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第一章
第十六話 後悔
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「……はぁ」
「……」
「……はあぁ」
「……」
「………はああぁぁぁぁ」
「ミティア様、ため息をつくと幸せが逃げるそうですよ……」
「私に幸せに生きる資格なんてないわよ……」
「またそれですか……」
何度も繰り返された自虐に、アンナは呆れ半分心配半分といったように呟く。
あの後、涙が溢れて我慢が爆発した私は、悔しいやら恥ずかしいやら複雑な感情で限界に達し、お姉様の部屋から自分の部屋まで全力で走って逃げた。後ろからお姉様の呼び止める声が聞こえたが、振り返りもせず広い廊下を走り去った。
部屋に戻るとアンナが心配そうに私を出迎えてくれた。その後ベッドでうつ伏せになりながらアンナにほぼ八つ当たりの自虐を聞かせている。さぞ迷惑だろうが、なんだか私は全てを諦めたような気分になってしまっていて、他人の心配をするどころではなかった。
その間も私の口は止まらない。
「わかってるわよ、私が悪いって。そうよ全部私が悪いのよ。今頃城中の人間すべてが私の愚痴を言っているに違いないわ」
「城の人間でもこの事態を知っているのは僅かですよ……」
アンナが呆れたように喋り終わると同時に、部屋の出入り扉から軽快な音が響く。
コンコン
来客だ。いつもなら私は体勢を整えるとことだが、今はとっても気分が乗らないので、ベッドにうつ伏せのまま動かなかった。まあ寝ているんだとでも思ってくれるだろう。アンナはそんな私に何も言わず、扉を開けた。
「はーい、どちら様で……お、王妃殿下!?」
その言葉が聞こえてきた瞬間、私はベッドから飛び上がる。そして一瞬のうちに身なりを整え、さっきまでベッドに横になっていたなんて思わせない笑顔を作る。
「お、お母様。何の御用ですか……?」
「あなたが城から抜け出した挙句に犯罪に巻き込まれていたと聞いてここまで来ましたが……どうやら元気なようで安心しました」
「ご、ご心配をおかけして申し訳ありません」
お母様、安心という割に顔が全く安心しておりません。
私は汗が体中にだらだらと流れているのを感じた。
アルカシアの王妃「セレーネ・ノヴァ・ロワイヤル」。光るように眩いブロンドヘアーに、青く輝く瞳を持つお母様は、絶世の美女と名高い。そして常に非常に冷静で、何を考えているのかよくわからないという、お姉様と真逆の性格をしている。
もうよく覚えていないが、小さい頃は一緒に過ごしたこともあった。会う機会こそ少なかったが、お母様は王女としての責任から、庭の植物の名前まで教えてくれた。常に王妃としての威厳や厳格さがあったが、私たちを愛してくれているのだと思っていた。
しかしいつからかそんな機会も一気に減って、寂しい思いをしたことを覚えている。その分お姉様と一緒にいる機会が増えたのだが、だんだんとお姉様への憎しみが強くなってお姉様を暗殺した後には――。
……まあそんな感じで、今は母といえど会えばいつも緊張を感じてしまう人だった。
「……ミティア。正直に言うと、王妃としてあなたに言及したいことは山ほどあります。ですが、もうエステルに散々言われたことでしょう。先ほど私の侍女が、あなたが泣きながら走っているところを目撃したと報告してきました」
顔から火が出る思いだった。
そりゃあ見られてるか…お姉様の部屋から私の部屋までそこそこ距離はあるし、泣きながら走る王女は相当目立つだろう。感情をこらえるのに精いっぱいで、周りをちゃんと見ていなかったけど、おそらく何人かの使用人には見られているのだろう。ああ、穴があったら入りたい。
「このことを目撃した他の使用人たちには一応口止めをしておきます……ミティア、聞いていますか」
「は、はい」
「私から説教などはしません。そんな時間もありませんし。ただ……母として一言言わせてもらいます」
じっと私を見つめるお母様。次の言葉が怖くて、私は怯えながらもお母様を見つめ返す。
「……あなたが無事でよかったです。次からは気をつけなさい」
その言葉は想像していたよりもずっと優しい言葉だった。私は驚きと同時に泣きたくなったのをぐっと堪えて「はい」と返事をした。
「……」
「……はあぁ」
「……」
「………はああぁぁぁぁ」
「ミティア様、ため息をつくと幸せが逃げるそうですよ……」
「私に幸せに生きる資格なんてないわよ……」
「またそれですか……」
何度も繰り返された自虐に、アンナは呆れ半分心配半分といったように呟く。
あの後、涙が溢れて我慢が爆発した私は、悔しいやら恥ずかしいやら複雑な感情で限界に達し、お姉様の部屋から自分の部屋まで全力で走って逃げた。後ろからお姉様の呼び止める声が聞こえたが、振り返りもせず広い廊下を走り去った。
部屋に戻るとアンナが心配そうに私を出迎えてくれた。その後ベッドでうつ伏せになりながらアンナにほぼ八つ当たりの自虐を聞かせている。さぞ迷惑だろうが、なんだか私は全てを諦めたような気分になってしまっていて、他人の心配をするどころではなかった。
その間も私の口は止まらない。
「わかってるわよ、私が悪いって。そうよ全部私が悪いのよ。今頃城中の人間すべてが私の愚痴を言っているに違いないわ」
「城の人間でもこの事態を知っているのは僅かですよ……」
アンナが呆れたように喋り終わると同時に、部屋の出入り扉から軽快な音が響く。
コンコン
来客だ。いつもなら私は体勢を整えるとことだが、今はとっても気分が乗らないので、ベッドにうつ伏せのまま動かなかった。まあ寝ているんだとでも思ってくれるだろう。アンナはそんな私に何も言わず、扉を開けた。
「はーい、どちら様で……お、王妃殿下!?」
その言葉が聞こえてきた瞬間、私はベッドから飛び上がる。そして一瞬のうちに身なりを整え、さっきまでベッドに横になっていたなんて思わせない笑顔を作る。
「お、お母様。何の御用ですか……?」
「あなたが城から抜け出した挙句に犯罪に巻き込まれていたと聞いてここまで来ましたが……どうやら元気なようで安心しました」
「ご、ご心配をおかけして申し訳ありません」
お母様、安心という割に顔が全く安心しておりません。
私は汗が体中にだらだらと流れているのを感じた。
アルカシアの王妃「セレーネ・ノヴァ・ロワイヤル」。光るように眩いブロンドヘアーに、青く輝く瞳を持つお母様は、絶世の美女と名高い。そして常に非常に冷静で、何を考えているのかよくわからないという、お姉様と真逆の性格をしている。
もうよく覚えていないが、小さい頃は一緒に過ごしたこともあった。会う機会こそ少なかったが、お母様は王女としての責任から、庭の植物の名前まで教えてくれた。常に王妃としての威厳や厳格さがあったが、私たちを愛してくれているのだと思っていた。
しかしいつからかそんな機会も一気に減って、寂しい思いをしたことを覚えている。その分お姉様と一緒にいる機会が増えたのだが、だんだんとお姉様への憎しみが強くなってお姉様を暗殺した後には――。
……まあそんな感じで、今は母といえど会えばいつも緊張を感じてしまう人だった。
「……ミティア。正直に言うと、王妃としてあなたに言及したいことは山ほどあります。ですが、もうエステルに散々言われたことでしょう。先ほど私の侍女が、あなたが泣きながら走っているところを目撃したと報告してきました」
顔から火が出る思いだった。
そりゃあ見られてるか…お姉様の部屋から私の部屋までそこそこ距離はあるし、泣きながら走る王女は相当目立つだろう。感情をこらえるのに精いっぱいで、周りをちゃんと見ていなかったけど、おそらく何人かの使用人には見られているのだろう。ああ、穴があったら入りたい。
「このことを目撃した他の使用人たちには一応口止めをしておきます……ミティア、聞いていますか」
「は、はい」
「私から説教などはしません。そんな時間もありませんし。ただ……母として一言言わせてもらいます」
じっと私を見つめるお母様。次の言葉が怖くて、私は怯えながらもお母様を見つめ返す。
「……あなたが無事でよかったです。次からは気をつけなさい」
その言葉は想像していたよりもずっと優しい言葉だった。私は驚きと同時に泣きたくなったのをぐっと堪えて「はい」と返事をした。
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