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66.トニトゥルス国編〔3〕

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ソルム国からトニトゥルス国の王都に着くまではまだ長旅が続く。侍女も2人いる為、今回は私たちが乗る馬車が2台に分かれている。護衛の意味合いも兼ねて、男性陣のジルとラクス様は別々の馬車に乗っている。
私は基本的にジルと一緒なんだけど、マノンが私のいる馬車に同乗していることがほとんどだった。

「わ、わ、わ、私なんかが、ら、ら、ら、ラクス様と2人きりなんて……っ!!!」

と、激しく動揺したためだ。
まぁ、確かに美形のラクス様と2人きりだと緊張しちゃうかも。特にマノンは大人しいのんびりした子だしね。
私と2人きりの時間が少なくなることにジルは難色を示したものの、移動の途中からジルは新たな楽しみを見出してすっかりマノンとも仲良くなっていた。

……その楽しみっていうのが、一緒に私の髪で遊ぶことだったんだけどね……

今日も移動する馬車の中、ジルのお膝の上に座っています。あ、はい。お膝の上が通常モードです……
何せ4人乗りの馬車ですから。
私の横に座るマノンが、私の髪を何やら編み込んでいく。

「ここの部分をこう取るとですね……」
「なるほど。もう少し多めに取ると……」
「あぁ! それもいいですねジルヴェール様っ!」

あの大人しいマノンも、髪結のことになるとすっかり萎縮もせず、むしろ積極的にジルと仲良く(?)話をしている。
こんな感じで、大抵の移動の間2人から髪を弄られている。
せっせと髪を結っているマノンを横目に、ジルは私を抱え込んで髪を梳いて楽しむ日々。

……まぁ、2人の仲を私の髪が取り持ってくれたようで良かったよ。

「ふふふ。フィーリアス様、今日も素敵にできました……」

うっとりしながらマノンが見つめてくる。……マノンもなんかエステラに似てきたね……

「うん。フィー可愛い」

ジルが私を抱きしめながら、ハーフアップにされた残りの後ろ髪に口付けしながらそう言っている。
もちろん、私はまだジルのお膝の上です。

……何だかジルのお膝に座っているのが恥ずかしい、とかもう飛んでいっちゃてるんだよね……

「あ、ど、どうぞ見てください……」

マノンが鏡を出してくれる。毎回こうして出来上がった髪型を見せてくれて、その度にすご~ってなる感じ。

「……わぁ~すごい~。これどうなってるんだろう? 後ろはよく見えないけど、凄いね…!」

サイドから複雑に編み込まれ、それが後ろで纏められている。後ろ側は見えないけど、きっと凄く複雑で綺麗なんだと思う。相変わらずめちゃくちゃ上手だ。

「ありがとう~マノン」

やっぱり可愛い髪型にしてもらうとテンション上がっちゃうね!

「い、い、いいえっ! フィーリアス様に喜んで、い、いただけて、良かったです……」

最後は俯いて小さい声になるマノンだけど、照れているのか顔が真っ赤になってて可愛い。

「マノンは本当手先が器用だよね~」

私はここまで上手に結べないと思う……編み込みって本当結構難しいのよ、きっちり結ぼうと思ったら!
ちなみに、ジルはずっと後ろから抱きしめながら、私の髪を弄って楽しんでいる。

「えっ! ……いいえ……わ、私にはこのぐらいしか出来ませんから……」
「えっ!? こんなに綺麗な髪結できるだけでも凄いと思うけど……?」

何だか少し暗くなったマノンが気になった。

「……わ、私、小さい頃身体が、弱くって……いつも寝ているか、本を読んでいるかばかりで……家の役にも立っていないですし……なので、せめて手先だけは、と思って……」

ちょっとだけマノンの辛い過去が偲ばれる。

「今のマノンは、凄く役立っているよ」

私はにっこり笑ってそう言った。誰にでも得て不得手があるわけで、自分の特技をぐんぐん伸ばせたら1番いいよね。

「……大事なフィーが可愛い髪型をすることは、大切な事だからね。ありがとうマノン」
「……あ、ありがとうございます……フィーリアス様…ジルヴェール様……」

マノンは涙を堪えながら、にっこり笑ってそう言ってくれた。


ーーーやっぱり可愛い女の子は笑っているのが1番だよねっ!



♢♢♢


長旅で侍女との仲を深めている間に、トニトゥルス国へと入国した。
トニトゥルス国の王都まではまだ少し時間がかかるようなんだけど、ここからは宿に泊まっている夜中に、ジルとラクス様でこっそり抜け出して、街の様子を探りに行く予定になっている。
あまり無理はして欲しくないんだけど、どうもジルの様子から感じるに、状況はかなり逼迫しているのかもしれない。

警備の関係から、宿では私たち女3人は絶対に同室で寝るように言われてた。その間、ジルとラクス様で調査に出ているようだった。ジルと一緒に寝れないことが寂しかったりするけど、馬車でずっとジルのお膝の上だったり隣だったりするので、ジル不足まではいかなかった。

時々馬車ではジルと2人きりになることがあったので、ジルにぎゅうぎゅうして夜のジル不足を補ってたりもした。

……流石に致してはないからねっ! したこともありましたがっ! !

夜中活動しているジルが心配で、馬車で昼寝してもらったりしてたしね。
ちなみに、私の膝でお昼寝するジルの髪を撫でるのが、楽しくて楽しくて。

……その時、ジルが私の髪を弄るのを理解できたのでした……

トニトゥルス国は林業を生業にしているため、広大な国土の多くが森林だ。そのため、街道に沿って王都を目指しているんだけど、どこを通っても森林に囲まれている感じだ。
長旅を終えやっと王都に辿り着いた時は、流石に馬車は暫く勘弁な状況だった。

トニトゥルス国の王都は、『王都』という派手やかさがあまりない街だった。
林業を生業にしているだけあってその家屋はほとんどが木造で、街並みもどこか和風を連想させる。よく見ると、人々の服も何だか和装っぽい感じだ。

辿り着いた王城は、横に大きく広がった木造の建築物だった。前世日本人的な感覚で言うとちょっと懐かしい。

私は緊張しながら、馬車から降りる。トニトゥルス国の王族はわざわざ出迎えてくれていたようだ。
何人もの人が並んでくれているのが見える。

「……グローム・サンダ・トニトゥルスだ。……遠路ご苦労……」
「わざわざグローム陛下自らお越しいただき、恐悦至極に存じます。初めまして、ジルヴェール・アニマ・ウェントゥスです。ジルヴェールとお呼びください陛下」

……ジル様すごい、流石です。見事なご挨拶です……

私は、初めてお会いするグローム陛下を見て、申し訳ないけど一瞬固まってしまったのだ。


何故なら、グローム陛下はまさに、『森のくまさん』だったのだからーーー



グローム陛下は、見上げるほど大きくて、おまけに髭がもじゃもじゃでお顔がよく見えない。チラリと覗く目付きが若干鋭い感じはするけど、くすんだ金色の髪の毛に隠れてよく見えない。
とにかく、大きさといいもじゃもじゃ感といい、『森のくまさん』がベストヒットな表現で間違いない。

……っは! いけないいけない、ついつい『森のくまさん』から、某有名童謡が頭を駆け巡っていた!

「陛下自らわざわざお出迎えいただき、心から感謝致します。ウェントゥス国王太子妃を務めさせていただいております、フィーリアスと申します。フィーリアスとお呼びくださませ」
「……む。……フィーリアスか……」

にっこり笑ってグローム陛下にご挨拶をする。グローム陛下が私の名前を呟かれたのは、何故だろう。……気がついたかな? 一瞬固まってたのバレたかな?
非常にドキドキしてくる。

「申し訳ありません、父は無口なものでして……初めまして、ジルヴェール殿下、フィーリアス殿下。王太子をしております、ラアド・トネ・トニトゥルスと申します。ぜひラアドとお呼びください」
「ラアド様、ぜひ私のことはジルヴェールとお呼びください」

ラアド様は、お父様であるグローム陛下とよく似た色の髪色をしていて、これまたお父様に似たのか身長もかなり大きい。トリスティン様も大きかったけど、それよりも少しラアド様の方が大きいかもしれない。
顔付きは精悍な感じで、大きいと言ってもまたトリスティン様とは違う雰囲気だった。
1歳上なだけで私と歳がそこまで変わらないはずなのに、すごく大人びて見える。

「ラアド様、私のこともフィーリアスとお呼びくださいませ。よろしくお願い致します」

とりあえずにっこり笑って挨拶をしておく。
ラアド様が私を見て少しだけ息を呑まれたのが分かる。

「ジルヴェール様、フィーリアス様。私の弟を紹介いたします。ーーーレェイ」

ラアド様はそう言うと、後ろの方に俯き加減で佇んでいた、銀色の髪の人を呼んだ。レェイと呼ばれた人は、呼ばれると顔を上げてこちらに向かってくる。

「初めまして。ジルヴェール様、フィーリアス様。レェイ・シン・トニトゥルスと申します。遠路はるばるお越しいただきまして、ありがとうございます」

レェイ様は、非常に端正な顔立ちをした美少年だった。肩口で切り揃えられた銀色の髪が、サラサラと揺れている。確か私より3歳下の16歳のはずなんだけど、背も私よりは高くて年齢よりも大人っぽい印象だ。
にこにこして挨拶をしてくれるのが、少しだけ年相応に見えてホッとする。

「……レェイ様、暫くの間よろしくお願いします」
「はい、ジルヴェール様には一度お会いしてみたかったので、とても楽しみにしておりました」

レェイ様が屈託のない笑顔でジルに話しかけている。
おぉ、ジル。ここでもジルに憧れる弟が出来たね!


ーーーこうして私たちは、と言われたトニトゥルス国の王家と接触したのだった。
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