アンドローム ストーリーズ（聖大陸興亡志） 第一巻「運命の婚礼」前篇

第一章 楼桑からの使者

３－⑩

　

　ボルス・ヴァン＝デュマ侯爵、サイレン公国軍上級大将・聖龍騎士団第一大隊を率いる筆頭大隊長の肩書を持つ。
　聖龍騎士団総帥のフェルホッペン上級大将が病に臥せっているいま、実質上ダリウスに次ぐサイレン軍の二番手の地位に付いていると言えよう。

　近衛騎士団第三隊指令であるブルースの長兄で、マクシミリオン家に匹敵する大武門貴族、デュマ家の現当主である。
　父である元聖龍騎士団総帥コルデスが謎の病に斃れたあと、その爵位を継いで三年になる。

　弟ブルースには及ばぬものの、人より頭一つ抜きんでるほどの長身の持ち主であり、やや痩せ気味ではあるが、気品と雅さを兼ね備えた容貌は、まだ独身と言うことも相まって、幾多の宮廷女たちの憧れの的となっている。

　戦略においてはサイレン軍でも群を抜いた才能を持つと噂され、知勇を兼ね備えた、理想的な武人と専らの評判であった。

　どこまでも深く青く力強い瞳を持つ弟ブルースに比べ、兄の瞳は紫かかった薄いブルーで、見る者に知的で涼やかなイメージを与える。
　すっきりと通った鼻筋から口元にかけての線は、女と見まごうばかりの繊細さと美しさを持ち、一見すると武人というよりは学者のようにさえ見える。

　実際本人はできうるならば戦を生業とするよりも、建築家になりたかったのだと人に語っているほどだ。
　誰も知らぬことではあったが、実際に彼はやがては弟にいまの役職を譲り、本当に建築家となることを考えているようである。