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第一章 楼桑からの使者
3-⑫
しおりを挟む「そうなると問題は、当のフリッツ殿下とラフレシアさまのお心じゃな」
みごとに禿げあがった額をつややかに輝かせ、でっぷりとした体躯をかがめるような姿勢にして座っている、内務卿のビンスウェルの言葉はみなの心中を代表するものであった。
「ここはひとつユーディ殿に働いてもらわねばならぬな。いかがかなユーディ卿」
「わかっております。娘ラフレシアのことはお任せください。必ずやご一同の期待に添う方向でまとめまする。あの子もそのことは重々承知しておるはずです」
情報総監ネールの問いに応えるユーディの瞳は、誰から見ても暗く落ち込んでいるように感じられた。
身体中に鉛の鎧でも着せられているような表情で、その痛々しさは見るに堪えないものであった。
「やはり家柄・人柄からして、フィリップ伯の後添えになって頂くという線が最良策となろう。サイレン五名家の一つバロウズ湖水伯婦人、これ以上の嫁ぎ先はわが国の中にはあり得ぬ。おのおの方いかが考えられる」
ネール総監は事務的で感情を抑えた、中性的ともとれる独特なしゃべり方をする癖がある。
重臣たちの中では四十代前半と比較的若く、両端を跳ね上げた個性的な黒い口髭をたくわえていた。
髭の色と同じ漆黒に輝く眼光の鋭さは、見る者に猛禽類のような印象を与える。
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