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第一章 楼桑からの使者
3-⑭
しおりを挟む次の瞬間、ユーディの口から烈火の如き勢いで怒声がほとばしりはじめた。
「その方らの言葉聞き捨てならんぞ、それではまるで娘がなにかをねだってでもいるかの如き言いようではないか。申しておくがわが娘に限って爵位がどうの、身分が不足だなどと卑しいことを申すことは絶対にありえぬ。それにラフレシアは物ではない、あちらにやるだの、こちらに片付けるなどとはどういうおつもりか。方々にはいらぬ心配をさせておることもあって、遠慮をしているのをよいことに、まるで淫婦並みの下賤な女にでも対するような話しぶり、わが娘は前の大公妃と呼ばれる立場じゃ、その方らにいいように扱われるような下賎な身分ではない」
いつも物静かで口数の少ない彼にしては、珍しいことであった。
「このような状況では、わたしはもうあなた方と同じ重臣の列に連なる気も失せた。方々で好きにされたら良かろう。臣下の身で公太后たる娘を目の前にしても、先程のような言葉を発することがおできになるか、さあ試してみられよ。すぐにでも娘を呼びに行かせますぞ」
ユーディがみなを睨み付ける。
「ましてやその言い様は、フィリップ伯に対しても蔑んでいることになろう。爵位を餌にされて、厄介者の女を後妻に娶った男とでも囃し立て笑うつもりか。それを聴いたらおとなしいフィリップ伯はさておき、あの忠義にかけてはサイレン屈指と言われておる、赤鬼グラームス男爵をはじめとしたバロウズ騎士団の武辺者どもがどのような顔をするか、考えただけでも寒気がしてくるというもの。一度猛りだしたら止めることなど無理であろうな、彼らの忠誠は大公にもサイレンにもなく、主人たるバロウズ伯のみに捧げられておる。方々の命など屁ほどの価値もあるまいよ」
彼の言葉は、ますます勢いを増して行く。
「よいか、ものの言い方にはお気を付けられよ。わたしとてキャメロン辺境伯と呼ばれる身だ、矜持を傷つけられてまで黙ってはおらぬ。場合によっては覚悟があるぞ」
ここまで一気にまくし立てたユーディは、室内に居並ぶすべての者をぐるりと見まわした。
どんな時も控えめで温厚な彼にしては珍しく、強く荒々しい言葉使いであった。
まだ怒気で全身が小刻みに震えている。
そうなって初めてネール、トリキュスの二人は、自分たちの会話がいかに不適切で侮辱的な内容であったのかに気付き始めていた。
しかも初めて目にするユーディの凄まじい勢いに、完全に気圧され顔面を蒼白にさせたまま固まってしまい、詫びの言葉を言うことさえ忘れてしまっているようすである。
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