精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜

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第四章冒険者事業

角電気ウサギ

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「···結構遠くないですか」

「え?そうですか?」

王都を出て四十分くらい経っただろうか。

私を待っていたたくさんの精霊とまたもや「待ってくれ」と頼み、今こうして草原を歩いている。
私はジェシーさんの「すぐ近くの森で~」という言葉を信じ、歩いて来たのだが、森なんて全然見えない。やっぱり冒険者はこれからもぐらいできて当然なのだろうか。

私はやっぱりステータス封印やらの影響か、全然疲れないが。

でも早く討伐して早く帰りたい。
別にジェシーさんとの会話が尽きたわけではない。逆だ。ジェシーさんが私に質問攻めをしてくるのだ。正直鬱陶しい···。でも「鬱陶しいので黙ってください」なんて言えるわけない。ジェシーさんは幼い子供のように目を輝かせて興奮しているのだから。
フォレに「助けて」という視線を送ったが、「知らん」といったように顔を背けられた。裏切り者め。

「アリサさんアリサさん!あの森ですよ!」

私達が少し急な丘を登った先には、少し遠くに確かに森のようなものが広がっていた。
森というか林くらいにも見えるが、まあどちらでも良いだろう。

というか早く帰りたい。
門で私を待っていた精霊達を思い出す。私が出てきた時のキラキラ顔と私が依頼で出かけた時の絶望顔。いや本当に申し訳ない。昨日から待たされているのだ。私だったらガチギレしてる。

森の中に足を踏み入れると、素早い何かが飛び出してきた。
一目見て兎···と思ったのたが、通常の兎の一回り二回りくらい身体が大きく、額に鋭い角が生えている。そして草食動物とは思えない尖った歯。長い耳を見て兎だと判断したけど流石に別の動物かな。というかこれ魔物でしょ。

「ジェシーさん、これは···」

「『角電気ウサギ』ですね。黄色い身体に額の大きな角が特徴です。気を付けてください。あの角にはかなりの電力があります。どういう原理かはよくわからないのですが···」

角電気ウサギはこちらを睨みつけ、低い唸り声を発した。威嚇しているのだろう。思わず緊張感で手をグッと握りしめた。
そんな私の目の前にジェシーさんは後ろ姿で立ち、私に顔を向けてフッと笑った。

「こんな弱い魔物で、アリサさんの手を煩わせるわけにはいきませんね」

そう言ったジェシーさんの顔は見えなかったが、とても勇ましく見えた。
ジェシーさんはいつの間にか腰から長く細い杖のようなものを取り出し、魔物に杖を向け、静かに明言した。


「イアサールストーム」


その瞬間角電気ウサギを中心に強風···竜巻と言ってもいい程の風が吹き荒れた。
流石に本当の竜巻のような威力ではなかったが、周りの木々が吹っ飛んでいきそうなぐらいの暴風だ。
何度も言うが、私は感覚がアレなのでそんなに強くは感じなかったが、髪とワンピースの靡きが尋常じゃないので、今まで経験したことがないほどのかなりの暴風だとわかった。

呆気に取られていると、ジェシーさんが「あ」ととぼけた声を漏らした。暴風が収まり、ジェシーさんはこちらを振り返る。

「···アリサさんが見てて緊張したせいか、威力間違えちゃいました」

えへへと恥ずかしそうに笑うジェシーさん。可愛いけど徒事じゃないよ。

「···角電気ウサギはどうなりました?」

ちょっと待て。グロテスクなことになってたら普通に嫌だ。竜巻に巻き込まれた動物が肉の塊になって落ちてきたとか聞いたことがある。あれは他の飛んでる物との衝突とかの傷みたいだけど···。
魔物でも一応兎の形してるよね。動物好きな私にしてみればトラウマになるよマジで。

怖くなってきた私に聞こえてきたのは、低い掠れた唸り声だった。
振り返ると、先程よりボロボロな角電気ウサギの姿があった。まだ威嚇している。ボロボロであり勇敢な姿に胸が苦しくなった。

「私の風魔法で落下したんですかね?角電気ウサギは防御がかなり強いですから···。よし、トドメをさしましょう!」

「いやいや!もうこんなボロボロなんだからいいじゃないですか!早く先に行きましょう!」

こんなに弱ってるのだからトドメをさす必要はない。そう思ったがジェシーさんは納得のいかない顔で私に尋ねた。

「もしかしてアリサさん、魔物を殺したこととかないですか?」

「え?そ、そりゃ···まあ···」

「うーん、冒険者は依頼の報酬はもちろんですが、魔物の素材なども大きな収入となるので、倒せるようになった方がいいですよ?」

真面目な顔で言われるが、たぶん動物の形をした魔物だったからだろう。異形とかなら···いやそれも普通に気持ち悪い。まあトカゲならいけるだろう。

「はい。まあできるだけ頑張ります」

そんな微妙な返事をしたが、ジェシーさんは笑って「アリサさんは優しいですね」と言った。優しくはないと思うが。

ジェシーさんは今にも倒れそうな角電気ウサギを一瞥し、私を見て「もう行きましょう」と森の奥を指差した。
私は返事をしてジェシーさんとさらに森の奥へ進んだ。
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