36 / 79
眠りの前のおとぎ話(7)後
しおりを挟む
時間が止まって感じる。
わたしを見つめるガイの瞳。その中に映る自分。
このまま、こうしていたくなる。
恋が届いた瞬間のままで。
やや焦れたように彼が、わたしの耳を指でやんわりといじる。
「僕に望みはないの?」
「え」
「まだあなたの世界に帰りたい?」
「…ガイが、結婚するって聞いて、わたし…驚いて...。だから…」
「それで、すねていたの?」
「だって、嫌だったのだもの…」
「僕が、あなたをうっとりと眺めているのを気づかなかった?」
「え」
そこでガイは、ふわりとわたしを抱きしめた。
「お嬢さんは、たかだかドレス一枚新調するのも、大ごとにとらえるでしょう?」
だから、彼はわたしの返事を待たずに、希望をヤンに伝えておいたのだと言った。
「結婚となれば、準備や何やらで大騒ぎになる。そういった面倒は避けて、ごく簡単にしたいと指示してあります。初めからそう決定してあったら、そのように事が運ぶ」
そうだったのか。
いつかのわたしの言動が、ガイにそんな配慮をさせて、今に至る。
ただ周知にムラがあって、わたしが先ほどあったメイデルは、結婚の予定は知っていても、その相手は知らなかった。
思いがけないところから探しものが現れたかのような。不思議な気持ちがした。
「ねえお嬢さん、あなたの気持ちは伝わったのだけれど、僕はやはり言葉で返事がほしい」
ガイ以外の人など考えられないし、彼のプロポーズを断るどんな理由も浮かばない。
それは呼吸に似た欲求だ。
それほどに切実で、幸福に直結するもの。
「ええ。ガイのそばに置いて」
「その声が聞けて、安心しました」
ガイの小さな笑みが伝わる。
彼は、ルードに憧れたわたしが、早晩この邸を出たいと言い出すのでは、と不安だったのだという。
「自由も権利もあなたに提示して見せたが、その内実は、いずれも僕の許す範囲であってほしい。これが本音で、あなたの自己実現を僕は自分のエゴで阻もうとしている」
「わたしは何も望んでいないの。ガイのそばにいられれば、それでいいの」
ふと、彼の指がわたしのあごに置かれた。少しそれで上を向く。
「あなたはなんて愛らしいのだろう」
初めて優しく唇が触れた。
すぐに離れたそれを、わたしはほんのり切なく感じてしまうのだ。
「僕はあなたに、誠実と変わらない愛情を奉げる」
ガイの声に、心がじゅんと潤ってときめく。
わたしを見つめるガイの瞳。その中に映る自分。
このまま、こうしていたくなる。
恋が届いた瞬間のままで。
やや焦れたように彼が、わたしの耳を指でやんわりといじる。
「僕に望みはないの?」
「え」
「まだあなたの世界に帰りたい?」
「…ガイが、結婚するって聞いて、わたし…驚いて...。だから…」
「それで、すねていたの?」
「だって、嫌だったのだもの…」
「僕が、あなたをうっとりと眺めているのを気づかなかった?」
「え」
そこでガイは、ふわりとわたしを抱きしめた。
「お嬢さんは、たかだかドレス一枚新調するのも、大ごとにとらえるでしょう?」
だから、彼はわたしの返事を待たずに、希望をヤンに伝えておいたのだと言った。
「結婚となれば、準備や何やらで大騒ぎになる。そういった面倒は避けて、ごく簡単にしたいと指示してあります。初めからそう決定してあったら、そのように事が運ぶ」
そうだったのか。
いつかのわたしの言動が、ガイにそんな配慮をさせて、今に至る。
ただ周知にムラがあって、わたしが先ほどあったメイデルは、結婚の予定は知っていても、その相手は知らなかった。
思いがけないところから探しものが現れたかのような。不思議な気持ちがした。
「ねえお嬢さん、あなたの気持ちは伝わったのだけれど、僕はやはり言葉で返事がほしい」
ガイ以外の人など考えられないし、彼のプロポーズを断るどんな理由も浮かばない。
それは呼吸に似た欲求だ。
それほどに切実で、幸福に直結するもの。
「ええ。ガイのそばに置いて」
「その声が聞けて、安心しました」
ガイの小さな笑みが伝わる。
彼は、ルードに憧れたわたしが、早晩この邸を出たいと言い出すのでは、と不安だったのだという。
「自由も権利もあなたに提示して見せたが、その内実は、いずれも僕の許す範囲であってほしい。これが本音で、あなたの自己実現を僕は自分のエゴで阻もうとしている」
「わたしは何も望んでいないの。ガイのそばにいられれば、それでいいの」
ふと、彼の指がわたしのあごに置かれた。少しそれで上を向く。
「あなたはなんて愛らしいのだろう」
初めて優しく唇が触れた。
すぐに離れたそれを、わたしはほんのり切なく感じてしまうのだ。
「僕はあなたに、誠実と変わらない愛情を奉げる」
ガイの声に、心がじゅんと潤ってときめく。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる