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-はじまりの陰謀-編

なんか門番に捕まりそう

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「えらくちゃんとしてるなあ」

 えらくちゃんと舗装ほそうされた道に出てきた。砂道ではあるが、両サイドは細めの丸太とロープでガードレールのようなものが作られていて、先が見えないくらいまで続いている。公園でよく見る、池を囲む木の手すりのようなイメージだ。

 ご丁寧に案内看板まで地面に突き刺さっていた。

『この先、タラゴナの街』

 どうやら一キロくらい歩けば、街があるらしい。

 確かに川を くだれば人がいるところにたどり着くんじゃねーの、とは言った。

 しかし、これはさすがにうまくいきすぎている。

 運よく歩道に出られたこと、街の情報が手に入ったこともそうなのだが、ここまで魔物に遭遇していないのである。

 周囲を見る限り、魔物の気配は感じないし道が荒らされたような形跡もない。

 これはさすがに悪いことが起きーー

 
 ーーなかった。

「もしかしてクマが人里に降りてこないのと同じ理論か?」

 そんな簡単な理論で納得していいのか、というかそれは理論と呼べるのか。

 エイトは気弱で慎重なのに、ところどころ気楽というかアホなのだ。

「まぁ、相棒(二代目)も装備しているし大丈夫だろう!」

 鼻歌まじりで俺はタラゴナの街へ歩みを進めた。

 
「なんじゃこりゃあ!?」

 今や知る人も少ない昔の刑事ドラマの名セリフを素で吐いてしまった。

 街が見えるところまで来たのだが、街全体が壁のようなもので覆われている。

 ここからだと正確にはわからないが、人がジャンプして超えられるような高さではない。おそらく三~四メートルほどはある。

 色はクリーム色に近い。土? いやセメントで作られているのだろうか?

「あそこが入り口っぽいな」

 どこから入ればいいのか分からず、千葉にある某ネズミ遊園地を足パンパンで一周した記憶が よみがえったが、正面に大きな門のようなものが見えたので安心する。ていうかあれなんで千葉にあるのに東京って名前が(黙りなさい)

 アリくらいのサイズだが、人が立っているのもわかった。まさに第一村人発見だ、うれしい。

 門の数歩手前、立っているのが無精髭ぶしょうひげの生えたおじさんだと認識できたくらいでハッとする。

「最悪だ......」

 街にたどり着いた喜びで浮かれていたが、冷静に考えるとあのおじさんは門番かなにかだろう。剣もたずさえてるし。

 であれば、通行料がどうとかギルドカードを見せろとか言われるに違いない(漫画の見すぎ)。しかもこんなボロボロの格好だと私は怪しい人です、と言っているようなものだ。

 (最悪、牢屋にぶち込まれるのでは......)

 身体中の水分が流れ出ているのではないかと思うような汗をかきながら、ゆっくり進む。

「ま、まぁ、何か言われたら引き返せばいいだけの話だし? お腹いたくなってきた」

 決して視線を合わさないようにしているのに、じーっと見られているような感覚がある。

 門番の仕事としては当たり前のことなのだが、気弱な俺は人の視線にはひときわ敏感なのだ。めちゃくちゃ見てるこの人。

 (絶対、声かけられるパターンじゃん......)

 と思っていたのだが、いつの間にか門の中にいた。

「あれ?」

 もはやナンパ待ちのように声をかけられることを期待していたと言っても過言ではないのに、総スカンを食らった気分だ。

 こうなると逆に理由を知りたくなってくるのが俺の悪い癖。

「あの~、すいません」

 全力でゴマスリ顔をする。ちゃんと見るとわりとゴツくて怖い。ちびりそう。

「ん? なんか用か?」

 ドライヤーで乾かせば立つくらいに整えられた短い髪に、少し浮き出たほうれい線。年齢的には三十代後半くらいに見える男が 仏頂面ぶっちょうづらで答える。けれど、不思議と嫌な感じはしない。

「ここってですね、通行料を払ったり身分証を見せたりしなくていいんですかね?」

「お前は財布を落としたりしないのか」

「しますね~」

「その中にお金も身分証も入ってたら街に入れないだろうが」

「そうですね~」

 そうですね~。確かにその通りですね~。
 
 まぁそこはいい。決して、考えればわかるまともなことを言われて傷ついているわけではない。

「では明らかに怪しい見た目をしていると思うんですが、犯罪者と疑われたりしないんでしょうか~?」

 なんで自分でこんなことを言わなきゃいけないんだ。

「あぁ、鑑定スキルで見てるからな」
 
 鑑定スキル。やはりスキルというものが存在しているのか。

「鑑定スキルですか?」

 情報を引き出すためにわざとらしく質問する。

「は? 知らないのか? こんな有名なスキルを? なんか怪しいなお前」

 やばい、怪しまれてる~。ここは必殺のあれだ。

「田舎の村から来たもので。鑑定スキルは知ってるんですが、どこまでわかるのかな~と」

 なんだ田舎の村って。村があるのは全部、田舎に決まってるだろ。テンパって変な文法になってしまった。これでは頭痛が痛いと言っているやつをバカにできない。

「なんだ田舎の村から来たのか。どうりでそんな格好をしてるわけだ、おおかた森にでも迷ったんだろう!」

 ガハハハと笑うおじさん。

 ていうか通用したわ。やっぱ優秀なんだな、田舎の村から来たって言葉。今度から困ったらこれ使おう。

「鑑定スキルはな、相手の名前、年齢、職業、加えて犯罪歴が分かったりするんだ。もっと上のを持っていれば取得しているスキルなんかも分かったりする。お前は怪しい職業でもないし、犯罪歴もないから通したってわけだ」

「なるほど~、でもそれじゃあプライバシーもあったもんじゃないですね~」

 たとえば街中で気になる子を見つけたら、鑑定を使って個人情報を盗み見ることができる。なんてハレンチな(お前だよ)

「そりゃあ、街中で鑑定スキルを使うのは普通に犯罪だぞ? 俺みたいに仕事でしか使っちゃならんからな。鑑定スキル自体がレアものだからそんなに数はいねえが」

 ほう、そんな決まりもあるのか。

「へぇ~、勉強になりました! ありがとうございます!」

 これ以上はボロが出そうなので、そうそうに立ち去ることにする。

「ちょっと待て」

 あれ、このパターンは漫画で何度も見たぞ? お腹いたくなってきた。

「な、なんでしょうかっ?」

 声が 上擦うわずってしまった。

「その様子だとおめえ、自分のスキルについても分かってねえだろ?」

「はい?」

 これまた拍子抜けだ。

「人には固有のスキル、つまり生まれ持ったスキルってのが存在する。知る方法は三つ! 上位の鑑定持ちに見てもらうか、ギルドで鑑定してもらう、そしてなんとなく自分で感じるかだ」

 最後のやつはあれか? 精神論的な。ブラック企業?

「ではギルドで鑑定してもらえば早い、ということですね?」

「おう、ものわかりがいいじゃねえか。だからギルドに行くといいぜ。大通りをまっすぐ進んで大きめな建物があったらそれだ!」
 
 案内がだいぶ雑な気もしなくもないが、ありがたい。元々ギルドには行くつもりだったが、存在するかは謎だったからな。
 
「親切に教えていただいてありがとうございました! それでは」

 ゴマスリ笑顔。目上の人にこれをやっとけば間違いない。俺の処世術しょせいじゅつだ。

「おう、またどっかでな!」

 片腕をバッ、と上げて笑う。

 俺は軽いお辞儀をしてギルドへと向かった。


 どんなチートスキルを持っているのかとワクワクしながら行ったのだが、数十分後に絶望が待ち受けていることをエイトはまだ知らなかった。
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