎだろ。この国で一番偉いんだから堂々としてほしい。いや、一番偉いのは私か?どちらにしろ、こんな扱いを滅多に受けない私は、もう早く帰りたいという思いでいっぱいだった。
頭を下げて何も言わない王様に、私から話しかけることにした。

「···えっと、私達はこの国に居座る気はないので、帰してくれませんか?」

「はい···」

「えっ」

あまりにもあっさりとした承諾に、戸惑いを受ける。王を説得して帰して貰う予定なのだから早いことが良いことに変わりはないのだが···そっちから呼び出してこんなあっさり切り捨てられたらなんだか不満だ。
そんな気持ちはフォレも同じだったらしく、さっそく説教を始めた。

「ちょっと王!呼び出しておいて何よその態度は!」

王様はビクッとして、私を見上げる。そして横に居る最高位の精霊という存在に、信じられないと目をぱちくりさせながらも、「申し訳ございません」という小さな謝罪の言葉を口にした。

「だ~か~ら~!その弱々しい態度が気に入らないのよ!私達を呼び出した理由を述べなさい!」

「は、はい!せ、精霊使い様とは国にとって富を運ぶ絶対的な存在!この国に元居た精霊使い様が居なくなられた今、この国は不安が高まっているのです!そんな時新しい精霊使い様が現れた今、見過ごすわけにはなりません!しかし精霊使い様とは、き、気難しい方!散々罵倒された私はそれこそ不安で···も、申し訳ございません!」

真っ青になりながら喋る王様。
それを見たフォレは満足したのか呆れたのか、「もういいわ」と吐き捨てた。

「で、帰っていいのよね?」

フォレの威圧に王様は、「は、はいぃ···」という情けない返事を返した。
しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

神様がチートをくれたんだが、いやこれは流石にチートすぎんだろ...

自称猫好き
ファンタジー
幼い頃に両親を無くし、ショックで引きこもっていた俺、井上亮太は高校生になり覚悟をきめやり直そう!!そう思った矢先足元に魔法陣が「えっ、、、なにこれ」 意識がなくなり目覚めたら神様が土下座していた「すまんのぉー、少々不具合が起きてのぉ、其方を召喚させてしもたわい」 「大丈夫ですから頭を上げて下さい」 「じゃがのぅ、其方大事な両親も本当は私のせいで死んでしもうてのぉー、本当にすまない事をした。ゆるしてはくれぬだろうがぁ」「そんなのすぎた事です。それに今更どうにもなりませんし、頭を上げて下さい」 「なんて良い子なんじゃ。其方の両親の件も合わせて何か欲しいものとかは、あるかい?」欲しいものとかねぇ~。「いえ大丈夫ですよ。これを期に今からやり直そうと思います。頑張ります!」そして召喚されたらチートのなかのチートな能力が「いや、これはおかしいだろぉよ...」 初めて書きます!作者です。自分は、語学が苦手でところどころ変になってたりするかもしれないですけどそのときは教えてくれたら嬉しいです!アドバイスもどんどん下さい。気分しだいの更新ですが優しく見守ってください。これから頑張ります!

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

処理中です...