魔性男子はモテたくない

月華

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2.消えた平穏

やっぱり来た

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 本当、いい奴である。色々と隠している俺に何も言わず、困ったら手を差し伸べてくれる。マジで良い奴。この学園を卒業してもできればダチでいたい。だからこそのジレンマがあるのが辛い。自意識過剰なのかもしれないんだけどさ。
 寮から出て小並木を歩いていると、流石にひと気も増えて周囲の声が嫌でも耳に入ってくる。


「え……あれって兼崎様だよね?」
「嘘、隣にいるの誰ぇ!?」
「やだっ、なんであんな地味なのと一緒にいるワケ? 兼崎様が汚れる…!」


 文字起こしだけしたらまるで女子の会話である。だがそれも、ここでは当たり前の会話だ。


「チッ、うぜぇ」
「ははっ、分かってた事よ」
「……親衛隊のやつには一応、後で話しとく」
「おう、サンキュ」


 ちょっと機嫌が良かったはずの秀の眉間には、既に深い皺が刻まれていた。正直、俺もうんざり。なんで一緒に歩いているだけでギャーギャー言われなくてはならないのか。俺がチワワのように小さめならまだ目立ちにくいのかもしれないけれど、175cmもあるとそう簡単に気配は消せない。


「……気になるか?」


 はぁ、と漏らした溜息が聞こえたのか、秀の心配そうな声。


「いや、面倒臭い奴らだなとは思うけど、別にダメージはない」
「本当か?」
「マジマジ。俺、そういうのあんま気にしないから」


 普通に女子人気もあった俺は、一部のノーマル男子からイジメという名の嫌がらせを受けた事がある。何度もある。陰口だって叩かれていたし、殴られた事だってある。
 だが、その度に俺に好感を寄せていた女子や一部男子にめちゃくちゃ守られていたし、逆にイジメっこ達が女子達から思い切り責められていたりしたので、そこまで悪質なイジメに晒されることはなかった。もちろん俺も「うるせぇ!」「知らねぇ!」と言い返したりしていたし、ある意味どんちゃん騒ぎな日常だったとも言える。
 そんな日々を過ごしていたため、陰口にはもう慣れている。苛立ちはするけれど、その言葉に一々傷付くほど殊勝な性格でもない。母に「あんたがそういう性格で良かった」とほろり涙を流されたこともあったっけ。
 だって、言いたい奴には言わせておけばいい。大事なものは他にある。その大事なものが脅かされない限り、どうだっていいのだ。


 と、そんなことを考えていたら、首にエルボーか!? と思うような衝撃。


「ぐぇッ!?」
「なっ!?」


 同時に、左にいた秀が体当たりでもされたのか、軽くたたらを踏んでいた。甘ったるい香水の匂いが一瞬で広がる。


「おーはーよ♡」


 悪魔が来た。
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