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第二章
第三十二話 草木の記憶4
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身の回りの準備をするため、結婚も婚約も二年間だけ待って欲しい。そんな少し無粋さを感じる言葉にも、マリーは優しく微笑んだ。僕は自分の本当の身分を明かそうか迷ったが、しっかりと責務を果たして周囲から認められた上で、二年後に自分の正体を明かしプロポーズをしようと決めた。それが僕のことを信じて待ってくれている彼女に対する敬意だと思ったのだ。けれどマリーを騙していることには変わりないせいか、彼女の笑顔を見るとちくちくとした罪悪感を感じた。
マリーに報いるためにも、女王の言う通り僕は身を粉にして働かなければならない。簡単な雑務から、諸外国との外交、城の文官の管理、女王の代行という仕事までこなした。そのせいでマリーと会う時間は減ったが、彼女はそんな僕をいつも暖かい笑顔で迎えてくれていた。私欲を肥やすことしか頭にない貴族たちの相手をしている日々の中、それがどれほどの助けになったのかは言うまでもない。
仕事をしているうちに城の中での僕に対する評価はぐんぐんと上がっていった。この国には宰相という役職がなかったが、周りからは僕がそのような立場だと認識されているようだった。
女王は常にそんな僕を褒めたり励ましたりしてくれた。ありがたさも感じたが、彼女を苦手とする僕としては複雑な気分だった。僕とほとんど変わらない量の仕事を嫌な顔一つせずこなしている彼女を見ると、彼女の好意を受け入れられない自分に嫌悪感を感じてしまうこともあった。それに今の女王を見る限り、第一王女の葬式での一件のことは僕の勘違いだったのだろう。長い間仕事を共にする中で、ミティア女王は良い人なのだと結論付けていた。
そして女王との約束の日の二週間前、僕はいつものようにエーデル家へ来ていた。
「それでね、ついにお父さんたちに好きな人がいるって言ったの。そしたら『シュテル君でしょ』って…すぐにばれちゃった!」
「はは…まあこれだけ頻繁に会いに来てたらね……」
マリーの両親の顔を思い出し、なんとなく恥ずかしい気持ちになる。僕は一人の侍女も含めて、マリーの家族とは既に顔を合わせていた。みんな穏やかで礼儀正しく、人間的に好感を持てる人たちだ。身分もはっきりしない僕を、いつも快く受け入れてくれていた。二週間後には彼らに本当の身分を明かさないといけないな、と頭の隅で考えた。
「私、覚悟を決めて結婚したいって言ったんだけど……みんな全然驚かなくて、なんだか拍子抜けしちゃった!それからいろいろ話をしたんだけどね……結婚は十八歳になってからがいいんじゃないかって言われたの。シュテルがこの家に来てくれるって言ったんだけど、こっちもなんか準備とかが必要みたいで。あとシュテルにエーデル家についても教えてあげられるって!私もまだまだ勉強したいことがあるから……少し長いかもしれないけど、どうかな?」
マリーはもじもじと落ち着きのない様子で、こちらをうかがうように尋ねた。僕はそんな彼女を安心させるように、優しい声をかける。
「焦る必要はないよ、ゆっくり準備していけばいい。いろいろ準備が必要なのは、僕も同じだから」
「まだお仕事が忙しいの?前からだったけど、最近は特に大変そう」
「うん。その話なんだけど、実はこれからもっと忙しくなりそうで……こっちにはまるきり三週間ぐらい来られなくなるんだ」
僕は普段エーデル家へ二週間に一度程度の頻度で訪ねてきていたが、以前はさらに忙しい時期もあり、一か月ほどマリーに会えないこともあった。遠く離れた町に暮らしているせいでなかなか会いにこれないと伝えていることもあって、マリーは僕に気を使ってくれているのか長く会えないことに不満を言うことはなかった。また、マリーが僕の家に行きたいと言い出したこともあったが、場所こそ言わなかったが王都からエーデル家までの距離を伝えると、早々に諦めた様子だった。
マリーは朗らかに笑う。
「頑張ってね、会えない間も応援してるから!」
「ありがとう。あと、その……三週間後に伝えたいことがあるんだ」
顔が赤くなるのを隠せない僕に、マリーは面白そうに笑いながら言う。
「えぇっ、気になるなぁ。今話せないことなの?」
「うん、三週間後に話したいんだ……駄目かな」
「あはは、わかったわ。私はずっと待ってるから、精いっぱい頑張ってきてね」
ふわりと笑うマリーは会った時よりずっと大人びていて、魅力的な女性になっていた。僕が仕事をしている間、そこらの男に口説かれているんじゃないかと心配になるほどだった。
もう少しだ。もう少し。やっと彼女に本当のことを打ち明けることができる。笑って受け入れてくれるかもしれない。怒って追い出されてしまうかもしれない。でも、僕はどんな結果でも受け入れられるだろう。この人は、僕がこの世界で唯一愛せた人なのだから。
―――
三週間分の忙しさの原因は、ほとんどが外国の使節団によるものだった。数年前の戦争の処理や条約の確認。そのために大量の書類を作ったり、他国の外交官と話をしたり、使節団が帰った後の処理をしたり……。息をつく間もなく襲い掛かる仕事の量に、勘弁してくれと全てを投げ出したくなるような思いだった。絶対にこの二年間の中でも一位を争う忙しさだ。しかしそんな愚痴もマリーのことを考えるとすぐに消え失せる。目の回るような日々は、あっという間に過ぎていった。
全てが終わると、僕の足は自然と女王の執務室へ向かって行った。
「失礼いたします、女王陛下」
「あらシュテル、いらっしゃい」
本人に言われたこともあって、女王には公の場以外で形式的な挨拶はしないことになっていた。僕自身もいちいち長い挨拶を繰り返すことが面倒くさかったので、都合のいい提案だった。
女王は相変わらず考えの読めない顔でにこりと笑う。
「お忙しい中申し訳ございません。非常に私情なのですが、申し上げたいことがあって参りました。二年前に約束していただいた婚約の件についてですが……」
「ふふ、わかっているわ。これまでよく頑張ったわねシュテル。あなたの婚約及び結婚については、全てあなたに任せます。有能な人材がいなくなってしまうのは惜しいけれど、あなたの決めたことなら皆納得してくれるはずよ」
「――ありがとうございます…!」
ああ、その言葉を聞くのをどれまで待ちわびたことか。僕は今までの努力の成果に、感激のあまり声が少し裏返ってしまった。けれど、しょうがないだろう。ようやく全ての苦労が報われたのだ。僕はすぐにマリーのことを想いだし、すぐに会いに行きたい衝動に駆られた。
「陛下、本当に感謝してもしきれません。今まで本当にありがとうございました。では、失礼いたしました」
そう言って女王に礼をして、部屋を出て行こうとした。しかし女王から「あ、待ってシュテル」と声をかけられる。振り返り彼女の言葉を待とうとしたが、女王は僕の顔を見るなり困ったような顔をして言った。
「やっぱりいいわ。ちょっと伝えたいことがあったのだけれど、あなたはやりたいことがあるようだし。また後で聞きに来て頂戴」
遠慮がちにそう言う女王に、聞き返さなければと思ったが、僕は「お気遣いありがとうございます」と言うと部屋を出てしまった。少し失礼な対応だが、僕の中では彼女の「伝えたいこと」よりもマリーに会い言葉を伝えることの方がずっと優先すべきことだった。
僕は城内の長く広い廊下を駆けて行き、いつものように馬車に乗ってエーデル家に向かった。馬車に乗っている間、これから起きるであろう出来事への期待と不安でどきどきと心臓が鳴りやまなかった。自分でもどうにかなってしまいそうなほど、めちゃくちゃになった感情を抑えるのに必死になっていると、いつもの数倍も早くエーデル家に着いてしまった。
マリーに会ってから三年も経つのに、こんな服装で来たのは初めてだ。平民ではなく王子としてのシュテルを見たら、マリーはどう思うだろう。でも、もうそんなことを考えている時間もない。
僕は高鳴る鼓動を抑えきれないまま、いつものように門を叩いた。するといくばくもなくいつもの侍女が家の中から現れる。だがその様子は、いつもの健康そうな顔とは全く違うものだった。肌は血色が悪く、目の下には数日間全く寝ていないような酷いクマができていた。
「……シュテル様」
侍女は僕の顔を見るなり、安心したような、しかし同時に酷く落胆したような表情を見せた。僕のいつもと全く違う服装にすら気付いていないのか、どこか遠くを見つめているような呆然とした目をしていた。尋常ではない彼女の様子に酷く胸騒ぎを覚えたが、それを落ち着かせるようにいつもの言葉を出す。
「……こんにちは、マリーはいますか?」
侍女はマリーという名前に少し反応をしたように見えたが、その後暗い顔のまましばらく黙っていた。そしてやっと青い唇をゆっくりと開く。
「マリーお嬢様は……いらっしゃいません。旦那様も、奥様も…」
どういうことだ。そう言葉にしたつもりだったが、声は出ていなかった。侍女の様子からその言葉の意味を探れば探るほどに、嫌な汗が額に流れていく。侍女の話を聞きたいのに、脳が聞くなと拒絶していた。今すぐ逃げたいのに、情けないことに僕の足は震えて全く動かなかった。そんな僕を嘲笑うかのように、侍女はぽつぽつと話を続けていく。
「三週間前、大勢の兵士がいきなりやってきて……お嬢様を連れて行ったんです。二週間前にお嬢様を探しに行った旦那様と奥様も、戻ってこない……」
「なん、で……?」
かすれた声でようやくそう問うと、侍女は表情を変えずに一粒の涙を流した。
「わかりません、何もわからない……!奴ら、急に現れて、抵抗せずについてこいと…お嬢様は素直に従って出て行ってしまいましたが、一週間も帰ってこないまま、私たちは心配で心配で……!私は留守を任されましたが…今度はお二人も帰ってこない……ただ一つわかることがあるとすれば、あの兵士の言っていた言葉……『女王陛下のご命令だ』と……」
馬車を走らせる。いつもよりずっと早く帰ってきた僕に、使用人は不思議そうな顔をしていた。そうだ、いつも僕を送ってくれているこの使用人は何も知らないはずだ。ここへ来ていることは口止めしてある。仮に聞かれたとしても、毎回違う言い訳を与え、それを言うようにと聞かせてある。でも一番の問題はそこじゃない。あの女王に僕の想い人のことがバレていたとして、何故彼女を攫う?それに、三週間前からなんて――。
城に着くと、すぐに女王を訪ねた。彼女は執務室ではなく、謁見の間の玉座に優雅に座っていた。
「あらシュテル!早かったわね、おかえりなさい」
そういつもの調子で明るく話しかけてくる彼女に、一瞬ひょっとして先ほどの侍女が冗談を言っていたのではないかと思う。周りの兵士もいつも通りの表情でいつものように女王を守るように立っている。この空間で一番おかしいのは自分ではないかと錯覚してしまうぐらい、平穏な日常がそこにはあった。
しかし、女王の感情の読めないにこにことした笑顔が、この瞬間今までで一番恐ろしいものに見えて仕方がない。
「……陛下、以前僕が話していた想い人の女性についてですが――」
「ああそうそう!さっきはそのことについて話したいと思っていたのよ。さあ、持ってきて頂戴」
持ってくる?何を、という質問はする必要もなかった。一人の兵士が僕の目の前にすぐにそれを置いたからだ。でも、持ってくるなんて表現は間違っている。だってそれは……彼女は――。
「あ、ああああああああぁぁ‼‼」
それは、僕がずっと会うのを心待ちにしていたマリーの……死体だった。
みっともなく、尻もちをついて後ずさる。それがマリーだと信じたくなかった。だって、これは違う。マリーは、花のように笑って、どうでもいいことで怒って、たまに我慢できずに泣いて……。こんなに青白く、動かないまま、静かでいるのがマリーであるわけがない。
そう否定したいのに、見れば見るほど自分の脳は彼女の存在をマリーとして受け入れていく。それも生きた人間ではなく、死体として。
瞬間、猛烈な吐き気がこみ上げてきて思わず口を押さえる。だが信じられないことに、女王はこんな異常な状況でもいつもの明るい声を崩すことはなかった。
「大丈夫?具合が悪いのなら帰ってもいいのよ?まああなたは説明を聞きたがると思っていたけれど…」
「…………何故、こんなことを?」
やっとの思いで口にした言葉に、女王は途轍もなく嬉しそうな笑みを浮かべる。
「うふふ、私シュテルに婚約のための試練を出したじゃない?『二年間王族としての責務を果たすこと』って。やっぱり、お相手の方にも何か出さないと公平じゃないと思うのよね。だから彼女にもそれなりの試練を与えたのよ!」
「……試練?」
「そう、たった一つの単純な試練よ。それはね……『三週間水も食料もなしで生きる』っていう試練!」
あはははは!と楽しそうに女王は笑う。いつものような軽快な笑い方だったが、それは今までの女王とは全く別の生き物に見えた。
普通、ただの人間が三週間飲み食いなしで生きるなんて不可能だ。人によるが、良くて一週間が限界だろう。つまり、この女の言う試練はただ「死ね」と言ってることと何ら変わりはないのだ。
そんな僕の心情を読んだかのように、女王は喋り出す。
「私も鬼ではないし『シュテルとの婚約を諦めるならすぐに降りていい』って言ったのよ。でも、彼女全然諦めないんだもの。結局一週間程度で死んだとはいえ、私、感動しちゃったわぁ。まあ、最期の方は喋ることもできなかったみたいだけど。そういえば、あなた自分が王子だって言ってなかったらしいじゃない。駄目よ、ちゃんと伝えないと」
おかしい。こんな状況絶対におかしい。いくら女王に権力があるとはいえ、こんな異様な状況を何故兵士たちは当たり前のように受け入れている……!?
「ああ、兵士なら動かないわよ。そう洗脳してあるもの」
「……せん、のう?」
「ええ、でも土魔法を持っていたせいか、その子には効かなかったわね。お父様やお母様にも効かなかったし……やっぱり六つの魔法にはこの力があまり効かないみたいね。お姉様の時みたいに、弱ってる時ならなら効くみたいだけど」
わけがわからない。しかし、今の言い方からすると国王と王妃、そして第一王女もこの女の手によって殺されたのか……!?。いや待て……六つの魔法には効かない?
その言葉の意味は、彼女が三人を殺したということ以上に信じたくないものだった。人を洗脳できる魔法、六つの魔法に対してはあまり効果を発揮できない魔法。最悪だ。女王は魔法を使えない王族なんかではなかった。史上最も邪悪な魔法。常人が理解できないような、酷く醜い心の持ち主にしか出現しない魔法。
――闇魔法だ。
しばらく衝撃で働かなかった頭が、現状を正しく理解すると同時に急激に冷えていく。そしてすぐに、目の前の女に対する激しい怒りがこみ上げてくるのを感じた。こんなめちゃくちゃな状況の中、まず現れたのはマリーの死への悲しみと、裏切られた怒りだった。
「……ッ、僕はあなたと約束したはずだ!二年間真面目に働いたら、彼女と結婚していいと!!」
「だから、あなたと同じように何か試練を与えようと思ったのよ。それにシュテル、あなたは平民と婚約したいと言っただけで、マリー・エーデルと婚約するとは一言も言ってなかったわよね?もう少し言い方を工夫すれば、彼女に対する試練の内容も変えたかもしれないけど」
「何が試練だ!人の命をそう簡単に奪っていいものか!!」
「あら、簡単にだなんて。そんなことないわよ、私ずっと楽しみにしてたんだから」
僕の怒鳴り声に全く臆することなく、女王は語る。
「私、あなたが婚約の話を持ち掛けてきた時に思ったの。あなたの期待を最高潮まで上げて、やっと幸せを掴めそうな時、それをぐちゃぐちゃに壊したらどれほど面白いかって……。予想通り、すっごく面白かったわ。私だって二年間我慢したのよ?あなたが何の疑いもなく幸せを掴みにいけるように、とてもいい女王を演じられたでしょ?まあ、それでもあなたは私をずっと警戒してたけどね。あらシュテル、そんなに顔を真っ赤にさせて……そんなに大切なものなら、大事にしまっておけば良かったのに……ふふふ、あっはははははははは!!」
頭が真っ白になる。
この女はずっと、二年間最初から婚約などさせる気はなかったんだ。それどころか、くだらない自分の歪んだ私欲のために、僕を、マリーを、利用しようと…殺そうとしていた。少しでもこんな女に気を許した自分が許せなかった。全てが間違っていたのだろうか。僕があの日マリーと出会わなければ、彼女はきっと今も笑って生きていただろう。わからない。僕らにとって、何が正しかったのか。でも、一つだけ言えることがあるとすれば――。
――目の前のコイツは、間違いなく「悪魔」だ。
「ああでも、あなたたちの恋を素敵だと思ったのは本当よ?私ね、そういうロマンス小説みたいなのが好きなの。平民と王族の結婚なんて、おとぎ話みたいで素敵だと思うわ。でもね、そういうのって大体ハッピーエンドで終わるのよ。みんないっつもそう。だけど、そんなのつまらないじゃない?私は面白いものが好きなの。だから……」
悪魔が笑う。
「すっごく楽しかったわ、あなたたちの悲運の恋愛劇!最高のバッドエンドよ!!」
マリーに報いるためにも、女王の言う通り僕は身を粉にして働かなければならない。簡単な雑務から、諸外国との外交、城の文官の管理、女王の代行という仕事までこなした。そのせいでマリーと会う時間は減ったが、彼女はそんな僕をいつも暖かい笑顔で迎えてくれていた。私欲を肥やすことしか頭にない貴族たちの相手をしている日々の中、それがどれほどの助けになったのかは言うまでもない。
仕事をしているうちに城の中での僕に対する評価はぐんぐんと上がっていった。この国には宰相という役職がなかったが、周りからは僕がそのような立場だと認識されているようだった。
女王は常にそんな僕を褒めたり励ましたりしてくれた。ありがたさも感じたが、彼女を苦手とする僕としては複雑な気分だった。僕とほとんど変わらない量の仕事を嫌な顔一つせずこなしている彼女を見ると、彼女の好意を受け入れられない自分に嫌悪感を感じてしまうこともあった。それに今の女王を見る限り、第一王女の葬式での一件のことは僕の勘違いだったのだろう。長い間仕事を共にする中で、ミティア女王は良い人なのだと結論付けていた。
そして女王との約束の日の二週間前、僕はいつものようにエーデル家へ来ていた。
「それでね、ついにお父さんたちに好きな人がいるって言ったの。そしたら『シュテル君でしょ』って…すぐにばれちゃった!」
「はは…まあこれだけ頻繁に会いに来てたらね……」
マリーの両親の顔を思い出し、なんとなく恥ずかしい気持ちになる。僕は一人の侍女も含めて、マリーの家族とは既に顔を合わせていた。みんな穏やかで礼儀正しく、人間的に好感を持てる人たちだ。身分もはっきりしない僕を、いつも快く受け入れてくれていた。二週間後には彼らに本当の身分を明かさないといけないな、と頭の隅で考えた。
「私、覚悟を決めて結婚したいって言ったんだけど……みんな全然驚かなくて、なんだか拍子抜けしちゃった!それからいろいろ話をしたんだけどね……結婚は十八歳になってからがいいんじゃないかって言われたの。シュテルがこの家に来てくれるって言ったんだけど、こっちもなんか準備とかが必要みたいで。あとシュテルにエーデル家についても教えてあげられるって!私もまだまだ勉強したいことがあるから……少し長いかもしれないけど、どうかな?」
マリーはもじもじと落ち着きのない様子で、こちらをうかがうように尋ねた。僕はそんな彼女を安心させるように、優しい声をかける。
「焦る必要はないよ、ゆっくり準備していけばいい。いろいろ準備が必要なのは、僕も同じだから」
「まだお仕事が忙しいの?前からだったけど、最近は特に大変そう」
「うん。その話なんだけど、実はこれからもっと忙しくなりそうで……こっちにはまるきり三週間ぐらい来られなくなるんだ」
僕は普段エーデル家へ二週間に一度程度の頻度で訪ねてきていたが、以前はさらに忙しい時期もあり、一か月ほどマリーに会えないこともあった。遠く離れた町に暮らしているせいでなかなか会いにこれないと伝えていることもあって、マリーは僕に気を使ってくれているのか長く会えないことに不満を言うことはなかった。また、マリーが僕の家に行きたいと言い出したこともあったが、場所こそ言わなかったが王都からエーデル家までの距離を伝えると、早々に諦めた様子だった。
マリーは朗らかに笑う。
「頑張ってね、会えない間も応援してるから!」
「ありがとう。あと、その……三週間後に伝えたいことがあるんだ」
顔が赤くなるのを隠せない僕に、マリーは面白そうに笑いながら言う。
「えぇっ、気になるなぁ。今話せないことなの?」
「うん、三週間後に話したいんだ……駄目かな」
「あはは、わかったわ。私はずっと待ってるから、精いっぱい頑張ってきてね」
ふわりと笑うマリーは会った時よりずっと大人びていて、魅力的な女性になっていた。僕が仕事をしている間、そこらの男に口説かれているんじゃないかと心配になるほどだった。
もう少しだ。もう少し。やっと彼女に本当のことを打ち明けることができる。笑って受け入れてくれるかもしれない。怒って追い出されてしまうかもしれない。でも、僕はどんな結果でも受け入れられるだろう。この人は、僕がこの世界で唯一愛せた人なのだから。
―――
三週間分の忙しさの原因は、ほとんどが外国の使節団によるものだった。数年前の戦争の処理や条約の確認。そのために大量の書類を作ったり、他国の外交官と話をしたり、使節団が帰った後の処理をしたり……。息をつく間もなく襲い掛かる仕事の量に、勘弁してくれと全てを投げ出したくなるような思いだった。絶対にこの二年間の中でも一位を争う忙しさだ。しかしそんな愚痴もマリーのことを考えるとすぐに消え失せる。目の回るような日々は、あっという間に過ぎていった。
全てが終わると、僕の足は自然と女王の執務室へ向かって行った。
「失礼いたします、女王陛下」
「あらシュテル、いらっしゃい」
本人に言われたこともあって、女王には公の場以外で形式的な挨拶はしないことになっていた。僕自身もいちいち長い挨拶を繰り返すことが面倒くさかったので、都合のいい提案だった。
女王は相変わらず考えの読めない顔でにこりと笑う。
「お忙しい中申し訳ございません。非常に私情なのですが、申し上げたいことがあって参りました。二年前に約束していただいた婚約の件についてですが……」
「ふふ、わかっているわ。これまでよく頑張ったわねシュテル。あなたの婚約及び結婚については、全てあなたに任せます。有能な人材がいなくなってしまうのは惜しいけれど、あなたの決めたことなら皆納得してくれるはずよ」
「――ありがとうございます…!」
ああ、その言葉を聞くのをどれまで待ちわびたことか。僕は今までの努力の成果に、感激のあまり声が少し裏返ってしまった。けれど、しょうがないだろう。ようやく全ての苦労が報われたのだ。僕はすぐにマリーのことを想いだし、すぐに会いに行きたい衝動に駆られた。
「陛下、本当に感謝してもしきれません。今まで本当にありがとうございました。では、失礼いたしました」
そう言って女王に礼をして、部屋を出て行こうとした。しかし女王から「あ、待ってシュテル」と声をかけられる。振り返り彼女の言葉を待とうとしたが、女王は僕の顔を見るなり困ったような顔をして言った。
「やっぱりいいわ。ちょっと伝えたいことがあったのだけれど、あなたはやりたいことがあるようだし。また後で聞きに来て頂戴」
遠慮がちにそう言う女王に、聞き返さなければと思ったが、僕は「お気遣いありがとうございます」と言うと部屋を出てしまった。少し失礼な対応だが、僕の中では彼女の「伝えたいこと」よりもマリーに会い言葉を伝えることの方がずっと優先すべきことだった。
僕は城内の長く広い廊下を駆けて行き、いつものように馬車に乗ってエーデル家に向かった。馬車に乗っている間、これから起きるであろう出来事への期待と不安でどきどきと心臓が鳴りやまなかった。自分でもどうにかなってしまいそうなほど、めちゃくちゃになった感情を抑えるのに必死になっていると、いつもの数倍も早くエーデル家に着いてしまった。
マリーに会ってから三年も経つのに、こんな服装で来たのは初めてだ。平民ではなく王子としてのシュテルを見たら、マリーはどう思うだろう。でも、もうそんなことを考えている時間もない。
僕は高鳴る鼓動を抑えきれないまま、いつものように門を叩いた。するといくばくもなくいつもの侍女が家の中から現れる。だがその様子は、いつもの健康そうな顔とは全く違うものだった。肌は血色が悪く、目の下には数日間全く寝ていないような酷いクマができていた。
「……シュテル様」
侍女は僕の顔を見るなり、安心したような、しかし同時に酷く落胆したような表情を見せた。僕のいつもと全く違う服装にすら気付いていないのか、どこか遠くを見つめているような呆然とした目をしていた。尋常ではない彼女の様子に酷く胸騒ぎを覚えたが、それを落ち着かせるようにいつもの言葉を出す。
「……こんにちは、マリーはいますか?」
侍女はマリーという名前に少し反応をしたように見えたが、その後暗い顔のまましばらく黙っていた。そしてやっと青い唇をゆっくりと開く。
「マリーお嬢様は……いらっしゃいません。旦那様も、奥様も…」
どういうことだ。そう言葉にしたつもりだったが、声は出ていなかった。侍女の様子からその言葉の意味を探れば探るほどに、嫌な汗が額に流れていく。侍女の話を聞きたいのに、脳が聞くなと拒絶していた。今すぐ逃げたいのに、情けないことに僕の足は震えて全く動かなかった。そんな僕を嘲笑うかのように、侍女はぽつぽつと話を続けていく。
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「なん、で……?」
かすれた声でようやくそう問うと、侍女は表情を変えずに一粒の涙を流した。
「わかりません、何もわからない……!奴ら、急に現れて、抵抗せずについてこいと…お嬢様は素直に従って出て行ってしまいましたが、一週間も帰ってこないまま、私たちは心配で心配で……!私は留守を任されましたが…今度はお二人も帰ってこない……ただ一つわかることがあるとすれば、あの兵士の言っていた言葉……『女王陛下のご命令だ』と……」
馬車を走らせる。いつもよりずっと早く帰ってきた僕に、使用人は不思議そうな顔をしていた。そうだ、いつも僕を送ってくれているこの使用人は何も知らないはずだ。ここへ来ていることは口止めしてある。仮に聞かれたとしても、毎回違う言い訳を与え、それを言うようにと聞かせてある。でも一番の問題はそこじゃない。あの女王に僕の想い人のことがバレていたとして、何故彼女を攫う?それに、三週間前からなんて――。
城に着くと、すぐに女王を訪ねた。彼女は執務室ではなく、謁見の間の玉座に優雅に座っていた。
「あらシュテル!早かったわね、おかえりなさい」
そういつもの調子で明るく話しかけてくる彼女に、一瞬ひょっとして先ほどの侍女が冗談を言っていたのではないかと思う。周りの兵士もいつも通りの表情でいつものように女王を守るように立っている。この空間で一番おかしいのは自分ではないかと錯覚してしまうぐらい、平穏な日常がそこにはあった。
しかし、女王の感情の読めないにこにことした笑顔が、この瞬間今までで一番恐ろしいものに見えて仕方がない。
「……陛下、以前僕が話していた想い人の女性についてですが――」
「ああそうそう!さっきはそのことについて話したいと思っていたのよ。さあ、持ってきて頂戴」
持ってくる?何を、という質問はする必要もなかった。一人の兵士が僕の目の前にすぐにそれを置いたからだ。でも、持ってくるなんて表現は間違っている。だってそれは……彼女は――。
「あ、ああああああああぁぁ‼‼」
それは、僕がずっと会うのを心待ちにしていたマリーの……死体だった。
みっともなく、尻もちをついて後ずさる。それがマリーだと信じたくなかった。だって、これは違う。マリーは、花のように笑って、どうでもいいことで怒って、たまに我慢できずに泣いて……。こんなに青白く、動かないまま、静かでいるのがマリーであるわけがない。
そう否定したいのに、見れば見るほど自分の脳は彼女の存在をマリーとして受け入れていく。それも生きた人間ではなく、死体として。
瞬間、猛烈な吐き気がこみ上げてきて思わず口を押さえる。だが信じられないことに、女王はこんな異常な状況でもいつもの明るい声を崩すことはなかった。
「大丈夫?具合が悪いのなら帰ってもいいのよ?まああなたは説明を聞きたがると思っていたけれど…」
「…………何故、こんなことを?」
やっとの思いで口にした言葉に、女王は途轍もなく嬉しそうな笑みを浮かべる。
「うふふ、私シュテルに婚約のための試練を出したじゃない?『二年間王族としての責務を果たすこと』って。やっぱり、お相手の方にも何か出さないと公平じゃないと思うのよね。だから彼女にもそれなりの試練を与えたのよ!」
「……試練?」
「そう、たった一つの単純な試練よ。それはね……『三週間水も食料もなしで生きる』っていう試練!」
あはははは!と楽しそうに女王は笑う。いつものような軽快な笑い方だったが、それは今までの女王とは全く別の生き物に見えた。
普通、ただの人間が三週間飲み食いなしで生きるなんて不可能だ。人によるが、良くて一週間が限界だろう。つまり、この女の言う試練はただ「死ね」と言ってることと何ら変わりはないのだ。
そんな僕の心情を読んだかのように、女王は喋り出す。
「私も鬼ではないし『シュテルとの婚約を諦めるならすぐに降りていい』って言ったのよ。でも、彼女全然諦めないんだもの。結局一週間程度で死んだとはいえ、私、感動しちゃったわぁ。まあ、最期の方は喋ることもできなかったみたいだけど。そういえば、あなた自分が王子だって言ってなかったらしいじゃない。駄目よ、ちゃんと伝えないと」
おかしい。こんな状況絶対におかしい。いくら女王に権力があるとはいえ、こんな異様な状況を何故兵士たちは当たり前のように受け入れている……!?
「ああ、兵士なら動かないわよ。そう洗脳してあるもの」
「……せん、のう?」
「ええ、でも土魔法を持っていたせいか、その子には効かなかったわね。お父様やお母様にも効かなかったし……やっぱり六つの魔法にはこの力があまり効かないみたいね。お姉様の時みたいに、弱ってる時ならなら効くみたいだけど」
わけがわからない。しかし、今の言い方からすると国王と王妃、そして第一王女もこの女の手によって殺されたのか……!?。いや待て……六つの魔法には効かない?
その言葉の意味は、彼女が三人を殺したということ以上に信じたくないものだった。人を洗脳できる魔法、六つの魔法に対してはあまり効果を発揮できない魔法。最悪だ。女王は魔法を使えない王族なんかではなかった。史上最も邪悪な魔法。常人が理解できないような、酷く醜い心の持ち主にしか出現しない魔法。
――闇魔法だ。
しばらく衝撃で働かなかった頭が、現状を正しく理解すると同時に急激に冷えていく。そしてすぐに、目の前の女に対する激しい怒りがこみ上げてくるのを感じた。こんなめちゃくちゃな状況の中、まず現れたのはマリーの死への悲しみと、裏切られた怒りだった。
「……ッ、僕はあなたと約束したはずだ!二年間真面目に働いたら、彼女と結婚していいと!!」
「だから、あなたと同じように何か試練を与えようと思ったのよ。それにシュテル、あなたは平民と婚約したいと言っただけで、マリー・エーデルと婚約するとは一言も言ってなかったわよね?もう少し言い方を工夫すれば、彼女に対する試練の内容も変えたかもしれないけど」
「何が試練だ!人の命をそう簡単に奪っていいものか!!」
「あら、簡単にだなんて。そんなことないわよ、私ずっと楽しみにしてたんだから」
僕の怒鳴り声に全く臆することなく、女王は語る。
「私、あなたが婚約の話を持ち掛けてきた時に思ったの。あなたの期待を最高潮まで上げて、やっと幸せを掴めそうな時、それをぐちゃぐちゃに壊したらどれほど面白いかって……。予想通り、すっごく面白かったわ。私だって二年間我慢したのよ?あなたが何の疑いもなく幸せを掴みにいけるように、とてもいい女王を演じられたでしょ?まあ、それでもあなたは私をずっと警戒してたけどね。あらシュテル、そんなに顔を真っ赤にさせて……そんなに大切なものなら、大事にしまっておけば良かったのに……ふふふ、あっはははははははは!!」
頭が真っ白になる。
この女はずっと、二年間最初から婚約などさせる気はなかったんだ。それどころか、くだらない自分の歪んだ私欲のために、僕を、マリーを、利用しようと…殺そうとしていた。少しでもこんな女に気を許した自分が許せなかった。全てが間違っていたのだろうか。僕があの日マリーと出会わなければ、彼女はきっと今も笑って生きていただろう。わからない。僕らにとって、何が正しかったのか。でも、一つだけ言えることがあるとすれば――。
――目の前のコイツは、間違いなく「悪魔」だ。
「ああでも、あなたたちの恋を素敵だと思ったのは本当よ?私ね、そういうロマンス小説みたいなのが好きなの。平民と王族の結婚なんて、おとぎ話みたいで素敵だと思うわ。でもね、そういうのって大体ハッピーエンドで終わるのよ。みんないっつもそう。だけど、そんなのつまらないじゃない?私は面白いものが好きなの。だから……」
悪魔が笑う。
「すっごく楽しかったわ、あなたたちの悲運の恋愛劇!最高のバッドエンドよ!!」
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