箱入り娘

リラン

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箱入り娘

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私は箱入り娘。
私の箱はとても大きい。
私の箱の中には欲しいものはほとんど揃っている。一生の内に使い切れないほどの物が詰まっている。
だから、不自由なんてしていない。
自由に飛べる空だって、
自由に泳げる海だって、
自由に走れる地面だってある。
快適で、居心地の良い、私の箱。
それでも箱だから壁がある。
右にも左にも上にも壁がある。
でも、ここにいる私には見えないくらい遠い遠いところにある。
遠い遠いところの壁はでっかくて固そうだけど、それを壊すためのハンマーだってここにはある。
だから、出ようと思えば出れなくもない。
でも、外の世界を見てみたいとは思うが出ようとは思わない。
なぜならこの箱の外は危険がいっぱいだから。
怖いことが嫌い、痛いことが嫌い、寂しいことが嫌い。私の周りには私に苦しみを与える人は誰もいない。
私は恵まれている。
箱の中の人だけでも充分寂しくない。
だけど、少しずつ箱の外に出て行ってしまっている。
彼らはきっと、虹を見るためにここから出て行くんだ。
私は虹なんか見なくていい。
虹なんかよりよっぽどこちらの暮らしの方がいいに決まっている。
危険を犯してまで外になんて行きたくない。
私は箱入り娘なのだから。

でも時々外の景色が気になる。
別に行きたいわけじゃない。
ただ、気になるだけ。

私の大切な人が現れた。
私を大切にしてくれる人。
大事に大事にしてくれる。
私の親じゃないのに。
だけどみんなには内緒。
みんなにばれないように会わなきゃ。
ばれたらどうなるかわからない。
否定されるかもしれない。
私は自ら箱の中に箱を作りその中に大切な人を入れた。
大事に大事にするために。
ある日、その箱の中に彼はいなかった。彼は箱の外に行ってしまったという。彼を追いかけるには箱から出なきゃならない。箱から出るには壁をハンマーで壊さなきゃならない。
でも壁を壊したら、壁を作ってくれた親に申し訳ない。
壁は私を守るための盾なのだから。
私は壊すわけにはいかない。
だが、彼がいないと私は寂しい。
どこかの偽善者がいっていた。
お前が欲しいのなら壁を壊せばいい。お前が望むなら誰も責められないだろう。それでも壊せぬのならお前は彼が本当に欲しいわけではないのだよ。どちらにするかはお前次第だ。自分のことは自分で決めろ…と
私はわかっていた。壁があるから出れないと行って逃げている自分を。
壁の方から声が聞こえる。
彼の声だとすぐわかった。
今ならまだ間に合う。
いなくなってしまう前に捕まえなきゃ。
私は壁のそばで、ハンマーを持っている。壊せば誰かに責められる。崩れた壁は二度と戻らない。
怖くなって、ハンマーを捨てた。
これで壁は壊せない。
でも私は、外に出る方法をもう一つ知っている。外に繋がっているという海があるのだ。そこから泳いで外に行けるらしい。根拠はない、あくまで誰かが言っていただけ。
私にはエラがない。もし泳いで外に行けなかったら。私は溺れ死ぬだろう。そんなのいやだ。そこまでするくらいだったら彼なんていらない。
私は壁の外にいるであろう彼が壁の外で笑っている。
もう、彼には私は必要ないのだ。
じゃあ、もう忘れよう。
胸が痛いが仕方ない。いつかはくる別れだと知っていた。彼はここの住人ではないもの。私の箱の住人は私だけ。でも、この箱の中に入ってきてくれる人がいる。私以外には壁は関係ない。出入りが許されないのは私だけ。この箱は私だけのものだから。
諦め掛けていたとき、彼は私に会いに来た。彼は私に手を伸ばし、一緒にここから出ようと言ってくれた。
でも、私は怖かった。ここから出ることが。ここの壁を壊すことが。
怖くなって、彼の手を掴めなかった…

私は彼から逃げた。現実から逃げた。彼との未来から逃げた。
逃げて逃げて、逃げていたら寂しくなった。彼に会いたくてたまらない。でも、このまま待っていれば彼は会いに来てくれるかもしれない。そんな馬鹿なこと考えていた。だから、私は気付けなかった。彼の気持ちに…
彼は私を見失い。原因がわからず途方にくれた。何がいけないのか何が悪かったのか。ただただ一人の人を愛していただけなのにと泣いた。その時虹を見つた。綺麗な虹に心は揺れる。そして虹の住人のある一人の女性に恋をした。彼は、私から得られなくなったものを彼女にすがった。私はそれを知らずに、ただただ彼から逃げていた。バチが当たったのかもしれない。彼を傷つけたから…
彼は私にこういう。
「俺には君よりも大切な人ができた。君を嫌いになったわけじゃない。ただ1番じゃなくなったんだ。」
私は自分を責めた。馬鹿な自分を。愚かな自分を。なぜ手を掴まなかった。なぜ彼から逃げた。あんなに愛してくれたのに。あんなに大事にしてくれたのに。後悔しても彼の目に私の姿は移ることはない。私は泣いた。ただただ泣いた。泣くしかできなかった。彼は泣いた私に優しかった。何故怒らないの?何故責めないの?彼の優しさは私の心を切り裂いていく。やめて、触らないで。あんなに触れたかった手なのに、振り払わなければならない。だって触られたら、触れたくなってしまうから…
もう、その手で私の頭を撫でてはくれないのね。もう、その手で私を抱きしめるてはくれないのね。もう、あなたには触れられない。あなたに何かを求められない。もう、私だけのものじゃない…私の世界は白黒になった。色付いていた私の心から色が抜けていく。ばらばらと落ちていく。諦めようと、別れようとしていたのは私なのに。いざあなたから別れを告げられると頭の中が真っ白になる。何も考えられない。何をすればいいかわからない。わからないよ…だって、あなたが私を思ってくれていることが当たり前だったのだから…その当たり前が崩された瞬間。私には何も残らなくなる。
ちっぽけな私は大きな箱の中に一人残された。
寂しい。寂しい。
泣いても、泣いても、誰も来ない。
大声で叫べば誰かが来るだろうか?
助けてと叫べばこんな私を助けてくれるだろうか?
自業自得の、哀れな私に…

ある日、私はパーティーを開いた。
それはそれは盛大なパーティーだ。
そのパーティーは3日間まで続き、終わることを知らない。みんなの楽しそうな笑い声、私の楽しそうな笑い声。あぁ、なんて楽しいんだろう。こんなに楽しいなんて知っていれば何日だって、何週間だってしていたい。そう思った。私は毎日のようにパーティーを開いては人を集めた。もう笑顔しかできないくらいに、笑って笑って楽しくやっていた。でも、次第にそれが辛くなってきた。笑っていることが、楽しいなと思わなくてはならないこの空気が。笑いたくもないのに口角を上げ、悲しくても泣けないこの空間が居心地が悪くて仕方がない。私は何に笑っているのか、何がそんなに楽しくて笑顔でいるのか…わからなくなってぐちゃぐちゃになる。パーティーははまだまだ続く。
耐えられなくなった私はまた逃げた、遠く遠く。もう二度とあの笑い声の聞こえないところに。私の涙がバレないところに。大声で泣いても気づかれないところに。
でも、そんなところは存在しなかった。









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