魔性男子はモテたくない

1.開幕

野次馬心は身を滅ぼす

　この学園には親衛隊なるものが存在していて、生徒会役員はもちろん大規模な親衛隊を持っている。アホみたいに人気な生徒であり、かつ雲の上のような存在らしく、一般生徒は容易には生徒会に近付いてはいけないのだとか。
　生徒会役員に気軽に話しかけたり、お近付きになろうものなら親衛隊からの制裁（リンチとか強姦とかもあるんだってさ）が待っているそうな。
　いやいや、ここ高校だよね？　リンチもだけど強姦とか洒落にならないから！
　とか思ってたけど、それがまかり通ってしまうのがこの学園。なんか、こういう学校のことを『王道学園』とか呼ぶらしい。クラスの男子が騒いでた。男子というか、腐男子？

　ちなみに、今更だけどここは男子校。小・中・高・大のエスカレーター式で、全国の御曹司が集っている。閉鎖的な空間と、家からのプレッシャーとかによって何をトチ狂ったのか、在校生の3割がゲイで、6割がバイ。なんとノーマルは1割に満たないらしい。もちろん俺は、貴重な1割のノーマル。いくら男女問わずモテてきた過去があろうが、男に襲われた過去を持とうが、生粋のノーマルです、はい。そこは譲れないし譲りたくない。

　周囲にいた購買に向かっていた生徒達が、わらわらと生徒会一行の後を追って食堂へと道を逸れていく。うーん、確かに気にはなる。生徒会が揃って出歩くとまぁ目立つので、基本バラバラに行動しているらしいから、全員揃って、しかもどう足掻いても目立つだろう食堂に行くなんて普通じゃありえないもんね。
　面倒ごとには巻き込まれたくない俺だけど、ちょっとミーハー心が疼く。これだけ人で溢れかえっていれば、俺なんて陰キャラは目立とうと思ったところで目立たないだろうし。
　実際は陰キャラってわけでもないんだけど、目立たないために普段はボソッと喋ったり、吃ったりの演技をしている。もちろん変装も前髪がうざったい黒髪のカツラと、マスクをつけて生活中。眼鏡も……と思ったけど、前髪で隠れてるしマスクで曇ったら嫌だしで眼鏡はやめた。
　この前髪とマスクという最強の防具によって、俺は目出度く平凡で平穏な日々を手にしているというわけ。いやほんと、平凡万歳。
　生まれてこのかた常にサバイバルのような日々だったから、今の生活が幸せでならない。誰の目も気にせず、静かに過ごせるってこんなにも幸せだったのかと、今もたまに幸せを噛み締めている。