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第一章
第七話 …空き地にて
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あの後、不安が解消されたせいか、おばちゃんの前で少しだけ泣いてしまった。体の年齢のせいか涙腺が弱くなっていたのだろう。そうしてでも理由をつけないと恥ずかしすぎて死にそうだ。そんな私におばちゃんは笑っておまけにクッキーをつけてくれた。おばちゃんにお礼を言い、温かなパン屋を後にしたのだった。
……まあ、王都に来て早々にそんな恥ずかしい体験をしてしまったが、気を取り直そう。
次はどこに行こう。そう思いながらだんだんと賑わってきた大通りを歩く。するとどこかから、明るい街路に似合わない怒声が聞こえてきた。怒声といっても、聞き取れないほどに小さいものだった。その声の方に近づいていくと、どうやらそれは建物の間の小さな路地から響いているということがわかった。
どう考えても危険だ。今の私の立場を考えると、無視をするのが一番の選択肢だろう。
しかし、なんだか胸騒ぎがする。誰か大人を呼びに行った方がいいのかもしれない。しかし、そう考えている間にも、誰かの怒っているような声が聞こえてくる。
……何が起きているか確認するだけなら、危険はないはずだ。
私は迷いを捨てて、路地へ進んだ。
―――――
路地を抜けると小さな空地のような場所にたどり着いた。そこでは一人の男の子が、三人がかりで一方的に殴られ、蹴られていた。
「てめぇもう一回言ってみろよ‼」
「…てめぇらみたいなクズどもが、騎士になれるわけねぇだろッ!――ゴフッ」
……私と同じ年ぐらいの、子供の喧嘩だ。しかしあまりにも酷い。一人の男の子の体は地面に転がり、ボールのように蹴られている。しかしそんな状況なのに男の子は泣くこともせず、三人を睨みつけている。
「…複数人で俺を殴ることしかできねェ奴らに、騎士になれる資格があんのか?」
「…なんだと?」
「もう一回言ってやるよ」
彼らの方が有利なはずなのに、少年は怯むことなく睨む。その様子に、三人の方が一瞬怯む。
「人を傷付けることしかできねェてめーらには、人を守ることなんてできねェんだよ」
「――ッ⁉このっ…!」
「兵士さん、こっちです!喧嘩が起きています‼」
私はとっさに大声を出してしまった。もちろん兵士なんて来ていない。しかし三人は男の子を蹴るのをやめ、驚いたようにこちらを振り返った。私は物陰に隠れているから姿は見えていないだろう。
「お前ら、逃げるぞ!」
ドタバタと走り去る足音が聞こえる。三人は尻尾を巻いて逃げていったようだった。残されたのは私とあの男の子だけ。男の子はきっとたくさん怪我をしているのだろう。しかし、今の私はそこまで他人を気にしている余裕はない。短い時間の中で、どれだけ王都を楽しめるかという試練があるのだ。
そう思い、私は足早にここを去ろうとした。
「おい、出て来いよ」
……しかしそれは叶わなかった。先ほどの男の子から声をかけられてしまうし、なんだかさっきから突き刺すような視線を感じるのだ。
迷ったが、やっぱり男の子が心配な気持ちもあり、彼の前に出ることにした。私は姿を現し、彼の前に立った。男の子はずっと機嫌の悪そうな顔でこちらを睨みつけている。居心地の悪さを感じながら、とりあえず私は声をかける。
「えっと…大丈夫?」
「………って」
「え?」
「余計なこと、しやがって……」
少年の恨めしそうな声。怒りで震えている拳。そして、私を射抜くような目。
「余計なことしてんじゃねーよ!チビ‼」
「………は?」
予想外の反応に、私は呆けた顔をした。
……まあ、王都に来て早々にそんな恥ずかしい体験をしてしまったが、気を取り直そう。
次はどこに行こう。そう思いながらだんだんと賑わってきた大通りを歩く。するとどこかから、明るい街路に似合わない怒声が聞こえてきた。怒声といっても、聞き取れないほどに小さいものだった。その声の方に近づいていくと、どうやらそれは建物の間の小さな路地から響いているということがわかった。
どう考えても危険だ。今の私の立場を考えると、無視をするのが一番の選択肢だろう。
しかし、なんだか胸騒ぎがする。誰か大人を呼びに行った方がいいのかもしれない。しかし、そう考えている間にも、誰かの怒っているような声が聞こえてくる。
……何が起きているか確認するだけなら、危険はないはずだ。
私は迷いを捨てて、路地へ進んだ。
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路地を抜けると小さな空地のような場所にたどり着いた。そこでは一人の男の子が、三人がかりで一方的に殴られ、蹴られていた。
「てめぇもう一回言ってみろよ‼」
「…てめぇらみたいなクズどもが、騎士になれるわけねぇだろッ!――ゴフッ」
……私と同じ年ぐらいの、子供の喧嘩だ。しかしあまりにも酷い。一人の男の子の体は地面に転がり、ボールのように蹴られている。しかしそんな状況なのに男の子は泣くこともせず、三人を睨みつけている。
「…複数人で俺を殴ることしかできねェ奴らに、騎士になれる資格があんのか?」
「…なんだと?」
「もう一回言ってやるよ」
彼らの方が有利なはずなのに、少年は怯むことなく睨む。その様子に、三人の方が一瞬怯む。
「人を傷付けることしかできねェてめーらには、人を守ることなんてできねェんだよ」
「――ッ⁉このっ…!」
「兵士さん、こっちです!喧嘩が起きています‼」
私はとっさに大声を出してしまった。もちろん兵士なんて来ていない。しかし三人は男の子を蹴るのをやめ、驚いたようにこちらを振り返った。私は物陰に隠れているから姿は見えていないだろう。
「お前ら、逃げるぞ!」
ドタバタと走り去る足音が聞こえる。三人は尻尾を巻いて逃げていったようだった。残されたのは私とあの男の子だけ。男の子はきっとたくさん怪我をしているのだろう。しかし、今の私はそこまで他人を気にしている余裕はない。短い時間の中で、どれだけ王都を楽しめるかという試練があるのだ。
そう思い、私は足早にここを去ろうとした。
「おい、出て来いよ」
……しかしそれは叶わなかった。先ほどの男の子から声をかけられてしまうし、なんだかさっきから突き刺すような視線を感じるのだ。
迷ったが、やっぱり男の子が心配な気持ちもあり、彼の前に出ることにした。私は姿を現し、彼の前に立った。男の子はずっと機嫌の悪そうな顔でこちらを睨みつけている。居心地の悪さを感じながら、とりあえず私は声をかける。
「えっと…大丈夫?」
「………って」
「え?」
「余計なこと、しやがって……」
少年の恨めしそうな声。怒りで震えている拳。そして、私を射抜くような目。
「余計なことしてんじゃねーよ!チビ‼」
「………は?」
予想外の反応に、私は呆けた顔をした。
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